第4回 認知症を予防するには(その2)生活習慣の改善から

昨年は、あの忌々しい災害に多くの不幸を体験しました。新年のご挨拶に、一つの詩をご紹介します。

 『 何となく 今年は良い事 あるごとし 元旦の朝晴れて 風無し (啄木) 』

 今年は、みなさまにとって良い年であることをこころから祈念いたします。また昨年から開設しました「ユッキー先生の認知症診察室」を今年もよろしくご支援ください。

この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 認知症の「辛い」思いを防ぐために - 今日から始めましょう
  2. これまでの研究から見えてきた「予防法」
  3. ユッキー先生のアドバイス

認知症の「辛い」思いを防ぐために - 今日から始めましょう

現在認知症の人は、200万人を越え、高齢者人口の増加に伴い、ますますその数が増える事が予想されています。これはもう特殊な病気ではなく、誰もが罹る一般的な病気と言わざるを得ません。よく「認知症の人は、何も分からないから幸せよね」などという人がいますが、決してそうではありません。無論、周囲の人たちにとって、その対応やケアは大変ですが、ご本人もやはり辛いようです。

ちょっと考えてみましょう。例えば大切なものが見つからない時、大切な人の名前が思い出せない時、人との大切な約束を忘れて、その人に迷惑がかかった時、どれも辛い体験として残ります。認知症の人はそのような体験を毎日繰り返している、と考えると、その人の気持ちはとても辛いことが理解できます。

そこで、「最近もの忘れがひどい」と感じている方、「認知になりたくなーい」と思っている方は、その予防対策を今日からでも始めましょう。

これまでの研究から見えてきた「予防法」

第3回のコラムでも申し上げましたが、高血圧と糖尿病はアルツハイマー型認知症の危険因子の一つです。これらは生活習慣病の代表的疾患ですので、生活習慣病の予防がアルツハイマー型認知症の予防につながると言っても過言ではありません。

実際に食事、運動、睡眠、嗜好などは、生活習慣病の発症予防に関連しますが、これらがアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症などの予防にも関連することが、学術誌等の論文に紹介されています。

食事に関しては、ビタミンEの多い食物はアルツハイマー型認知症の発症を抑制するとの結果が報告されています。一方でビタミンEのサプリメントは予防効果が疑わしいとの報告もありますので、サプリメントに頼るのでなく、食物からビタミンEをとりましょう。その他には、ビタミンB群、ビタミンC、βカロチン、カルシウム、亜鉛、鉄などのミネラルなどの摂取が少ないこと、逆に総脂肪、飽和脂肪酸、コレステロールなどの脂質の摂取量が多いこと、が認知機能の低下に影響することが報告されています。

食事以外の認知症予防にヒントを与えてくれる幾つかの調査結果があります。福岡県久山町で行われた7年間の健康調査では、身体活動の活発な人はアルツハイマー型認知症に比較的なりにくいこと、さらに米国の研究では 「新聞を読む」「雑誌を読む」「ゲームをする」「博物館へ行く」などのことを日常よく行っている人は、比較的アルツハイマー型認知症を発症しにくいことがわかりました。

日本の研究者の報告では、認知症予防を目的とした認知機能を活性化する活動プログラムがエピソード記憶や注意機能の改善に関わったことを報告しています。具体的には、旅行の計画を立てる、新しい料理のレシピを考える、コンピューターを習う、等が挙げられています。

その他に睡眠障害や睡眠不足は注意力を冒すことから十分な睡眠をとることが有益と言われています。30分未満の昼寝習慣を持つとアルツハイマー型認知症の発症を有意に低下することが報告されています。

また、アルツハイマー型認知症の予防のために、規則正しい食生活と睡眠スケジュール、毎日の軽い運動、朝起床後に2時間以内に太陽の光を30分以上浴びることを提唱している研究者もいます。

喫煙に関しては、その予防効果に賛否両論があります。記憶に関わる神経の伝達物質がニコチンにより活性するとの報告から、ニコチンをアルツハイマー型認知症の治療として提案されたことがあります。しかし喫煙の予防効果については明確な結論は得られていません。いずれにしても喫煙は、高血圧、脳卒中、心臓病、肺がん等多くの生活習慣病にも関連していますので、控えるべきでしょう。

ユッキー先生のアドバイス

学術的な研究結果から、根拠のある予防法を紹介しました。では、具体的に普段の生活で、どのような事に気付けば良いのか、アドバイスしましょう。

【食事に関して】
○ 野菜を多くとるようにしてください。どんな野菜でも結構です。普段の食事で野菜を十分にとっている人は、そうでない人に比較すると、アルツハイマー型認知症に罹る率が3分の1少ないようです。

○ お肉よりも魚を食べましょう。特にアジ、サバ、サンマ、イワシと言ったいわゆる青魚が良いようです。これは魚の脂のDHAが脳の活性に良いという研究結果に基づくものです。報告では、DHAを多く含む魚をよく食べている人は、食べていない人に比較してアルツハイマー型認知症に罹る可能性が6分の1に抑えることができると言われています。

○ たまにはワインでも飲んで食事を楽しみましょう。特に赤ワインは、そこに含まれているポリフェノールが脳の活性に良いと言われています。日本酒もよい、との報告もありますが、いずれにしてもアルコール類は飲み過ぎるとアルコール性認知症になってしまいますので、ほどほどにしてください。

○ コーヒーや緑茶を飲んで、ちょっと一息を入れましょう。オランダの国立研究所が1日3杯のコーヒーが脳の活性化に良いと報告しています。コーヒーに含まれるカフェインやマグネシウムが認知機能に良いようです。コーヒーが苦手な方は、1日2杯の緑茶でもよいようです。

【有酸素運動】
○ 散歩は全身の血流をよくして、細胞を活性化します。一日1回は散歩してリフレッシュしましょう。どのくらいの量の散歩がよいかは研究者によって異なりますが、30分位がよいようです。その際には、ぜひ楽しみながら散歩してください。周囲の風景や出会いを楽しみに散歩しましょう。

【ゲーム、楽器の演奏、ダンス、人と交わる】
○ 大いに楽しんでください。いろいろな楽しいことを見つけて、認知症予防という目的でなく、人生の楽しみとして熱中してください。このように熱中できる趣味などを持っている人は、毎日陰鬱な生活を送っている人よりもアルツハイマー型認知症に罹る可能性が3分の1に抑えられています。

○ 人とおしゃべりしたり、趣味を一緒にしたり、他人との会話を持つことやいろいろな目的で交わる事は、認知症の最大の予防法です。このように人と交わる事で充実した生活を営んでいる人は、孤独で閉鎖的な生活を送っている人に比べるとアルツハイマー型認知症に罹る可能性が8分の1に抑えられていることが分かったのです。

これまでの4回は、認知症を一般の方に理解していただく為のコラムと私たちの身近な事としての認知症予防について述べてきました。今後も認知症に関わる情報について、その都度、このコラムでご紹介します。

次回からは、私が診療しているもの忘れ外来の診察室から、認知症に関する医療、介護、福祉の様々な問題を取り上げたいと思います。このコラムを通して、認知症の人やご家族の方、さらに多くの人たちの認知症への理解と正しい対応に少しでもお役に立つようにと意気込んでおります。ご期待ください。

2012年正月  今井幸充

(2012年11月2日)



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