第39回 若年性アルツハイマー病の診断

65歳以前に発症する若年性認知症で最も多い疾患がアルツハイマー病です。その他に脳梗塞や脳出血が原因でみられる脳血管性認知症や前頭側頭型認知症が多いようです。

前回第38回のコラムでもご説明しましたように、若年性認知症は、他の精神疾患と誤診されることも多く、その診断は比較的難しいと言われています。まして、発症の年齢が若いので、ご家族や周囲の人たちは、認知症とは思いもよらないようです。

そこで、この39回では、若年性認知症の中のアルツハイマー病の診断方法について説明しましょう。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. サラリーマンの林田さんの場合
  2. 受診の手順
  3. 診断の手順
  4. 日常生活状態のチェック
  5. 1.日常生活の状況
  6. 2.物事の遂行能力
  7. 3.学習能力
  8. 4.会話
  9. 5.趣味・興味
  10. 6.エピソード記憶
  11. 7.長期記憶
  12. 8.見当識
  13. 9.理解力
  14. 10.構成力
  15. 心理テスト
  16. 画像検査
  17. 1.CT スキャン
  18. 2.MRI(核磁気共鳴画像法)
  19. 3.SPECT(単一光子放射断層撮影:スペクト)
  20. 4.PET(陽電子放出断層撮影法:ペット)
  21. 5.MIBG心筋シンチグラフィー)
  22. その他の特殊検査
  23. 若年性アルツハイマー病の診断
  24. ユッキー先生のアドバイス

サラリーマンの林田さんの場合

前回ご紹介した若年性アルツハイマー病と診断された林田孝雄(仮名)さん46歳を例に、若年性アルツハイマー病と診断する過程についてご説明しましょう。

林田さんの場合は、当初うつ病と診断されましたが、奥様の機転でかかりつけ医に相談し、大学病院に紹介され、そこでアルツハイマー病と診断されました。このように早い時期にアルツハイマー病を疑って受診する例は少ないようです。

そこで、もう一度若年性アルツハイマー病のごく初期の症状についてまとめてみます。

1.家庭や会社で何でもないことの失敗が目立つ、今まででは考えられない失敗をする
2.会話が少なくなる、人目を避ける、閉じこもる
3.元気がなくなる、不安な表情がめだつ
4.すぐわかるようなごまかしやウソをつく
5.話の辻褄が合わない。相手に話を合わせようとする
6.以前のその人らしからぬ軽率な行動が目立つ
7.以前からの趣味や関心ごとに興味がなくなる
8.日常で、物忘れが目立つようになる

以上のような症状に気づいたときは是非とも専門の医療機関への受診をお勧めします。

受診の手順

当初は、受診を拒むご本人が多いようです。まずは、いつも傍にいるご家族が受診を勧めてください。本人には、上記の日常で気づいた異常な行動について、丁寧に説明してください。

私の経験では、若年性の場合には比較的配偶者の指示に従う人が多いように思います。また、本人も自分の異常に内心気づいているので、うそ、偽り無く、きちんとご本人の眼をみて、受診を勧めてください。

「ちょっと健康診断を受けましょう」などの曖昧な表現ではなく、はっきりと「最近のあなたは、以前と違い、失敗が多い、物忘れが激しい。私が心配だから是非診てもらってほしい。私も一緒に病院に行きますよ」と説得してください。そこで重要なのは、親身になって説得することです。

最初は、かかりつけ医を受診してください。もし、かかりつけ医がいない場合は、精神科、神経科、神経内科、脳神経外科を標榜している診療所や病院を受診してください。診断が明らかにならないときは、近くの大学病院や特定機能病院に紹介してくれます。

最近では、これらの特定機能病院では、地域の医療機関の紹介状を必要としますので、直接受診せずに、紹介状を持って受診してください。紹介された医療機関には、電話で受診予約を取ってから受診することをお勧めします。

診断の手順

アルツハイマー病の診断の手順についてご説明しましょう。

日常生活状態のチェック

まずは、今の林田さんの状態が認知症か否かを診断します。これには、林田さんの認知機能が以前と比較して明らかに低下していることを証明することが必要です。この低下を明らかにするために以下の点を医師がチェックします。これを問診といいます。

