第73回 レビー小体型認知症と診断されたら~その経過と対策~

レビー小体型認知症DLBの頻度は、全ての認知症の10%から30%と幅広いのですが、近年アルツハイマー型認知症ADに続く頻度として注目されています。病初期にDLBと診断することは意外と難しく、パーキンソン病やうつ病などと診断されることが多いようです。また初期症状がADと異なりますので、その対応に戸惑う家族も見られます。

このコラムでは、前回のADと血管性認知症VDに引き続いて、DLBの経過とその対策について説明しましょう。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. DLBが進行する理由
  2. DLBの経過
  3. DLBの対応
  4. ユッキー先生のアドバイス

DLBが進行する理由

DLBは、レビー小体が大脳や脳幹に蓄積して発症するといわれています。このレビー小体は、αシヌクレインと言われるたんぱく質で構成されていて、パーキンソン病PDにも関与します。DLBとPDは、症状は異なることが多いのですが、兄弟関係と言ってよいほど密接に関連しています。

αシヌクレインの異常な蓄積は、腸管の神経叢から始まり、延髄にある迷走神経背側核から、さらに上層の脳幹部の橋にある青斑核、そして中脳の黒質を経由して、大脳辺縁系(だいのうへんえいけい)から大脳の表面の新皮質に拡散していきます。すなわち、αシヌクレインの塊のレビー小体が脳の各部の神経細胞を破壊することで、脳のさまざまな機能が冒されます。

レビー小体が大脳の付け根部分の中脳にある黒質に蓄積されると、黒質にあるドパミン神経細胞が破壊され、PDに発展します。PDは、安静時の振戦(手などの振え)、動作の開始がスムーズに動けない寡動、関節の動きが悪くなる筋固縮(筋強剛)を主症状とします。当初は歩行時のすくみ足(歩行開始時に第一歩を踏み出せない)、小刻み歩行、前傾姿勢、突進歩行など、歩き方に特徴がみられます。また、顔の表情が仮面様となり、発音も障害され、文字が小さくなる書字障害がみられます。

一方DLBは、レビー小体により黒質の細胞も破壊されますが、パーキンソン症状が出現する前に、中脳から大脳辺縁系にレビー小体が拡散し、またアミロイドβ蛋白の増加も加わり、認知機能低下が最初に現れます。そして、ほぼ同時か、少し遅れて、黒質内にレビー小体が増加し、パーキンソン症状が出現します。すなわち、DLBにパーキンソン症状が見られるのは、PDと同じメカニズムによると言えます。

αシヌクレインは、正常の加齢でも見られ、その量も加齢とともに増加します。また、ADやパーキンソン症状をきたす進行性核上麻痺や皮質基底核変性症といった神経疾患でも認められます。大脳皮質のアミロイドβ蛋白の蓄積量と大脳中心部の大脳辺縁系内にαシヌクレインの量が多くなると、認知機能の低下が促進されると考えられ、この状態でDLBが発症します。

一方、PDの中でも、その進行過程で認知機能が低下し、認知症を伴う例が20~30%見られます。すなわち、黒質内の神経細胞がレビー小体により破壊され、パーキンソン症状が出現した後に、症例によっては、レビー小体が大脳辺縁系に蔓延し、アミロイドβ蛋白の増加も加わり認知症を併発するのです。

以上のように、DLBの進行は、神経病理学的に、レビー小体とアミロイドβ蛋白の量に関係することがこれまでの研究で明らかにされました。しかし、レビー小体と認知症との関連が注目されたのは、1970年代後半頃からで、1995年の国際ワークショップでDLBが疾患名として提唱され、その歴史はわずか25年余りと大変新しい概念です。それゆえ、今後の研究により新たな知見が発見されることも十分考えられます。

DLBの経過

DLBの進行過程も他の認知症と同様に、初期、中期、末期の3期に分けますが、発症から認知機能低下が明らかになるまでの時期を前駆期と位置付けることもあります。第18回19回20回のコラムをご参考ください。

DLBの経過や予後は、レビー小体の脳内出現部位により症状が異なりますが、ここでは大脳皮質や大脳辺縁系に多数のレビー小体が出現する典型的なタイプについて説明しましょう.

