第85回 家族の疑問1:なぜ認知症の介護は大変なの?

先日、オレンジカフェという認知症の人やその家族が地域の公民館に集まって、認知症ケアについて話し合う会に参加しました。その時のご家族からの質問をご紹介し、介護者が普段疑問に思っていることについて考えてみます。

≪ご家族からの質問≫
81歳の夫(アルツハイマー型認知症)を世話している妻(78歳)からの質問です。
「この頃、夜になると『家に帰る』と外に出ようとします。私が止めるのですが、その時、私の腕を強く握り、また殴ろうとするのです。止めないと家に帰れなくなり、これまでも2回警察に捜索願を出し保護して頂きました。認知症の介護はどうしてこんなに大変なのでしょうか」
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 大変な理由
  2. 第一の要因:BPSD
  3. 第二の要因:日常生活の障害
  4. 第三の要因:介護者側の要因
  5. どうすればよいのか、大変な介護
  6. ユッキー先生のアドバイス

大変な理由

第一の要因:BPSD

一般高齢者にはない認知症の人の介護で大変なことは、行動・心理症状(BPSD)と言われる困った行動への対応です。BPSDには、徘徊、易怒、攻撃、暴力、収集、異食行為、弄便、弄火などの異常な行動や、幻覚・妄想、不安、抑うつ、不眠、多幸、興奮などの精神症状があります。これらは、アルツハイマー型認知症の約80%以上に出現すると言われていますが、他の認知症にもみられ、重症度にかかわらず出現します。

認知症の人は、記憶力をはじめ理解力や判断力などの能力が障害されますので、自身の行動の良し悪しを判断することができず、思うままに行動してしまいます。それゆえに、家族はその行動を注意し、やめさせようとするのですが、認知症の人は、反発し、怒りを露わにします。その対応に家族は「認知症の世話は大変」と感じるのです。

第二の要因:日常生活の障害

ADLとは日常生活動作のことで、食事、トイレで排泄、入浴、着替え、整容などの日常の基本的動作を言います。更に日常の複雑な行為をIADL(手段的日常生活動作)と言い、買い物、料理、金銭管理、交通機関を利用した遠出などの行為を指します。

認知症では、このIADLやADLに障害され、日常の生活が一人では営めず介護が必要になります。初期には、IADLに支障をきたし、毎日の買い物や銀行でのお金の出し入れなど、今までできていた生活活動に混乱が生じ、支援が必要になります。更に認知症が進行するとADLに支障をきたし、身の回りのことができなくなります。

特に、ADLの介護は、毎日欠かせないので、介護者のほとんどが大変に思うようです。その代表的なものが排せつの介助ですが、大小便の失禁を伴うとさらに大きな負担を感じます。また入浴、着替え、食事といった介助も、毎日しなければいけないことですので、認知症の介護は大変と思わせる要因です。

第三の要因:介護者側の要因

自宅で家族が認知症の人を介護する場合は、認知症の人とその家族との関係性が介護負担感に影響します。例えば、配偶者や子、あるいは子の配偶者などの関係の違いや、同性か異性かによっても大変さの感じ方が異なります。

家族の健康状態にも影響します。慢性的な病気や身体に障害がある家族は、介護の大変さを強く感じます。また同じ人が毎日の介護に携わりますので、時には体調を崩すこともあり、また生活上の問題を抱えることもありますが、そのような時にも普段より「介護は大変」と感じます。

認知症の介護はお金がかかります。認知症の人が貯えている額で家族の経済的負担は異なりますが、家族にとっては避けられない負担です。介護保険サービスやその他の社会資源を利用することによる負担、更に施設入所の場合は、毎月莫大な費用が必要です。このように経済的な負担も認知症の介護が大変な要因の一つです。

家族の中にも、介護の上手な人や好きな人、あるいは下手な人や嫌いな人がいます。当然ですが、後者の介護者は、その負担感を強く感じ、「介護が大変」と思う度合いが大きいでしょう。介護には愛情が必要とよく言われますが、愛情の深さと介護の上手・下手は全く関係なく、介護する人の素質や生活環境の問題です。

どうすればよいのか、大変な介護

BPSDの原因を見つけることは、むしろ困難と言ってよいでしょう。困った行動を止めようとして、説得、制止または叱責することは、かえってそれを増悪させてしまいます。まBPSD出現は、本人の不安感がその症状出現に係わることが多く、安易に「大丈夫よ」などと声を掛けると、かえって不安を煽ることにもなります。

家族は、異常な行動に翻弄されず、毅然とした態度で接することが大切です。危険がない行為であれば見守り、誹謗・中傷の言動は聞き流すことも必要です。また冒頭に紹介した質問のように、夜間家を飛び出るような行為は危険ですので、本人には「夜は危ないからやめてください」と明快に声掛けし、静止して下さい。暴力に対しても、余計なことを言わず、落ち着いた口調で「やめてください」とお願いするつもりでしっかりと制止してください。それでも困った行動が続く場合は、環境を変える意味で、ショートステイやデイサービスを利用することも一つの手段です。

第三の要因にも関連しますが、家族の中には、排泄、着替え、入浴といった身の回りの介護の得手・不手があります。まずは、自身で介護が上手か下手か自問することです。私の場合、母親の排泄、着替え、入浴といった身の回りの世話は、初めからできませんでしたので、地域のグループホームに入所をお願いしました。

介護を始めてみて、自分は介護が上手なのか下手なのかに気付きます。また、介護することが好きか、嫌いかも分かります。介護が下手な人、嫌いな人が無理に介護を続けようとすると、負担感が増し、本人を避けるようになります。認知症の人は、その態度を察し、反発し、怒りや興奮といった異常な行動で自分の気持ちを表そうとします。

介護が上手な人でも、認知症の人の介護を何もかも一人で行うことは困難です。しかし、現在のような核家族では、必然的に一人の家族が担うことになります。そこで、介護をシェアするという考え方を実行してみてください(第64回コラム:お世話のコツ~10箇条~参照)。すなわち、家族ができないこと、やらなくても良いことはプロに委ね、家族にしかできないことは、家族が行うことです。例えば、排泄や入浴などADLの介護は、プロに任せることができます。

プロの介護者にできないことは、認知症の人の家族になることです。すなわち、身の回りの介護を見知らぬ他人に委ねることで、本人は「(家族に)見捨てられた」と不安を抱きます。プロに任せても、認知症の人はいつまでも家族が傍にいてほしいのです。そこで、「見捨てられた」の思いをさせない配慮が必要で、それは家族にしかできません。

いずれにしても、家族が毎日の世話に負担を感じ続けると「この人がいなければ」と思うようになります。それは最悪で、両者にとってとても不幸なことです。このような感情は、家族自身も介護をする以上に精神的苦痛です。大変な認知症の介護を最後まで一人で完結できる人はごく稀です。介護をシェアすることを念頭に、無理せず、大変なところはプロに任せ、認知症の人との絆を大切する事は続けて下さい。

ユッキー先生のアドバイス

認知症の介護で最も悲惨なことは、家族との絆が失われてしまうことです。親や配偶者として長年一緒に生活してきた人が、認知症となり、自分が世話をしなければならないと始めた介護がうまくいかない時のショックは、大きいものです。

愛情が足りないから介護ができない、ということは決してありません。家族がしなくてもよいこと、できないことは、プロの介護者にお願いし、家族がしなければいけないこと最大限に努力して下さい。それが家族の絆を守り続けることです。



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