第87回 家族の疑問3:職場での介護相談―あなたの対応は。

ある女性からの質問です。

「先日、同じ部署の女性職員から、秋田に住む認知症のお母様の介護についての相談を受けました。今は、お父様が一人で介護をしているのですが、何度か『もう限界』と悲愴な声で電話があり、女性職員に助けを求めてきたのです。彼女は、仕事は続けたいようですが、こんな時にどのようにアドバイスをすればよいのでしょうか」

今回のコラムでは、同じ職場の同僚や部下が親の認知症介護について相談してきたときに、どのようなアドバイスをしたら良いのか、考えてみたいと思います。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 被相談者の対応
  2. 「介護をシェアする」という考えかた
  3. ユッキー先生のアドバイス

被相談者の対応

認知症の母親を介護している父親がその対応に困り、娘である女性職員に助けを求めてきたケースです。女性職員は、どうしたら良いのか上司に相談したのですが、その上司(被相談者)も対応に困ったようです。このような事情を抱えた職員が、上司に適切なアドバイスを求め、相談するケースが多いようですが、その対応方法を考えてみます。

まずは、その相談者の話をよく聞き、本人が悩んでいる事柄の本質を見極めることに努めます。その際、よくあることは、被相談者が自分の考えを相談者に押し付けることです。また、世間でよく言われているような無難なアドバイスを施すこともあります。このような対応に相談者は、相談したことを悔やむことがあり、その被相談者への信頼を失ってしまう場合もあります。

その理由として、相談者の心中には、漠然とした自分の答えを持っていて、その是非を確認するために相談するケースが多いからです。特にYes, Noの回答を求める相談では、慎重な対応が求められます。何故なら、被相談者の回答に相談者が同調するかのように振る舞っても、内心は真逆のことを考えていることがあるからです。

このようにAかBかの選択を求められた時は、相談者が本音を話せるような雰囲気を被相談者が作り出すのが得策です。例えば、「あなたはどうしたいの?」のように相談者から答えを聞き出すのも一つの方法です。

ここで注意することは、認知症の親の介護のような問題は、多くの場合、相談者は建前的な回答に終始します。例えば、退職して世話をしなければならないか否かの相談では、「あなたはどう考えているの」の質問に、「親を世話するのは当然ですから」という返答です。そこで「では、退職を考えているの」と相談者の本根をさらに探ってみてください。

そこからも、本音を語るには時間がかかります。被相談者は、相談者の考えを肯定したり、否定したりする返答は避け、会話を進めてください。例えば、相談者が「退職したいのですが、どう思いますか?」との問には、「あなたは退職したほうが良いと思っているの?」と、相談者の問いをそのまま返すように問いかけてみてください。そうすることで、相談者は自身の考えをもう一度考え直す機会を得ます。そして、その先の行動を筋道立てて考えることができたら、それで被相談者の役割は果したと言って良いでしょう。

親の介護の相談では、被相談者が「良い介護」を教えてあげたいと思いがちですが、「良い介護」の考えは十人十色です。実際には、相談者自身が「これがいい」と思ったことが良い介護なのかもしれません。相談者がその結論を探し出せるお手伝いができたとすれば、それが一番良いアドバイスかもしれません。

「介護をシェアする」という考えかた

認知症の介護を体験したことない被相談者は、職場で介護相談を持ちかけられると、ただ当惑してしまいます。恐らく相談者は、身の上話のつもりで相談するのですが、話しているうちに、「どうすれば良いのか」と答えを求めてきます。その時に、被相談者は「答えられない」、「わからない」と回答したいのですが、同じ職場の同僚や部下が相談しているのに、無下に「わからない」では、何か後味の悪い感が残ります。そこで、相談者が納得するアドバイスを考える必要があります。

被相談者は「介護をシェアする」という考えを伝えてみてください。「介護離職」をテーマにした第40回のコラムでは、この考え方を解説しました。今回のコラムでは、被相談者が相談者に何か良いアドバイスをしてあげたい、と思った時に、この考えを相談者に伝える方法をお教えします。

相談者の多くは、何もかも自分がしなければならない、と思っているようです。しかし、親が認知症になったからと言って、これまで経験したことのない介護がそう容易くできるものではありません。まして、地方に住む親の介護をどうしたら良いのか考えると、途方に暮れてしまうのが普通です。

まず、被相談者が最初にかける言葉は、「何もかも一人でやろうと思うと、認知症の介護は大変ですよ」。でも大方の相談者の返答は「自分がやらなければ・・」と言い返します。このように、追い詰められた精神状態では、すぐに介護破綻を招いてしまいますので、第一声では、相談者の切羽詰まった気持ちを少しでも察してあげるつもりで、言葉かけを続けてください。

「今のあなたに、出来ることと、できないことは何か、を考えてみてください」

すなわち相談者は、あれもこれも自分がやらなければとパニックに陥っているので、このような言葉かけが功を奏すことがあります。少し冷静になって、現状で相談者が可能な介護はどのような事か、考える時間を与えるのです。

そして「あなたができないことを誰にお願いすればよいのか考えてみましょう」。この質問では、相談者は身内のことを頭に浮べてしまい、消極的になり「やはり私しかいない」と思うでしょう。しかし、ここまでの会話で、今の生活環境では自分にできないこともある、自分の生活も守りたい、と思っている内面に気づくでしょう。

そこで、相談者ができない介護、食事や入浴など日常生活上の介護は、介護保険を利用し、プロの介護者にお願いする事を提案してください。その際にケアマネージャーが認知症の人に必要な介護サービスを提案してくれることも相談者に教えてください。このようにプロの力を借りて、認知症人が安心して生活できる環境を整えることが必要だ、と相談者が気付くと良いですね。

場合によっては、施設入所をお願いすることもあります。いずれにしても、プロの介護者と介護をシェアすることは、この先も相談者が今まで通りの親子関係を継続する唯一の方法です。プロの介護者は、家族の代わりにはなれないと同時に、相談者はプロの介護者でないことを認識できたとすると、介護の考え方が変わります。

被相談者は、なかなか相談者の本心を知ることができません。当然のことですが、ほとんどの介護者は今の生活の継続を望んでいます。そのためには、介護保険サービスを提供するプロの介護者と協働して、親の介護に携わることを勧めて下さい。

ユッキー先生のアドバイス

介護の相談で被相談者が念頭に置かなければならないことは、どんな相談内容であっても、決まった答えはない、ということです。介護に関する考え方、認知症の人とのこれまでの関係、生活環境等は千差万別ですので、被相談者の考えを主張するような言動は避けた方が良いでしょう。

いずれにしても認知症の介護は、家族だけで行うことは困難です。初期のうちから、プロの介護者とシェアしながら介護にあたることが重要です。それにより、介護負担が抑えられ、心に余裕が持て、認知症の人と今までの関係を維持できれば、介護破綻は回避できるでしょう。このことを念頭に置き、相談に応じるとよいと思います。



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