DLBの経過でADと異なる点は、発症時の症状です。記憶障害や見当識障害(時間・場所・人物の見当識の障害)などの認知症特有の症状出現の前に、夜間睡眠時の悪夢や大声、激しい体動が見られます。これをレム睡眠行動障害と言います。夜の睡眠中に、毎日のように悪夢にうなされ、大声で叫ぶ、身体を大きく動かす、時にはそばに寝ている家族を殴る・蹴るなどの異常な行動をみます。この症状は、AD初期にみられることは稀です。

ADの初期にうつ症状は見られますが、DLBではその頻度が約2倍で(報告では20%から60%と幅広い)、本症の特徴的な症状に挙げられています。認知機能の障害が明らかになる前に、気分のふさぎ込みや活動性の低下が目立ち、また、身体のことを過度に心配する心気症状や不安感情も強く表れることがあります。

レム睡眠行動障害やうつ症状などの感情障害は、DLBの前駆症状とも言われ、発症の前兆とも言えます。DLBの初期では、必須症状である認知機能障害が出現します。記憶障害も見られますが、簡単な認知機能検査では、記憶力が正常範囲に留まることもあります。むしろ、遂行能力や判断力等の他の認知機能の障害で家庭や職場での作業に混乱をきたす様子が目立ちます。

この初期に、人物や小動物の幻視が出現し、パーキンソン症状も見られます。尿失禁や便秘、起立性低血圧などの自立神経症状に伴う失神もよくあります。また、ごく親しい家族の顔を他人と誤認する人物誤認もこの時期にみられます。このように、病初期には、DLBを疑うよりも本人の精神症状や行動の異常に家族は驚くようです。

DLBの中期になると、認知機能障害がさらに進行し、ADのようなもの忘れや時間、場所、人物の見当識の障害が目立ちます。その頃になると、幻視や人物誤認が被害妄想を生み、パーキンソン症状も悪化し転倒が非常に多くなります。

さらに進行すると、他者とのコミュニケーションがとても困難になります。また、幻視の訴えは減少し、むしろパーキンソン症状の悪化により全身の硬直や歩行障害がひどくなります。嚥下機能が障害され、誤嚥性肺炎を繰り返し、末期には、パーキンソン症状により寝たきりとなり、全身衰弱も加速し、死に至るケースが大半です。

DLBの対応

先に述べましたが、DLBのごく初期に家族が病気に気づくことは困難でしょう。しかし、高齢者の夜間の異常行動やうつ状態、時には怒りっぽい、不安な表情は、周囲の人が気づきます。これらを単なる「寝ぼけ」や「歳のせい」と考えず、まずはかかりつけ医や老年期精神障害を専門とする医師に相談してください。

医療現場でも、DLBの前駆期や初期に診断することは難しいです。多くは、「レム睡眠行動障害」「老年期うつ病」と診断し、投薬を開始します。それで改善すればDLBは否定的ですが、改善しないか、もしくは向精神薬で、身体の動きが悪くなり、傾眠傾向などの副作用が出現したらDLBを疑うことがあります。それに幻視やパーキンソン症状などの症状が加われば、記憶障害が目立たなくともDLBを念頭に診療を進めます。

DLBの診断に役立つのが放射線同位元素(ラジオアイソトープ)で標識された薬剤を体内に注入し、その放出される放射線量を測定するシンチグラフィーという検査です。DLBには、ダットスキャン検査とMIBG心筋シンチグラフィー(以後MIBGと表します)が一般的です。

ダットスキャンは、脳血流シンチグラフィーSPECTという装置を使い、脳内のドパミン量を測定します。またMIBGは、123I‐MIBGというラジオアイソトープを用いて心臓の交感神経の働きを検査します。DLBでは、脳内のドパミンや交感神経の働きが低下しますので、両検査は診断に役立ちます。また、同様の検査結果がPDも見られますので、その鑑別が臨床現場では重要です。

