第72回 認知症と診断されたら~ADとVDの経過と対策~

今の医学では認知症を治せません。むしろ進行してしまうことは周知の事実です。それゆえに、認知症と診断された時、本人や家族はこの先どうなってしまうのか、心配です。このコラムでは、認知症がどのように進行していくのかを解説し、将来に対してどのような準備をしたら良いかを考えてみましょう。

今回は、アルツハイマー型認知症ADと血管性認知症VDについて説明します。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 認知症が進行する要因とは
  2. アルツハイマー型認知症(AD)の経過
  3. 血管性認知症(VD)の経過
  4. 将来への備え
  5. ユッキー先生のアドバイス

認知症が進行する要因とは

認知症の進行過程を一般には、初期、中期、末期の3期に分けます。初期は、エピソード記憶の障害が見られ、生活上多少の混乱をきたしますが、周囲からの支援は、複雑な行為にとどまる状態で、軽度認知症の時期です。中期になると、本人自身が出来ることもありますが、主に身の回りの介護が必要となる中等度認知症の時期です。末期では、日常生活の様々な動作に介護が必要となり、一人では生活できない重度認知症の時期で、人生の終末を迎える時期でもあります。

どうして認知症は進行するのか、科学的に解明されていません。認知症をきたす代表的なアルツハイマー型認知症ADは、アミロイドβ蛋白(Aβ)や異常なタウ蛋白などが脳内に蓄積し、脳の神経細胞を壊すことで発病することがわかっています。

レビー小体型認知症はαシヌクレインが、前頭側頭型認知症はTDP-43やFUSという毒性の蛋白質が、やはり脳の神経細胞を壊し、認知症発病に関与します。これらのたんぱく質の脳内発生には、特殊な遺伝子の関わりが指摘されていますが、未だ解明はされていません。

認知症の進行は、このような脳内の異常な蛋白質が増加することによる、と考えられてきました。しかし、最近、あるアルツハイマー型認知症(AD)の新薬開発過程で、この仮説を疑問視する事実が浮上しました。それは、AD患者の脳内のAβ蛋白を新薬で消失させても、対象患者の認知症症状は改善せず、また進行遅延の効果も確認できなかったのです。

認知症の人の脳の画像を見ると、正常な人と比較して明らかに脳萎縮が激しいことが分かります。そして、時間ともに進展しますので、脳の神経細胞が脱落する程度と認知症の重症度は関連しているようにも思います。しかし、強い脳萎縮を認めても、認知症の症状が見られない例もあることから、その因果関係には、他の要因が関わっているのかもしれません。

認知症の進行は、65歳以下の若年発症の人は早く、超高齢発症者は比較的緩徐なことから、進行のスピードは、発症の年齢に関与しているようです。また、若年発症者の生命予後は、超高齢発症より不良との報告もあります。性別と認知症の進行スピードとの関連は確かではありませんが、認知症発症から死亡までの余命は、明らかに女性より男性の方が短いようです。

いずれにしても、認知症は生命予後が不良で、若年者は進行が速いと言われています。その他の進行を促進させる要因に、廃用症候群が挙げられます。これは、骨折や関節等の痛み、または脳血管障害などによる運動機能障害で、過度な安静を続けていると、筋力や関節機能が低下し、また消化器や循環器などの様々な臓器機能も低下し、最終的には寝たきりとなります。特に高齢者の場合は、認知機能の低下も著しく、また認知症の人の場合は、その進行が促進されます。すなわち、使わない機能は、どんどん衰えていくのです。

アルツハイマー型認知症(AD)の経過

ADを発症してから死亡までの期間は、調査によって様々ですが、平均5年から9年と言われています。中には、10年以上の生存もあれば、1~2年という短期の報告もあります。一般的には、発症してから3年ぐらい経過した後に認知症の症状が顕著となりADと診断されます。そこから徐々に進行し、約6年の経過で死に至るケースが多いようです。

進行の過程で最も長い期間は初期で、発症から軽度認知症の時期です。平均期間は約6年といわれています。中期から末期そして死亡までの期間は約3年で、中期以降の進行は早いようです。発病時に、認知症と気づくことは困難ですが、もの忘れが目立ち、日々の生活に混乱が見られるようになると、本人のみならず周囲の人もその異変に気づきます。初期には、軽度認知障害(MCI)と診断されることが多いのですが、認知症予防を念頭に置いた様々な取り組みで、この時期の進行を抑制することは可能です。

誰もが認知症と認める頃は、中期に近い時期で、生活上の混乱に加え、今までになかった本人の異常な行動で周囲を困らせることが多くなります。いわゆる行動心理症状と称する徘徊、易怒・攻撃、介護拒否やもの盗られ妄想のような症状が出現する時期がこの時期で、約80%以上の人にみられます。