1.日常生活の状況

以前にはなかった奇怪な行動、注意力に欠ける行動、ケアレスミス、生活上の混乱などがあるか。

2.物事の遂行能力

物事を最初から最後まで完全に成し遂げる能力。例えば、常識的な行動、銀行キャッシュカードの使用法、目的地に交通機関を使って行くこと、などが問題なくできるか。

3.学習能力

新しいことを学ぶ、覚える、取りくむこと、知識を増やすことに困難はないか。

4.会話

以前のようなスムーズな会話が可能か。辻褄が合わない、会話中に言葉が出てこない「あれ」「それ」といった代名詞が多くなったか。

5.趣味・興味

社会や家族への関心、趣味への取り組みに変化がないか。

6.エピソード記憶

朝の食事内容、昨日の行動、最近の楽しい出来事などを思い出せるか。

7.長期記憶

最終学歴、結婚年月日、子供の近況を正しく語れるか。

8.見当識

今いる場所がどのような場所か説明できるか。

9.理解力

例えば「猿も木から落ちる」の言葉の意味を説明できるか。

10.構成力

10時10分の時計の絵が描けるか、立方体の絵を見せ模写できるか。

心理テスト

上記の日常生活状態のチェックで認知症を疑われた場合、認知機能を客観的に判断するための心理テストを行います。具体的には、記憶力や見当識などを評価する認知機能テストを行います。

この検査には、誰にでもできるごく簡単なテストから、臨床心理士が時間をかけて行う複雑なテストまで数多くあります。どのテストで評価するかは施設によって異なります。

その他に、行動の異常、日常での行為遂行状態、日常生活動作などをチェックするテストがありますが、これらは主に本人だけから情報を得るのではなく、いつも傍にいる介護者からの聞き取りで情報を得て評価するテストです。

画像検査

現在、さまざまな画像検査が認知症の診断に用いられています。その目的は、主に脳の形態や機能の変化を評価して、認知症をきたす疾患の診断に役立てます。

1.CT スキャン

一般のレントゲン写真と同じようにX線を用いて、脳の形態的な変化を観察します。特に側脳室下角という脳の一部の拡大は、海馬の萎縮と関連しますので、アルツハイマー病の診断には欠かせない情報です。

この検査では脳萎縮を評価しますが、脳梗塞、脳出血さらに脳腫瘍の診断にも有用ですので、認知症をきたすこれらの病態との鑑別に欠かせない検査です。

2.MRI(核磁気共鳴画像法)

X線を用いらないで、核磁気共鳴現象を用いた断層撮影法です。磁場の中に入り臓器の形態を映し出す装置で、CTとほぼ同じ情報が得られますが、CTに比較して画像が鮮明に映し出されます。ただし、体内にペースメーカーや磁石に影響を受ける器具が挿入されている人、あるいは装飾品の金属を身に着けた人には検査はできません。また脳の血管に存在する動脈のコブ(動脈瘤)の発見にも役立ちますので、クモ膜下出血の発症予防に有効です。

3.SPECT(単一光子放射断層撮影:スペクト)

体の中にごく微量の放射性物質を血管から注入し、臓器に取り込ませるとそこから放されるガンマ放射線を測定することで脳内の血流状態や代謝機能を見ることができます。アルツハイマー病の検査では、脳内の特徴的な血流異常を確認することで、その診断に役に立ちます。また、レビー小体型認知症や前頭側頭葉型認知症の鑑別にも用います。

4.PET(陽電子放出断層撮影法:ペット)

放射性物質を体内に注入して、そこから放出される陽電子を捕らえ、全身の臓器の機能や血流動態を調べることができます。一般には、放射性物質を取り込んだブドウ糖(FDG)を血管から体内に注入し、癌細胞の存在を明らかにする検査として用いますが、脳の代謝(脳の働き)や血流量を測定し、アルツハイマー病特有の変化を捉え、診断に活用します。

さらに、アルツハイマー病では、脳内にアミロイドβタンパク(Aβ)が蓄積されることがその原因の一つと考えられていることから、Aβの脳内蓄積量をアミロイドPETで測定し、アルツハイマー病の早期発見に役立てます。また、神経細胞の変性に直接影響を与えるともいわれているタウタンパクの蓄積をPETで測定して診断に役立てようとする取り組みも行われています。ただこれらの診断は、特定の研究所や病院で行われているもので、一般の病院には普及されていません。

