第67回 家族の心境:お願いしているから文句は言えない

認知症の人を世話する家族からよく聞く話として「介護をお願いしているから、文句は言えない」といったプロの介護者に向けた愚痴があります。デイサービス、ショートステイ、入所施設等の介護スタッフに、苦情や要求は言えない、ということです。確かに家族にしてみれば、面識の全くない人に、排泄や入浴といった大変な介護をお願いする訳ですから、その対応に不満や文句は言えないと思う気持ちは理解できます。

このような複雑な気分になった時に、家族はどのように対応すればよいのでしょうか。このコラムで考えてみましょう。
この記事の目次
  1. 認知症の人の状況
  2. 家族の心境
  3. プロの介護者側の心境
  4. 家族がすべきこと
  5. ユッキー先生のアドバイス

認知症の人の状況

具体的な例を挙げましょう。比較的多いのがショートステイを利用した時に、認知症の人が「家に帰る」と騒ぎだす例です。暴言を吐き、時には介護スタッフや他の利用者に暴力を振るい、夜間でも横にならず徘徊している状況となると、施設から「困ります」との連絡があり、夜中でも迎えにいかなければならない話をよく聞きます。

やっとの思いでデイサービスに参加してくれた、と思っている時に、その施設から「ここではお預かりできません」と参加を断れることがあります。その理由は、デイサービスのプログラムに興味を示さない、他利用者とのトラブル、指示に従えず勝手な行動をする、などの本人の行動にスタッフ側が対応できないということです。

介護施設に入所している認知症の人が、スタッフに暴言や暴力を振るう、施設から抜け出してしまう、夜間徘徊する、他入所者とトラブルが絶えない等々、本人の日々の困った行動に対しての報告では、「施設で対応できない」といった雰囲気を家族は感じてしまいます。

上記の例は、認知症の人の困った行動に対するスタッフの報告ですが、家族は苦情と受け取ってしまいます。しかし、家族には、その報告にどのような対応をしてよいか、良策がありません。ただ、「すいません、ご迷惑をおかけします、よろしくお願いします」と謝罪するしか手立てはありません。

訪問介護を利用している介護者の夫の話です。ヘルパーが家事援助のために朝9時30分に訪問することを決めたのですが、2週間ぐらい経ってから、サービスの開始が約1時間近く早くなり、時には8時前の訪問もあったようです。介護者の夫は、朝食の支度をして、妻を起こし、朝食を食べさせたりするので、決められた時間に訪問するようにお願いしたのですが、ヘルパーの都合から8時の訪問をしかたなく承諾したそうです。

デイサービスやショートステイあるいは介護施設での本人の処遇に不満が生じても、家族はそれをなかなかスタッフに言えないようです。例えば、入浴、排泄、着替え、食事の介助などは、施設のやり方があるので従うしかない、と思っているようです。例えば、異性スタッフの入浴、着替え、排泄等の介助には、家族として抵抗があるのですが、それをやめることを言い出せないようです。

家族の心境

認知症の人の大変な介護をお願いした家族と、それを引き受けたプロの介護者との立場を考えると、どうしても家族は弱い立場と思ってしまいます。施設の介護者に迷惑をかけているのではないかと、いつも心配し、ましてや暴言や暴力など、自宅では考えられなかった行動に及んだ報告を受けると、申し訳ないと思う気持と同時に、認知症の人への憎悪感が沸き上がってきます。

家族は、職員に「困ります」と言われても、どのように対処したらよいのか戸惑い、その場の対応として、ただ謝るしか考えられません。また場合によっては、家族が「自宅に連れて帰ります」と言ってしまうことも多いようです。しかし、家族のそのような態度は、真意と思えません。むしろ家族は、介護者への不信と施設への不信を抱き、さらには、本人への憎悪の感情が増し、追い詰められていくのではないでしょうか。

私の外来臨床でよく経験するのが、施設職員が家族と同席して、本人の困った行動を説明し、医療的に何とかならないか、と懇願する場面です。施設職員の真意は、「向精神薬で鎮静させ、場合によっては入院させてほしい」との希望のように思います。その話を聞いている家族は、ただ「お願いします」と私に頭を下げるのです。施設職員に退席を願って家族の真意を尋ねると、「文句は言えません」と肩を落とし、そして「人質に取られたようなものですから」と投げ捨てるように言います。

家族の中には、サービス利用前に本人の認知症の状況を詳しく説明し、困った行動も多々あることを伝え、それを承知のうえで引き受けたと思っていましたので、施設の対応に不信を抱きます。「お困りですね、施設に任せてください」「なんとか対応しますから安心してください」と言って引き受けたのに、実際にお願いすると、「困ります」では、納得できない、と訴える家族の気持ちも理解できます。

