ユッキー先生の認知症コラム

認知症専門医として、大学院教授として、認知症とどう向き合うか、ユッキー先生が語ります。
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第28回 前頭側頭型認知症(FTD)ケアのポイント

前頭側頭型認知症(FTD)は、その症状が多彩なことから、家族介護者は無論のこと、プロの介護者にとってもその対応に苦労することが多いようです。
これまでの第26回と27回の診察室でFTDについて解説いたしましたが、この病気は、50歳代から60歳代の若年者に発症することが多く、しかもその初期は、記憶や見当識の障害が目立ちませんので、家族が病気の発症に気付くことは難しいようです。第27回の診察室で解説しました初期の異常行動に心当たりがありましたら、是非とも早期に専門医に相談してください。

早期に専門家を受診する理由

早期に受診を勧める理由の第一は、FTDと他の精神疾患との鑑別が必要です。うつ病や統合失調症の薬物療法は、比較的効果的なものが多く、もしそのような精神障害と診断させたなら、早期に治療を受けるためにできるだけ早く専門医の受診が望まれます。

第二にFTDの初期症状は周囲に奇怪な印象を与えますし、また反社会的な行動も少なくないので、これまでも述べてきましたが、変質者や犯罪者とレッテルを貼られることも少なくありません。万引きや痴漢といった行為は、周囲にとって迷惑な行為ですが、本人には犯罪という意識がなく、すなわち事理弁別の能力が病気によって失われているわけですから、犯罪者として扱われるは人権侵害にあたります。そのレッテルを貼られる前に病気として診断を受けておく必要があります。

第三に、FTDの適切な対応を早期から考える必要があります。FTDは、その異常行動から家族への介護負担が大きいと言えます。そのために、家族だけでケアを行っていくことはとても負担が多いので、できるだけプロの支援を早期から受ける事を勧めます。それゆえに、まずは診断を明らかにして、地域の様々な介護支援サービスを利用し、できるだけ負担を軽減してケアすることを勧めます。

反社会的な行為

もしもFTDの診断を受けている人が、万引きなどの反社会的な行為で、警察に連行された場合は、即座にその人が病気であることを説明してください。そのためには、以前から専門医を受診していて診断を明確にしていなければなりません。それができていれば、医師の診断書を示せば、起訴が免れる場合が多いようです。

しかし、反社会的行為が発覚して初めて本人の異常に気付く家族も多いようです。その場合は、家族も警察等からの連絡に動転してしまい、本人の精神的な異常を見抜くどころか、犯罪行為への驚きや怒りで病気のことを考える余裕などありません。そして本人への失望から、夫婦間の場合は離婚という不測の事態にも発展しかねません。そこで、FTDの特徴として以下の状況が存在するかを冷静に振り返ってください。

1) 反社会的な行為が発覚した後の本人の様子を観察してください。この時期は、まだ認知機能障害が顕著でないために、家族にとってどうしても認知症に冒されたとは思えません。しかし、そのような重大な事件が発覚されても、本人には深刻味や悪びれた表情も無く、平然としています。

2) その頃は、近所でも本人の行動を異様と感じている人も多くなり、悪い評判が家族の耳に入りますが、本人はその話を聞いても全く気にしません。

3) 反社会的行為は繰り返します。それも以前問題をおこした同じお店や場所で、同じ反社会的行為を行うのです。この行為が見られると多くの家族は本人の異常に気付きます。

4) 行った反社会的行為は、これまでの本人の生活態度から考えられない行為です。例えば、コンビニでお菓子を盗む、他人に家の花壇に咲いている花を引き抜く、自動車事故を起こして走って逃げ去る、人通りの多い場所で性的逸脱行為をする、などで、多くの家族は「なんでそんなことで今までの自分の名誉を傷つけるの」と驚くようです。

このような状況がありましたら、専門医を受診して精査をお願いしてください。その結果によっては起訴が取り下げられますし、また精神鑑定を依頼できます。FTDによる反社会的な異常行動は、病気によるもので、事理弁別の能力に欠けた状態ですので、犯罪者の行為とは異なりますので、家族がそのレッテルから守ってあげる必要があります。

無関心

FTDの初期に、家族は本人が「変わった」と表現します。第26回のコラムで紹介しました後藤勝行(仮名)さんの例のように、仕事のことや家族、親しい友人のことなどに全く関心を示さなくなります。大切な仕事を放棄し、部屋に閉じこもり、家族への関心や、親としての子供への態度も失い、趣味や今まで関心を持っていた様々なことに興味を示さなくなります。会話は、上の空で、いい加減な対応しかしません。

