第82回 心に潜む認知症への不安

多くの中高齢者の胸中には、近い将来、自身が認知症になることに不安を抱いているのではないでしょうか。今までは、「死への恐怖」「老いることの恐怖」が一般的な不安であったのですが、最近では、認知症になり、自身を失う不安が心を過る人も多いようです。

第81回のコラムでは、将来認知症になっても慌てないように、今からできる備えについて述べました。今回のコラムでは、人々の心の中に潜む認知症への不安とどのように向き合ったらよいのか考えてみました。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 不安の要因
  2. 認知症への予期不安
  3. 認知症かもしれない不安の解消法
  4. ユッキー先生のアドバイス

不安の要因

「認知症に罹るのではないか」の不安の背景には、進行性で、根治療法が見つかっていない現状があるからでしょう。アルツハイマー病やレビー小体型認知症などの多くの病気は、原因が不明で、確実な予防方法も分かっていません。

現下では、認知症に関する様々な情報が発信され、認知症の病態を容易に知ることができます。そこで、よく耳にするのが「あのようになりたくない」と悲愴を秘めた思いです。毎日の生活が営めなくなる、家族に迷惑がかかる、自分のことが分からなくなる、など認知症になると襲ってくる日々の悲惨な生活を何とかしなければいけない、との思いが悲愴に繋がるのです。

すなわち、認知症になった自身の姿を想像すると不安が襲ってきます。このように、将来起きることを心配して、不安になる状態を「予期不安」と言います。この不安は、認知症に限らず、日常の中でもみられるものです。多くの場合は、何らかの解消方法を見つけ、それを実行することで解消できます。

例えば、体調の変化で癌を心配したとき「どうしようか」と不安ですが、病院で検査し、たとえ癌が見つかったとしても、「頑張って治そう」と思うと、不安は消え去り、治療に専念できます。すなわち、不安を避けるのでなく、不安に立ち向かう日々を送ることで、不安は解消できるのです。

認知症への予期不安

認知症への不安には、「将来、認知症になるかもしれない」と「今、認知症かもしれない」の2種類があります。最初の不安は、多くの人が感じる遠い将来の不安で、二つ目の不安は、現実的な不安です。

一つ目の不安は、年齢を重ねるほど感じます。人生90年の時代になると、半数以上の人が認知症になり、認知症を経験しないで人生を終わらす人の方が少ない時代です。それゆえ認知症になった時の準備を今から心掛けていれば、「認知症になっても大丈夫」と不安は解消されるかもしれません(第81回コラム)

認知症かもしれない不安の解消法

この不安は、もの忘れによる苦い体験をしたとき、家族から最近のもの忘れを指摘されたとき、あるいは大きな失敗をしたときに「認知症かもしれない」と不安になります。その根底には、認知症に対し多少なりとも知識があり、それが頭に浮かぶから不安が生じるのです。

多くの場合、このような状況は、自己の体験を思い出すエピソード記憶が健在といえるので認知症は否定的です。しかし、軽度認知障害(MCI)では、自他ともにもの忘れの自覚がありますので、MCIの可能性は否定できません。そうなると、統計的には4~5年後に認知症になる確率が50%とも言われていますので注意が必要です。

「認知症かもしれない」と思ったときの不安解消法として、是非、もの忘れ外来や認知症の専門医を受診してください。そこで、種々の認知機能検査や頭部の画像検査を受け、認知機能の状態を確認しておくことをお勧めします。

私の外来では、このような心配で受診した方の多くは、異常なしと診断されます。しかし、それは検査の結果であって、脳内で起きている神経細胞の初期の異常はわかりません。もしMCIや認知症であれば、半年後や1年後に同じ検査を実施することで、その状態を見つけることができます。

また、検査の結果がMCIやごく初期の認知症の場合は、認知症の進行を抑える生活様式に変えることで、その効果は期待できます。家に閉じこもらず、社会活動や社会参加に前向きになり、行動することです。また、食事や運動に注意し、認知症と戦う姿勢で生活を営むと、その不安を解消されます。

認知症への不安解消法のための最も有効な手段は、認知症を恐れるのではなく、認知症に立ち向かう日々の行動です。認知症になっても安心できる生活環境を備え、その進行を抑える生活様式に変える努力です。

ユッキー先生のアドバイス

2020年の春は、新型コロナウイルス感染症COVID-19 で世界中が混乱し、人々に大きな不安が生じています。いつ感染するかわからない、予防方法がわからない、治療法がない、などの要因が人々の不安を煽っています。この不安を解消するには、毎日の報道などで言われている感染予防の為の適切な個人の行動です。そしてウイルスを撃沈させるのも、私たち一人ひとりの予防行動です。

この難局を一致団結して乗り越えましょう。



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