ユッキー先生の認知症コラム

認知症専門医として、大学院教授として、認知症とどう向き合うか、ユッキー先生が語ります。
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第14回 認知症の薬の話(続)

前回に続いて抗認知症薬のお話をしましょう。その前に、前回のコラムで間違った記載をしてしまいましたことをお詫びしなければなりません。前回13回「認知症の薬の話」の“抗認知症薬の歴史”の中に、新しく認可された3種類の抗認知症薬がこれまで使われてきたドネペジル塩酸塩よりも非常に優れた臨床効果があるような記載をしてしまいましたが、これはあやまりで、必ずしもそうではありません。訂正してお詫び申しあげます。今回のコラムでは、その点の詳しく説明も加えて、2011年に発売された新たな抗認知症薬について解説します。

リバスチグミン (商品名 イクセロンパッチ、リバスタッチ)

1)開発の経緯
リバスチグミンは、2011年4月にわが国で承認された抗認知症薬ですが、1997年7月に、すでにスイスのサンド社からイクセロンという商品名で、カプセル剤として欧米をはじめ約80カ国以上に発売されていました。1999年11月にドネペジル塩酸塩(商品名アリセプト)が日本で発売される以前から世界各地でこのイクセロンはアルツハイマー型認知症(以下、ADとします)の治療薬として臨床の現場で使われていたのです。では、なぜ本剤は、2011年4月まで日本でADの治療薬として承認、発売されなかったのでしょうか?

本剤は、ドネペジル塩酸塩と同様に、神経細胞と神経細胞を繋ぐシナップスという部分でアセチルコリンを分解する酵素の働きを抑制します。本剤のドネペジルと異なる事は、ブチルコリンというやはりコリン系の物質を分解する酵素の働きを同時に抑制することです。この作用で、脳内のアセチルコリンをさらに増加させる事が確認させています。そしてADの認知機能を改善させることが臨床試験でも認められたのです。しかし、同時にアセチルコリンの増加で、悪心・嘔吐などの胃腸症状の副作用が問題となりました。また、重篤な副作用として、循環器系の副作用も見られました。また、ADの認知機能障害の改善がドネペジルよりも際だった成績が得られなかったので、わが国では本剤の承認を見送った経緯があります。

そこで、本剤の特徴を活かし、かつ副作用を抑えることを目的に薬剤開発を進めていったところ、カプセル錠から貼付剤(貼り薬)に変えることで、その目的に叶った新しいリバスチグミンが開発されました。それがイクセロンパッチでありリバスタッチです。前者は、ノバルティスファーマーが発売し、後者は小野製薬が発売していますので、商品名は異なりますが、同じ薬です。

2)薬の特徴
本剤もドネペジルと同様に、ADの進行を遅らせる事ができますが認知機能を完全に改善することはできません。薬の効果は、ドネペジルとほぼ同等と考えて良いのですが、外国の臨床試験では、「入浴」や「書く」ことなどの行為で有意な改善が見られています。その他に「飲み物を用意する」「買い物をする」「最近の出来事を話す」などの日常生活上の改善が得られていますが、わが国の臨床試験でも、リバスチグミンでADLの改善が多少見られたようです。

総じて、ドネペジルと効果の面ではあまり変わりない、といって良いでしょう。ただ、 本剤は、貼付剤ですので、他の抗認知症薬と異なる特徴を有しています。それ故、認知症の臨床では、患者さんの状態を十分把握したうえで、薬を選択します。

リバスチグミンの貼付剤の場合は、以下の状態の患者さんに適しているのではないでしょうか。

1. のみ込む力が弱い人。認知症の人の中には、嚥下の力が弱い人がいます。そのような患者さんには貼付剤は最適です。また、患者さんの中には多くの薬を併用している方がいますが、そのような人で、服薬時に少しでも錠剤の数を減らしたいと思われている家族には貼付剤は適していると思います。

2. たとえば、ドネペジルで下痢などの副作用な見られた患者さんは、この貼付剤を使いますと副作用が出現しない場合があります。それは貼付剤と錠剤では、血液中の薬の濃度の時間的な経過が異なるからです。錠剤は、服薬してからしばらくは血中濃度が上昇しますが、やがて下降します。このような血中濃度の激しい変化は貼付剤にありません。時間の経過で薬物の血中濃度が激しく変化することがなく、常に一定の濃度を保つことができますので副作用の発現は少ないようです。

3. 認知症の人の中には、お薬を飲むのを嫌う人がいます。それは、苦い、のみ込みが上手くいかない、薬が嫌い、面倒などいろいろ理由があるようです。この貼り薬はそのような思いをする必要がありませんので、認知症の人に「のまなくてもよい、もの忘れの薬ですよ」と説明しながら貼ってあげてください.多くの方は素直に貼らせてくれます。

ただ、この貼り薬は、必ずしも良いことばかりではありません。私の臨床の経験から注意することなどを以下に挙げてみました。

1. 同じ場所に何回か貼っていると多くの人は、皮膚が赤くなり、痒くなります。これを防ぐには、毎日貼る場所を変えると良いようです。貼る場所は、実際は何処でも良いのですが、この皮膚炎の事を考えると、肩から背中にかけた比較的皮膚の硬い場所が良いかも知れません。