このように変わり果てた本人に対して大方の家族は愛想を尽かし、本人の態度や対応を非難します。このような時に以下の反応が見られましたら、是非とも専門医に相談してください。

1) 家族との会話に興味を示さない、同僚や上司と会話を交わさない
2) 食べ物、TVの内容、身の回りここと、他人の動向などに関心を示さない
3) 本人の行動や態度を非難し、注意しても、本人はそれを深刻に受け止めない。
4) 言い訳や反論はせずにただ黙って話を聞いていることが多い。
5) 当初は自分の非を認め、謝る態度をみせるが、その後も同じ行動をとる。
6) 家族にとって大切な物や高価な物を平気で捨てたりするが、自分の特定なものには執着する。

このような生活態度の変化にたいする対応は、困難を極めます。本人の態度を改めるように説得しても全く無駄で、むしろ本人の行動を見守り、家族で本人の行動や態度が他者に不快を与えないように配慮することが必要でしょう。そのためには、無理に外出を促すことや生活を整えるようなアドバイスを控え、許容できる範囲で本人の意のままの行動を見守ることです。そして、家族として生活上の会話や指示を丁寧に行ってください。その際には複雑な指示でなく、明瞭で簡単な指示や、繰り返しの支持が望まれます。

何よりもこの時期で重要なことは、本人が病気であることいち早く認めて、適切な対処方法を専門家に相談することです。おそらくこの時期は、介護保険の要介護認定の申請を行っても、要介護認定が下りないことも少ないようです。本人のADL(日常生活動作)は自立していますし、認定調査員への受け答えもはっきりしています。また、上記のような行動や態度は行動の異常として評価されることも少ないからです。それゆえ、専門の医療機関でFTDの診断を受けたならば、いち早く地域包括支援センターで今後の介護の仕方を相談してみてください。

自分勝手な行動

FTDがさらに進行すると、「周囲のことを気にせず自分勝手な行動をする」ことが目立つようになります。たとえば、家族同士で本人に関係ないことを話していても、その会話に割り込み、本人の主張を繰り返すことがあります。また、知人の家を夜の夜中でも突然訪れ、なにかを要求したり、文句をまくし立てたり、中にはストーカー紛いのことをして、警察騒ぎになった患者さんもいます。

この症状が見られますと多くの場合家族は、本人の異変に気づき、何とか受診させようとします。しかし、大方の認知症の患者さんがそうであるように、このころは病識が欠如しているために、なかなか受診することに納得しません。そこで、家族の介護者は、本人を説得しようと躍起になりますが、それに従うことは、ほとんどありません。本人に行動の異常を言い聞かせても、受診の説得にはなりません。それゆえ、たとえば「最近、ちょっと様子がおかしいから病院にいきましょう」とそれだけの言葉かけで、病院の予約日に連れて行ってみてください。多くはある程度抵抗はしますが、家族に従います。

この自分勝手な行動をする Going my way behavior 症状への対応で重要なことは、その行動をやめさせようとしても無駄であることを理解することです。他者との会話中に強引に割り込んで来たら、その行為が病気であることを認識し、まずは本人の話に耳を傾けてみてください。多くの場合は、くどくど長話はしませんし、自分の主張が通ればその場を立ち去ります。同じような行動を何度も繰り返すことがありますが、同じように対応してください。この対応が最も本人を混乱させない方法だと思います。

同じことを繰り返す行動

この行動は、前回のコラムでも述べましたが、新聞記事に赤のアンダーラインを引く、家具の位置の確認する、自分の持ち物の鞄や手帳等を手から放そうとしない、など介護者にはどうでもよいことに執着します。特に目立つのは食事の時の異常な行動です。食べることに異常な執着を見せ、同時にこれまでの食事のとり方とは異なる奇妙な食べ方をします。そして、食べ始めから終わるまでの一連の奇妙な行動は毎回繰り返され、食事を楽しむことや食事中の家族と会話などの普段の食事の光景は失われます。

また、起床、食事、入浴、その他の一日の行儀の時間に固守します。たとえは、朝7時に起床と決めるとその時間に必ず起床し、その後の食事の時間や散歩や趣味の時間など、一日のスケジュールに固執します。