PET検査は、特殊な検査ですので難治性てんかん、虚血性心疾患の特殊な例、それに癌診断で保険が適応になりますが、アルツハイマー病では保険が適応になりませんので高額な診療費がかかります。

5.MIBG心筋シンチグラフィー)

この検査は、レビー小体型認知症の診断に有効な検査です。このMIBGは、ノルアドレナリンとよく似た物質で、自律神経の障害により体内に注入したMIGBが心臓に集積しない特徴があります。レビー小体型認知症では、この自律神経系が障害でこの集積が認められないので、アルツハイマー病との鑑別に有効な検査です。

その他の特殊検査

アミロイドβタンパクやタウタンパクといった神経細胞を破壊するこれらの毒のたんぱく質を髄液や血液で測定することで、アルツハイマー病の早期診断はもとより、発症前の診断も可能となる時代になりました。しかし、これらの生物学的検査を一般の臨床場面で用いてアルツハイマー病を明確化するには、もう少し時間がかかります。

最近では、筑波大学ベンチャー企業が開発されたMCIスクリーニング検査が話題になっています。この検査は、脳内でアルツハイマー病の原因となるアミロイドβタンパクの前段階のアミロイドβペプチドの毒性を弱める3つのたんぱく質の量を測定します。すなわちこのたんぱく質の量が減少している人は、将来的にアルツハイマー病になり易いことを示すもので、アルツハイマー病を診断するものではありません。

この検査にはいくつかの課題があります。現段階でアルツハイマー病の原因が明らかにされていませんので、その確実な予防方法も判明されていないと言っても過言ではありあません。

ご存知のように、近年、アルツハイマー病予防に関する様々な方法が紹介されていますが、あくまでも統計から予防の可能性を推測しているもので、確実な根拠がある訳ではありません。

いずれにしてもMCIの30%以上はアルツハイマー病に罹患するので、この検査の陽性結果には十分な説明とその後の予防についての指導が必要になります。ちなみにこのMCIスクリーニング検査は保険適応ではありませんので、その費用は高額です。

若年性アルツハイマー病の診断

若年性アルツハイマー病あるいは若年性認知症の名称が一般的に使用されていますが、実際のところ、両者の診断基準があるわけではありません。若年性という言葉は、主に65歳以前に発症した認知症に使われています。

それゆえに、診断としては、アルツハイマー病の診断基準に適合して、65歳以前に発症した認知症の人を俗称として若年性アルツハイマー病と診断しています。

問診で認知症を疑い、客観的な評価のために心理検査と放射線検査を実施しますが、しかし、その結果から得られた診断はあくまでも予測診断で、確定診断ではありません。心理検査で認知機能障害が明らかにされても、この障害をきたす疾患は他にも沢山あります。

CTやMRIでの脳の形態の変化は、大変重要な情報を与えてくれますが、中には脳萎縮があっても認知機能が正常な人も多く存在しますし、逆にアルツハイマー病であっても脳萎縮が目立たない人もいます。

PETや脳髄液検査では、比較的正確な情報が得られますが、検査費用をはじめ多くの負担が強いられます。このようにアルツハイマー病の確定診断は、非常に難しいと言ってもよいのかもしれません。

最も確実な診断方法は、その人の臨床経過を丁寧に診ていくことです。心理テスト、CT、MRIの所見を加えて総合的に経過を追っていくことで、確実な診断が得られるように思います。しかし、現実では、疑い診断であっても早急に治療を始めることが重要ですので、早い時期に専門家を受信することを勧めます。

(画像はイメージです)

ユッキー先生のアドバイス

若年性認知症には、アルツハイマー病の他に比較的有名なのに前頭側頭葉型認知症FTDがあります。この認知症は、特赦な行動の異常を伴うので比較的アルツハイマー病との鑑別は容易ですが、他の精神障害との誤診は多いようです。

また、中には非社会的行動で警察に逮捕されてしまうことがあります。詳細は、認知症コラムの第26回から27回をご覧ください。

次回は、若年性アルツハイマー病の治療とケアの問題を取りあげましょう。


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