治療薬としては、ADに用いられるドネペジル塩酸塩が唯一厚生労働省で認可されています。その効果もADと同様に、認知症の進行を多少抑制するだけです。それゆえに、シンチグラフィーを用いて診断を明らかにしても、根治療法が存在しない現状では、出現する症状への対症療法が中心です。

DLBは、うつ状態、レム睡眠行動障害、幻視、被害妄想、人物誤認などの精神症状、パーキンソン病にみられる運動障害や自律神経障害による失神などに加えて、認知機能障害による生活の混乱がみられます。それゆえに、家族の日常の対応は、ADと異なってきます。

精神症状の対応には、向精神薬を用いますが、厄介なことに副作用が出現しやすいことから慎重な投与が望まれます。処方された薬の効果や副作用について医師から説明を受けますが、家族には服薬後の状態についての観察が求められます。副作用として、眠気、活動性の低下、すぐ横になるなどの過鎮静の状態、歩行時につまずき転倒が多くなる、身体の動きが悪くなる、また食事の時にむせ込む、などの日常の変化を観察し、担当医に報告してください。

幻視への対応として、幻視に怯える人には、実際に見えているのでなく、脳の病気からくる幻覚であることを丁寧に説明し、恐怖感を取り除く努力が重要です。この時期は、まだ認知機能の障害は軽度で、その説明に理解を示すと同時に、病識のようなもの生まれることが多く、恐怖感を軽減するのに効果的です。

被害妄想や人物誤認症状などの精神症状が病気よるものと本人に自覚させることはなかなか困難です。妄想の内容を否定するよりも、それが病気の症状の一つであることを説明することで、多少の不安の解消に役立つことがあります。家族が、本人の誤った考えを強く否定したり、責め立てたりすることは、逆効果で、本人の家族へ不信や攻撃に繋がりますので避けてください。

パーキンソン症状の出現で家族が注意することは、動作開始時や歩行時の転倒です。症状の進行に伴い、運動機能が徐々に低下し、やがては車椅子の使用や寝たきりとなりますので、できるだけ、普段の生活の中で、散歩や体操などに心がけてください。介護保険サービスのデイサービスや通所リハビリ、マッサージの利用をお勧めします。

自律神経系の障害の代表的な症状に、立ち上がり時の急激な血圧低下(起立性低血圧)によるふらつきや失神、また足もとがふらつく浮動性めまいが見られます。これらを予防するには、急激な身体の動きや激しい運動は避けるようにしてください。症状が起こった場合は、何かにつかまり、しばらく身体を動かさずに静止させることで、多くは数分で治ります。その他に、体温調整がうまくいかず、発汗や寝汗、また手足の冷感がみられます。その場合は、室内の温度調整や入浴などでリラックスさせることも効果的です。頻尿や尿失禁、便秘も自律神経障害によるもので、この場合はリハビリパンツの使用や一般的な便秘の対応を心がけてください。便秘では、腹部を温めながらマッサージすることも効果的です。

発症からの余命は、ADよりも短期で、長くて約7年と言われています。末期には、誤嚥から生じる肺炎を繰り返し、また免疫機能の低下による他の感染症に罹患する機会が多くなります。食事の摂取も困難となり、全身衰弱をきたし、やがて死に至ります。DLBは、このように全身の運動機能の低下による衰弱が死に直結することが多いようです。

ユッキー先生のアドバイス

最近DLBへの関心が高まり、診断の正確さを求める家族も多くなりました。DLBの根治療法が存在しない現状で、診断を明らかにすることの家族や本人へのメリットは、さほど大きくないように思います。ただ、DLBは、向精神薬使用に伴う副作用の頻度が高いこと、運動機能が当初から障害されるので適度な運動が欠かせないこと、そして余命が短いことを念頭に置いた対応が重要です。

ご本人が安心して毎日の生活が過ごせるための工夫は、どんな認知症の人にも必要ですが、家族だけで何もかもをすることはできません。特にDLBのケアは、プロの支援が必須であることも念頭において様々なサービスを有効に利用してください。

(2019年7月17日)



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