第84回 知っていると便利、介護予防サービス:総合事業

介護保険サービスは、加齢に伴う身体的な衰えや病気、あるいは認知症などで日常生活上介護が必要な人が利用する公的サービスです。また、この制度が始まった2000年4月から、介護予防に関するサービスも展開されてきました。

2015年の介護保険改正で、「介護予防・日常生活支援総合事業(以下総合事業と称します)」が創設され、2017年から全国の市町村でこの事業に係わる様々な介護サービスがスタートしました。今回のコラムでは、前回に引き続き、知っていると便利なサービスとして「総合事業」をご紹介します。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 総合事業とは
  2. 知っておくと便利かも
  3. 総合事業って何?
  4. 高齢者に利用しやすい制度を!
  5. ユッキー先生のアドバイス

総合事業とは

厚生労働省のホームページによると「総合事業」は、これまで国が主体で実施していた介護保険サービスの中の介護予防事業や日常生活支援事業を各市町村に移行し、地域の実情に応じた介護サービスを展開する事業です。そのために、一部のサービスを介護保険事業から切り離し、市町村がその費用を負担する独自の事業になりました。

具体的には、これまで各市町村が一律の基準で実施していた介護保険事業の中で、要支援1、2と認定された人に提供されていた介護予防給付の訪問サービスと通所サービスを市町村の「総合事業」に移行しました。それゆえに、このサービスの利用料は市町村が独自に決めます。また要介護認定を受けなくても、その場でチェックリストに記入するだけで、市町村の判定基準に応じて介護予防サービスが利用できる制度です。

「総合事業」には「介護予防・日常生活支援サービス事業」と「一般介護予防事業」の2つの事業があります。前者は、要介護状態以外の高齢者を対象に、訪問型サービス、通所型サービス、生活支援サービを提供するもので、ADL(日常生活動作:移動、階段昇降、入浴、トイレの使用、食事、着衣、排泄など)やIADL(手段的日常生活動作:買い物,調理,洗濯,電話,薬の管理,財産管理,乗り物など)の維持、改善を目的にしています。後者は、地域の実情に基づき展開される介護予防サービスです。

訪問型サービスでは、掃除、洗濯といった日常生活上の支援を、また通所型サービスはミニデイサービスをはじめ体操や運動、レクリエーションなどの活動を通しての体力強化、生活支援サービスでは、栄養指導や配食あるいは一人暮らし高齢者への見守りサービスなどを提供します。

対象者は、要介護認定で要支援の判定を受けた高齢者、または基本チェックリストで市町村の地域包括支援センターが認めた65歳以上の高齢者です。この「介護予防・日常生活支援サービス事業」は、訪問看護や福祉用具の貸与は含まれません。

「一般介護予防事業」は、一口で説明すると、地域に暮らす65歳以上の高齢者が、いつまでも自立した生活が続けられるように地域が支援するための市町村事業です。例えば、閉じこもりや生活支援が必要な高齢者を市町村が把握し、介護予防活動につなげます。具体的には、体操や運動、趣味活動、交流会やサロンなどの通いの場づくりを行います。またその予防活動を普及・啓発のために、専門職や住民ボランティアを育成する事業などを積極的に行います。

知っておくと便利かも

65歳以上の一人暮らしや夫婦二人暮らしの高齢者が、例えば軽い体調不良で、家事などに支障が生じた場合に、地域包括支援センターに家事援助をお願いすると、チェックリストの結果に応じて迅速に市町村のサービスが提供されます。

体力に自信がない場合や、糖尿病、高血圧などの生活習慣病に対する生活アドバイスを専門家から聞きたい時、通院が必要な高齢者が交通機関を利用する時、歩いて病院に行く時などに通院の援助をこの事業でお願いできる市町村もあります。

このように知っておくと便利なサービスですが、市町村の独自事業ですので、各市町村によってはサービスの内容が異なります。他の地域に住んでいる人が利用しているサービスでも、今住んでいる地域で利用できるとは限らないことも知っておいてください。

総合事業って何?

「総合事業」は、私の解釈によると、増加する超高齢者や虚弱高齢者のために、各市町村が独自に展開する生活支援のサービスで、介護保険事業とは別財源です。この「総合事業」が始まる前にも介護保険事業の中に介護予防事業はありました。そこでは、一次予防事業と二次予防事業に分けられ、前者は高齢者全般に、後者は要介護状態になる恐れのある高齢者を対象に、介護予防事業を行ってきました。

主に一次予防事業では、要介護状態にならないための講習会や介護予防教室などを展開し、二次予防事業では、運動機能向上、栄養改善、口腔機能の向上など、身体機能向上を目的に、要介護状態の改善あるいは悪化を予防する支援事業でした。すなわち、「総合事業」の「介護予防・日常生活支援サービス事業」が旧二次予防事業、「一般介護予防事業」が旧一次予防事業も含めた総合的な予防事業になります。

そうなると、この「総合事業」の目的は、要支援者の通所型、訪問型介護予防事業を介護保険事業から切り離し、市町村が財源とする事業にすることで、国や都道府県からの財源を削減する事業とも言えます。確かに、我が国の超高齢社会では医療・福祉関連の予算は膨大で、それを少しでも削減しようとする方略は理解できます。ただ、介護保険サービスの財源削減を目的に、要支援者認定を意図的に減すことや、サービスの給付抑制が行われることには疑問です。現に要介護申請の受付を断られた家族が私の外来にもいました。

2019年11月に開催された社会保障審議会・介護保険部会で、要介護1,2の介護サービス事業の一部を「総合事業」に移すことが審議されました。そこでは、要介護1,2が軽度状態であるとする国の意向に疑問を持つ委員からの意見で、次期の介護保険改正には見送られました。すなわち国の方向は、介護保険サービスの利用を減らす意図のように思えます。

消費税や介護保険料が値上げされ、かつサービスの利用者負担も年収により1割~3割負担と改正されました。これらの社会情勢を考えると、これからの我が国の高齢者福祉はどの方向に行くのでしょうか。「総合事業」は、要介護状態を予防する事業と言うよりも、その財源削減のための事業のようです。

高齢者に利用しやすい制度を!

第83回コラムで話題にした「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」でも申し上げましたが、高齢者がサービスの内容を容易に理解でき、有意義と感じ、生活に馴染みある、そして形の見える介護予防サービスの提供を望みます。

住み慣れた地域の実情に応じて介護予防事業を促進する「総合事業」の趣旨には、全く異論はありません。一人暮らしや老々介護の夫婦にとって、身近な生活援助はありがたいものです。そして、地域の様々な活動に参加することは、退職後に生きがいを見つけるうえで、また認知症予防にも効果的です。

ただ、この事業についての厚生労働省や専門家のホームページの解説は、分かりにくく、気楽に利用できるサービスとはほど遠い印象を受けました。事細かな説明は、サービス事業者には必要ですが、高齢者にはもっと分かりやすい表現で、親しみのある事業と思える解説が必要です。

ユッキー先生のアドバイス

実は、私も本年で70歳になります。将来の安心・安全な毎日の生活を思い描くと、介護保険サービスをはじめ、様々な社会福祉サービスは欠かせません。むしろ病気のことよりも、老後の暮らしことが気になる今日この頃です。

高齢者に例え認知症になっても安心して暮らせる生活を提供することは、その子供たちにとっても願うことです。その意味で介護保険制度は大変優れた社会保障制度だと思います。ただ、将来の超高齢者の増加を十分に予測できたはずなのに、財源難を理由に、そのサービスを先細りさせる近年の政策は、本来の趣旨と全く違う方向ではないか、と思います。



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