中期では、排泄、着替え、入浴、食事といった身の回りの介護が必要となりますが、本人ができることもまだ残されています。しかし、さらに進行し末期になると、言葉が出てこない、辻褄が合わないなどの言語機能の障害が見られます。また歩行障害、移動時の転倒さらには嚥下障害も出現し、身の回りのほとんどのことに介護が必要になります。自律神経系の異常に伴う低血圧や失神、あるいはてんかんの様なけいれん発作が出現し、身体的にも徐々に衰弱していきます。同時に運動機能がさらに低下し、寝たきりとなり、やがて死を迎えます。

血管性認知症(VD)の経過

血管性認知症VDは、脳梗塞や脳出血のような脳卒中の後に認知症の症状が出現します。明らかな脳卒中発作がなくとも慢性的に脳の血流が悪いこと(脳循環障害)が原因のVDもあります。脳卒中発作を繰り返すことで、また動脈硬化により脳循環がさらに悪くなることで、認知症が進行します。その過程は、ADのように時間の経過とともに徐々に進行するのでなく、階段状に進行するのが特徴です。すなわち、脳卒中をおこすたびに、また脳循環が悪化するたびに進行します。

いずれにしてもVDは、原因が明らかですので、脳血流を悪くする高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病を予防することで、理論的には発症を大方防ぐことができます。また脳の血流が改善することで、進行を抑えることも可能です。最近では、生活習慣病の予防のために生活習慣を改善しようとする健康志向が強くなったこと、高血圧や脳循環障害の薬剤が数多く開発されたことから、VDの数は減少しています。

以前のVD診断基準では、脳卒中発症後3カ月以内に認知機能低下が確認されることが必須でしたが、最近ではCTやMRIで明らかに脳循環障害の証拠があればVDと診断しています。ただ、アルツハイマー型認知症(AD)と診断されても脳卒中の既往がある人もいます。また慢性の脳循環障害を原因とするビンスワンガー型血管性認知症のタイプは、経過がADとよく似ています。これらのタイプをADと鑑別することは、容易でありません。

VDは、若年の男性に多く、初期から歩行障害や麻痺などの神経症状を認め、また認知機能が一日のうちでもよい時間帯と悪い時間帯がある浮動性が特徴です。また、例えば、もの忘れが酷いのに日常の生活は比較的自立できているケースや、その逆のケースもあります。すなわち、記憶だけでなく見当識、判断力、理解力、実行能力などの能力も、ADのように、全てが徐々に低下するのではなく、ある能力が障害されていても他の能力は比較的保たれている、といったまだらな症状が見られます。

VDは、気分障害と言われている精神症状が多いようです。例えば、抑うつ気分、無気力感、活動性の低下、さらには突然の怒りや興奮といった気分の異常や変動がみられます。これらは、血管性気分障害とも言われ、VDの特徴的な症状の一つですが、脳血流改善薬あるいは感情障害改善薬で効果が期待できます。

将来への備え

ADとVDでは、その進行過程が異なりますので、将来の備えも当然異なります。

ADは、残念ながらその進行を止められません。最終的には、身の回りのことができなくなり、寝たきり、植物状態となります。発症から約10年と言われる経過は、長く、介護者にとっての心身の負担は大きいので、できるだけ負担の少ない介護を試みるべきです。詳しくは第71回のコラムをお読みください。

将来への準備として大切なのは、ご家族自身の介護能力を見極めて、自分たちだけで世話を続けようとせず、地域や介護保険サービスを有効に利用しながら、できるだけ介護負担を軽減する手立てを講じることです。それには、介護をシェアすることを忘れないでください。

VDは、基本的に進行を予防できる認知症です。先に述べましたが、脳の血流に支障をきたす高血圧、糖尿病、高脂血症をはじめ、多くの身体の病気が脳の血液循環に影響を与えますので、それらの病気の予防や悪化を防ぐことが重要です。脳梗塞や脳出血などの既往がある人は、かなり高い頻度で再発しますので、血圧や脳血流を改善させる生活を営むことと、再発予防の薬の服用は必須です。VDと診断されたら、まず、再発予防にしっかりと取り組んでください。

ADとVDが混在した認知症を混合型認知症と言われています。その場合は、ADのような経過をたどりますが、脳卒中などの血流状態の悪化で、さらに進行してしまいます。また、VDと診断された中に混合型のケースも多いので、ADの進行を遅らせる生活の営みは重要です。

ユッキー先生のアドバイス

50歳を超えたら、磁気共鳴断層撮影MRIや磁気共鳴血管撮影MRAによる脳ドッグ受けて、自身の脳血流動態を知っておくことを勧めます。また、生活習慣病と診断された人は、気づかない間に脳の血管にダメージを受けていますので、定期的な健康診断や脳ドッグは必須です。それにより、認知症の中で2番目に多いVDを予防することが可能になります。

ADでも、初期であれば生活習慣の改善で十分進行を遅らせることができます。普段の食事や運動に留意し、また活発な社会活動に勤しんでください。

次回は、主にレビー小体型認知症と前頭側頭型認知症の経過とその対策を述べます。


このページの
上へ戻る