2. 認知症のご本人に薬の管理をお願いすると、毎日ご自分で貼ってはいるのですが、剥がし忘れる方を見かけます。貼り薬は、貼った月日を書くようになっていますが、多くの方が書き忘れていますので、剥がし忘れのものと、新しく貼ったものとが分からず、結局全てはがしてもう一度新しいものを貼ることになります。剥がし忘れの薬をそのままにしておくと、いずれは効果がなくなりますが、新しい薬を次々に貼ってしまうと血中の薬の量が当然上昇します。そうなると副作用が心配です。

3. ここで重要なことは、この貼り薬の管理はご家族や介護者がするべきだということです。認知症の人に、「忘れないように貼りましょう、剥がしましょう」とお願いしても、忘れることがその人の主たる症状なのですから、このようなお願いは必ずと言っていいほど、実行しないと思って良いと思います。この貼り薬は、独居あるいは、毎日のお薬の管理をお願いできる介護者の方がいない人にはお勧めしません。ただ、このことは、家族やまたプロの介護者に伺うと、毎日の貼るという行為がお互い病気と向きあい、とても良いコミュニケーションの道具になるとのことでした。

3. ご家族のご意見を一つ紹介しますと、「他にもいろいろな薬をのませなければならないので、この貼り薬を使うと、のます手間と貼る手間の二つの手間をかけなければならない」と話していました。私たちが行った調査では服薬の介護に平均して約7分かかります。それゆえ、認知症の薬も、他の薬と同じようにのみ薬の方が手間は少ないかも知れません。

以上、このリバスチグミンの貼り薬を使う場合は、認知症の人の状況から貼り薬の特徴を十分に活かした使用の仕方が求められます。

ガランタミン (商品名 レミニール)

1)開発の経緯
ガランタミンは、2011年3月にアルツハイマー型認知症の治療薬として発売されましたが、この薬が最初に作られたのは1951年にさかのぼります。その頃は、神経運動障害の治療薬として使われていたようです。そもそもこのガランタミンは、ヒガンバナ科ガランサス属のスノードロップ(日本ではマツユキ草がその1種)に含まれるアルカロイドという物質がもとですが、この花は毒草であり、また薬草としても古い昔から広く使われていたようです。

この薬もドネペジル(アリセプト)やリバスチグミン(イクセロンパッチ、リバスタッチ)と同じアセチルコリンエステラーゼ阻害剤ですが、2000年に欧州で承認され、2010年には海外73カ国で発売されている薬です。わが国では、2011年1月に承認され臨床で使うことができるようになりました。

2)薬の特徴
詳しい薬の働きは省略しますが、この薬はのんでから効果が現れ、そして薬の効果がなくなるまでの時間が他のドネペジルやリバスチグミンよりも短く、約7時間といわれています。それゆえ、朝と夕食後の2回服用する必要があります。

この薬の効果は、他の2剤とほぼ同じと言って良いと思います。ただ、発売元のヤンセンファーマ株式会社では、臨床治験から、以下のように本剤の特徴を説明しています。

1. 本剤もドネペジルと同じように認知症の進行を遅らせますが、臨床治験結果から、その効果がドネペジルよりも多少良い成績だったようです。また、本剤を治療初期に服用すると、やや進行した状態で治療を開始するよりも進行抑制の効果が良いようです。

2. 他の薬剤と同様に不安や暴力、徘徊などの行動心理症状の発生が抑えられることも認められています。

3. ガランタミンの臨床治験では、介護者の介護負担を軽くする事が認められています。すなわち、介助に要する時間が1日あたり61分短縮し、見守る時間が1日あたり82分短縮する、とするデータが得られています。

【ユッキー先生のアドバイス】

これまで、アセチルコリン分解酵素阻害薬といわれるドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンについてその薬効や効果的な用い方などについて説明しました。これらの薬はいつから初めて、どのよう様な状況で服薬を中止すれば良いでしょうか

○開始の時期

アルツハイマー型認知症と診断されたならば、できるだけ早期に開始すべきでしょう。以前説明しました軽度認知機能障害(MCI)のアルツハイマー型認知症と診断できないごく初期の段階でも効果はあるように思います。

○中止の時期

1. MMSE(Min-Mental State Examination)やHDS-R(長谷川式簡易痴呆審査スケール改定版)などの簡易な認知症のグテストでほぼ0点、もしくは測定不能の状態の時。

2. 食事、着替え、入浴、排泄行為など基本的なADLが全く自分でできなくなり、全てに介護が必要となった状態、もしくは介護保険の要介護度認定審査に用いられている認知症人の日常生活自立度がⅣあるいはMの状態の時。

3. 主体的に他者との交流を持たない。また、ごく親しい家族の指示のみ従うが、積極的な会話がなくなった状態の時。

4. もともと持っていた身体疾患の悪化もしくは新たな合併症の併発などが引き金になってADLが著しく低下した時、関節炎や筋力の低下、麻痺などでほとんど寝たきりの状態となったとき

5. BPSDの再発、悪化。アセチル分解酵素阻害剤の随伴症状としてのBPSDの出現あるいは再燃が長期化することもありますが、行動障害の激化や長期化が見られ、落ち着かない場合は中止を考える。


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