ユッキー先生の認知症コラム

認知症専門医として、大学院教授として、認知症とどう向き合うか、ユッキー先生が語ります。
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第21回 成年後見制度とは(1)

最近、オレオレ詐欺による高齢者の被害が大きな社会問題になっています。同時に高額商品の訪問販売による被害も深刻です。特に高額商品の場合は、契約してしまうと返品や契約解除ができずに必要でないものを買わされ、泣き寝入りしているケースも多いようです。

認知症は、認知機能が障害されることにより物忘れや見当識障害をはじめ、判断力、理解力、適応力などの能力が冒され、日常の生活に支障が生じる病気です。それゆえに、認知症高齢者が詐欺や悪徳商法の餌食になるケースが多いのです。そこで、これらの被害から守るために有効なのが成年後見制度の活用です。

高橋洋平さんの例

高橋洋平さん(仮名)78歳は、妻と鎌倉の大きな一軒家で生活していました。75歳のときに、親の代から引き継いだ食品加工会社の経営を長男に譲り、第一線から退いたのでした。そこからは週に2日ほど、会長としてたいした仕事があるわけではないのですが、横浜の会社に出かけていました。

会長職に退いてから2年たった頃に妻の雅子さん(仮名:現在73歳)が本人の異常に気付きました。会社に出勤する曜日を度々間違え、また日曜日でも出勤しようとするので雅子さんが注意すると、今までに見たことがない厳しい表情で妻の雅子さんを叱責し会社に出かけたのでした。その頃洋平さんは、妻に何度も同じことを言い、その事を雅子さんが指摘すると怒り出す状況でした。そして、社長をしている長男の正一さんに対して「俺をのけ者にする、あいつは会社を乗っ取ろうとしている」と被害的な言動が見られ、なにかと正一さんに文句を言うようになりました。

今年の6月に、取引先の銀行から雅子さんに電話がありました。内容は、「500万円のお金を引き出そうとされたのですが、印鑑が登録されたものと違い、また暗証番号も正しくありませんでしたので、引き落としができませんでした。それが納得していただけず、銀行の窓口で大騒ぎになり困っています。すぐに来行していただきたい」とのことでした。雅子さんが銀行に行くと、洋平さんは、行員に詰め寄っている様子が伺えました。その場は、とりあえずなだめて家に連れて帰ったのですが、後日、妻が預金通帳を確認すると、何度かにわたって大金が引き出されていくことがわかりました。そこで銀行に問い合わせると、その時はご本人名義の通帳から窓口で印鑑を使ってお金を下した、とのことでした。しかし、その大金がどのように使われたのか雅子さんには知らせておらず、長男に相談したところ、長男も驚き、早速、銀行に行きその経緯について相談にいきました。結局、約3,000万円のお金が株の購入に使われ、大きな損失はなかったようですが、それでも1,000万円近くのお金は不明でした。

その後は、お金の管理を雅子さんが行うようにしましたが、洋平さんは、それからも何度も銀行からお金を引き出そうとし、そのたびに雅子さんが対処しなければなりませんでした。その直後に、洋平さん名義の会社の土地と建物の一部を売却する話が進められていることが銀行からの通知で知ることになりました。知り合いの不動産会社がその売却に関与していました。「長男に財産が盗まれる」との妄想に対する洋平さんの苦肉の策だったようです。

結局、不動産売買の件は、契約の前に発覚されたのでこれも事無く得たのですが、この件で慌てたのが長男の正一さんでした。顧問弁護士に相談したところ、洋平さんが認知症の診断を受け、成年後見制度を利用するように勧められました。早速その手続きを進めるために専門医療機関を受診したところ、やはり洋平さんはアルツハイマー型認知症と診断されました。

成年後見制度とは

成年後見制度は、認知症などの知的障害や精神障害があるため自身で適切な判断ができない人の意思意向を尊重し、生活を支援する法的制度です。ここでは、高橋さんの例から、この成年後見制度について説明しましょう。