プロの介護者側の心境

デイサービス、ショートステイ、入所サービスなどの施設サービスが始まった矢先に予期しなかった本人の異常な行動の出現は、実際に施設内で介護しているスタッフを大いに困惑させてしまいます。多くの施設では、サービス利用に際して、専門スタッフがサービス内容を説明し、家族から本人の状態についての情報を得て、問題なければ受け入れを決定します。それゆえ、介護現場の職員には、利用者の情報を利用当日に知らせることが多いようです。

現場のスタッフは、サービス開始前に入手した情報と異なる異常な行動に戸惑い、その対応に苦慮します。特に夜間は、職員の数も少なく、他の利用者の対応に追われることも少なくありませんので、現場スタッフは、つい家族や上司に愚痴を言いたくなります。

スタッフのケア方法に不満を訴える家族がいますが、現場スタッフの多くは、その不満を理解できない事が多いようです。何故なら、毎日行っている介護行為は、どのスタッフも他の利用者に行っている行為と同じと認識しているので、家族の要求は特殊なもので、受け入れがたいものです。しかし、家族にしてみれば当然の要求なので、施設の対応に違和感を持つのです。

介護スタッフの介護意識は、個々で異なりますので全てのスタッフが同じ意識をもって介護しているとは限りません。同じスタッフが行っている行為でも、利用者によっては満足し、また反対に立腹することもあります。スタッフ側にしても、本人や家族の態度に好感を抱くこともあれば、違和感を抱くこともあります。すなわち、介護をする側と介護をされる側との立場が異なることから、時に、それぞれにわだかまりが生じるのです。

家族がすべきこと

本人をプロの介護者に任せることは、家族が何もしない、何も言わない、ことではありません。家族ができない事、しなくてもよいことをプロの介護者に任せ、家族ができることは家族が行うのが介護のシェアです。

家族は、食事、着替え、入浴、トイレなどの毎日の生活の営みの中で、本人のできること、できないことをサービス利用前に情報として伝えます。多くの施設では、これらの行為を「できない」「失敗する」と考え、過度に介助することがありますが、それを「馬鹿にされた」と怒り出す認知症の人もいます。それゆえに、介護スタッフに伝える情報の中には、本人の嫌いな事、嫌がること、さらには本人が喜ぶ対応なども伝えておくことが重要です。

困った行動の主な原因は、本人の不安です。この人は誰なのか、ここはどこなのか、何をされるのだろうか、家族はどこにいるのか、この先どうなるのか、さまざまな不安感が攻撃性や被害妄想に発展して、スタッフを困らせます。そこで不安解消のための策を講じる必要があります。

家族が念頭に置くことは、デイサービスの初めての参加日に家族が同伴すると不安解消になること、ショートステイの利用は徐々にお泊りの日数を増やし、また家族が必ず迎えに来るという安心を持つような努力をすることです。介護施設の入居時は、本人に入居しなければならない理由を説明することが重要です。また、家族が必ず面会に来ることを約束し、当初はできるだけ面会の回数を多くし、見捨てられ不安の解消に努めます。

施設環境のこと、介護スタッフの処遇、リクリエーションや施設サービスに関することで気づいたら、心にとどめておかないで介護スタッフに伝えてください。その際、苦情ではなく、本人のより良い環境作りのためにスタッフと話し合う、という意識をもって対応してください。たとえば、入浴時間の変更の要求は、現場スタッフとして、その場しのぎの対応しかできません。

スタッフには、「家庭では夕食前に入浴していたのでそのようにしてほしい」と直接希望を述べるより、今の入浴時間で本人が拒否したり迷惑をかけたりしていないか、と尋ねてみてはいかがでしょうか。特に問題なければ施設の方法で継続すれば良いのですが、入浴拒否等の説明があったら、家庭での様子を話し、スタッフと良い対応方法を話し合ってください。

家族がすべきことは、家族の希望を叶える努力ではなく、本人がサービス利用時に安心して利用できる環境作りです。その思いは介護スタッフも同じで、利用者に心地よい環境を提供しようとしています。その心意気を理解し、スタッフが働き易く、また本人が喜ぶ方法を家族とスタッフで遠慮なく話し合ってください。

ユッキー先生のアドバイス

様々な介護保険サービスの有効利用は、在宅介護の負担を軽減し、家族と本人とが良好な関係を続ける手段です。その時、家族は「弱い立場」などと考えず、家族の希望を率直に述べてみてください。「お願いしているから文句は言えない」と思う気持ちが続くことで、家族とプロの介護者との介護をシェアする関係が崩れ、お互いに押し付けあう関係に変わってしまいます。

認知症の人の世話は、家族が一人で出来ることではありません。他の家族やプロの介護者と介護をシェアしながら行うことが求められます。家族の役割として、プロの介護者と介護をシェアする前に、本人の歴史やこれまでの生活環境、得意や不得意、好き・嫌いなどの様々な情報を正確に伝えることです。


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