このように時間に執着した行為は、介護者にとって奇怪で、何とかやめさせようとしますが、それを崩すことはかなり大変です。むしろ、本人が描いたスケジュール通りに周囲が合わせることの方が楽かもしれません。

また、このパターン化した行動をケアにうまく利用する考え方もあります。例えば、家庭での大まかなスケジュールを紙に書き、本人のわかるところに貼り、時間ごとに声掛けをすると本人の固定したスケジュールを変えることができるかもしれません。

このような行動は、比較的病気が進行した時期に目立ちます。困ることは、本人が決めた行動に対して周囲が阻止したり、注意したりすることから考えられない抵抗を見せることです。多くは暴言や暴力よりも衝動的な行動が目立ちます。それを阻止しようとすると、興奮しますので、このような時は、本人との距離を保ち、危険がないようであれば、しばらく様子を見てください。しかし、家から飛び出る、興奮して周囲のものを壊す、などの危険の行動が見られましたら、そばにいる何人かの家族でその行動を抑えてください。そして、しばらく時間が経過すると本人の行動はおさまり、何事もなかったようにもとに戻ります。しかし、やはりこういう行動の異常が生じた場合は精神医に相談してください。抗精神病薬で効果を得ることがあります。

言葉の障害

表現力がなくなり、会話が一本調子で同じ言葉の繰り返しが多くなります。最初はアルツハイマー型認知症患者と同じように、物の名前が出てこないため「あれ」「それ」といった代名詞の会話が目立ちます。また、「リンゴ」を「リボン」と言い間違えたり、「行かない」を「来ない」とまちがえたりする錯誤が見られるために家族は「話がわからなくなった」と訴えます。

少し病気が進むと、本人の会話のセンテンスに全く関係ないセンテンスが強制的に入り込む滞続言語という表情が見られることがあります。例えば。(今日は良い天気ですね)の問いかけに「今日は、良いキツネがさっとだ」、(朝は何を食べました)「朝は、パンとキツネがさっとだ」など『キツネがさっとだ』という言葉が入り込んできます。この時期には、本人からの積極的な会話がなくなり、また話しかけに対しても表面的な返事か、何も答えず無視する態度が見 られます。

この言語の障害は、左前頭側頭部の言語をつかさどる部位の障害によるもので、FTDの進行を示唆するものです。この時期での言葉の障害は、話すことだけでなく理解する機能も冒されます。それゆえ、言葉での物事の伝達や説得は、理解できないことが多いので、説得したり、注意したり、することは無駄なようです。それゆえケアのポイントは、介護者が態度や行動をもって理解させる努力が必要になります。着替えにおいて「これに着替えてください」ではなく、「これを着ましょう」と実際に手をとり着させてあげることです。

喜怒哀楽を表わさなくなる

情緒的な交流が失われるので、呼び止めたり話しかけたりしても、目を合わさず、わざと目をそらすような態度をとります。そして、喜び、楽しみ、悲しみ、怒り、苦しみなどの感情をあらわさず、表面的で疎通性に欠けた表情になります。

またこの時期になりますと、食事や排泄の管理、身体の衛生管理が中心になります。ほとんどの身の周りのことにケアが必要となりますが、かえって介護者のペースで介護が可能なる時期かもしれません。
【ユッキー先生のアドバイス】
FTDの特徴的な症状に対するケアについて、私の臨床経験から解説いたしました。このコラムで何回も申しましたが、FTDのケアは家族介護者にとって負担の大きいケアと察します。ここで取り上げた症状以外にも家族を驚かせ、その対応に困ることも数多く出現するのがFTDです。そこで、これまでのFTDのケアについてのポイントを下記にまとめてみましょう。

1. いち早く本人の異常に気付き専門医を受診しましょう
2. 本人の反社会的行動を病気の症状の一つととらえ、本人を犯罪者のレッテルから守りましょう
3. 本人の自己本位な行動を説得で変えさせることは不可能です。危険のない行動は、見守り、危険を伴う行動は、明確な態度でやめさせてください。中途半端な対応は禁物です。これは「怒る」と意味ではありません。「それは、だめです」「そのようなことは、困りますから止めてください」とはっきりと否定してください。
4. 同じ行動の繰り返しやスケジュール通りの行動をやめさせることも不可能です。むしろこの症状を日常のケアの中に取り込んで、日常での見守りを容易なものにするために利用してください。
5. FTDは、家族だけでケアすることは非常な困難を伴います。早い時期から介護サービスの利用を積極的に行い、また精神科医療との連携を密にしてください。
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