高橋さんは、アルツハイマー型認知症により記憶力や判断力が障害され、また長男の正一さんに「自分の会社が乗っ取られた」との妄想を抱くようになったのです。その高橋さんが、銀行で何度の大金を引き出し、使途不明のお金が沢山あることが発覚されました。この場合、銀行や証券会社などは、高橋さん自身がお金を引き出したり、株を購入したりすることを、例え高橋さんが認知症であると分かったとしてもそれを阻止することはできません。また、高橋さんに不要な高額の商品を巧みな言葉で売りつけたとしても、高橋さんが承諾し、契約したのであれば、何ら法的に規制を加えられるものではありません。さらに、このように大金を本人が自由に取り扱えるのであれば、悪質なオレオレ詐欺に簡単に大金を盗まれる事も予測できます。

このケースでの最も深刻な事態は、不動産が売却され、また何かの連帯保証人にさせられ、全財産を失ってしまう事態への発展です。ある患者さんは、友人の会社の連帯保証人にさせられたことで、預貯金をはじめ土地・家屋全てを失ってしまいました。

成年後見制度は、このような悲惨な事態をあらかじめ法律が保護する制度です。この制度を理解していただく為に簡単に説明しますと、高橋さんの場合は、家庭裁判所に後見人の申請を行い、家裁が後見人を必要と認めた場合に、後見人が認定されます。後見人になる人は、多くがその家族ですが、家族の事情や不在の場合は、第三者が後見人として本人を支援します。主に、弁護士、社会福祉士あるいは司法書士などの専門家が有料でその役割を果たします。

法定後見とは

成年後見制度で知っておかなければならない法律用語があります。その一つが「法定後見」です。法定後見とは、認知症や他の精神の異常により、理解力や判断能力が低下し、生活上の支援が必要になった人にたいして法律で定められた申立人によって家庭裁判所へ法定後見人を申し立てる制度です。この制度では、その人の判断能力の障害の程度に従って、「補助」「補佐」「後見」の3つの類型に区別され、それぞれに補助人、保佐人、後見人が家庭裁判所より任命されます。改訂以前の制度では、禁治産者あるいは準禁治産者と言われ、前者が後見類型、後者が保佐類型に相当し、新制度で補助類型が設けられました。ここで3つの類型について説明しましょう。

(1)補助
物事の善し悪しや他との違いなどを判断して自身の言葉で明確に区別できる能力(事理弁識能力)が不十分な場合には「補助」が適用されます。これは従来の後見制度にはなかった類型ですが、判断能力に少し衰えがある人、すなわち「少しもの忘れがひどいかなぁ」の程度の人が利用できる仕組みです。補助の審判は、自己決定を尊重する観点から本人の申立てにより開始され、補助人は、本人自身で決めた「特定の法律行為」(例えば貯金の管理や財産の処分など)について、審判によりその代理権又は同意権・取消権が与えられます。また、代理権・同意権の必要性がなくなればその付与の取消しを求めることができ,すべての代理権・同意権の付与が取り消されれば,補助の審判も取り消されます。

(2)保佐
精神上の障害により判断能力が著しく不十分な者が「保佐」の対象となります。単に浪費が激しいだけでは、この要件とはしませんが、浪費者の中で判断能力が不十分な人が保佐又は補助の各類型の対象となります。家庭裁判所が「保佐人」を選任し,保佐人は民法第12条第1項の重要な行為(例えば借財、保証、重要な財産の処分等)について同意権と取消権を有します。また、本人の申立てにより選択した「特定の法律行為」については、審判により保佐人に代理権を付与することが可能になります。ただし代理権の付与の際は,本人の申立て又は同意が必要となります。

(3)後見
判断能力に「欠く状況」の場合は「後見」とします。すなわち、認知症やその他の精神上の障害により判断能力を常に欠く状態にある人が対象となります。家庭裁判所が後見開始の審判をして「成年後見人」を選任しますが、後見人は広範な代理権・取消権を付与されます。ただし、自己決定の尊重の観点から,日用品の購入その他日常生活に関する行為は本人の判断にゆだねぬ事から、後見人の取消権は対象から除外されます。

任意後見制度

任意後見制度とは、高齢者が認知症などで判断能力が低下する前に、あらかじめ契約によって後見人を選任しておく制度です。すなわち、判断能力が低下した場合の療養や財産の管理について後見人をあらかじめ決めておく制度です。

任意後見制度の利用にあたっては、本人が将来希望する支援内容を予め決めておいて、任意後見人受任者にその代理権を付与する「任意後見契約」を締結する必要があります。判断能力が喪失された後は、任意後見受任者が任意後見人となり、裁判所からの任意後見監督人の監督を受けながら、先に決定しておいた後見事務の内容に関し業務を行うことになります。このように任意後見制度では、監督人による客観的保護をうけながら、本人の希望に添ったかたちでの生活が維持できるよう配慮されます。それゆえ、本人が認知症になっても本人の意思がある程度保障されていることになります。

法定後見ならびに任意後見の登記手続き

では、後見人の申請にはどのような手続きがあるのでしょうか。その手順について説明しましょう。

■法定後見開始までの手続き
(1) 申立て:本人の住所地を管轄する家庭裁判所に「後見(保佐・補助)開始の申立」ならびに「任意後見監督人選任の申立」を行います。申立ができるのは,本人,配偶者,四親等内の親族及び市町村長などです。
(2) 審判手続き:家庭裁判所で本人の調査が実施されます。必要に応じて本人の判断能力の鑑定を裁判所が委託する医師により実施されます。鑑定には約1ヶ月要します。
(3) 審判:申立に対する家庭裁判所からの審判が出されます。
(4) 告知・通知:審判の結果が本人に告知または通知され、併せて成年後見人等として選任された者にも告知がなされます。
(5) 確定:告知の2週間後に審判が確定されます。
(6) 嘱託:家庭裁判所から法務局に審判内容が通知(嘱託)されます。
(7) 登記:登記ファイルに法定後見および任意後見契約についての所要の登記事項を記録されます。また代理権等の公示の要請とプライバシー保護の要請との調和の観点から,本人,成年後見人等,成年後見監督人等,任意後見受任者,任意後見人,任意後見監督人その他一定の者に請求権者を限定した上で登記事項証明書を交付されます。

■任意後見開始までの手続き
(1) 任意後見契約を公正証書により作成
(2) 公証人が「任意後見が契約された」旨を登記
(3) 本人が精神上の障害により財産管理などが十分にできなくなった時に後見開始
(4) 本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者が、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申し立てをします。この際に本人が意思表示できる場合には、本人の同意が必要となります。
(5) 家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、選任されたことを登記します。
(6) 任意後見契約の効力発生(特定の法律行為を行うことができる)

この回のコラムでは、成年後見制度について学びました。次回は法定後見人にはどのような役割があるのか、またどのような事を行うことができるのか、解説します。

【ユッキー先生のアドバイス】

成年後見制度の利用を躊躇する人が多いのも無理ありません。それは、自分が、あるいは自分の愛する家族が認知症などの病気で、理解力や判断力が冒され、お金や不動産の管理ができなくなったことに対して、愚別的なレッテルを貼られた感じがするからでしょう。また、成年被後見人(成年後見人の支援が必要と認められた人)には、最近まで選挙権・被選挙権が剥奪されておりましたが、平成25年7月1日以降に告示される全ての選挙からに成年被後見人にも選挙権・被選挙権が認められるようになりました。また、新しい成年後見制度の以前は、事理弁別の能力に欠けた人を禁治産者といって戸籍からも抹消されていました。このように、わが国の成年被後見制度の人権に関する配慮や取り組みは、確実に改善されつつありますが、未だ一般社会においては、障害を持つ人への人権擁護認識の改善が求められているのが現状です。

それ故、成年後見制度の活用は、家族や本人にとっても抵抗があるのでしょう。しかし、社会の構造そのものが大変複雑になってきました今の世の中で、認知症の人や他の精神障害者が一人で自分の身を守ることは難しいのが現状です。今まで、まじめに働いて残したお金を心もとない者の手にわたってしまうことは、とても残念です。

認知症の人が安心して生活できる環境を、家族そして社会が提供するための最初の一歩が成年後見制度です。この制度がもっと広く普及するこが、今後の高齢社会に必須と考えます。


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