第61回 認知症の人の対応~デイサービスが嫌い~
- 担当のケアマネジャーが、認知症の人やその家族にデイサービスの参加を勧めることがよくあります。それは、認知症の人の生活機能の維持に役立つばかりか、世話している家族に休息時間を提供し、食事や入浴、排泄など介護を肩代わりし、その負担の軽減にも役立つことから、多くの方に利用されています。
家族を悩ますのがデイサービスの参加を頑なに拒む認知症の人への対応です。また、参加を説得しても、1~2回でその後の参加を拒否する人もいます。第61回のコラムでは、デイサービスの参加を嫌う認知症の人の対応を考えてみました。
- この記事の執筆
廃用症候群の予防
認知症の人が利用するデイサービスの正式名は、「認知症対応型通所介護(以下、認知症DSと略します)」と言います。このサービスは、認知症の専門的なケアや作業療法等を提供し、認知症の人の社会からの孤立や家族の介護疲れの解消を目的としています。それ故、通常の通所介護サービスと異なり、認知症ケアの専門スタッフが配置されています。詳しくは、「認知症を知る」をご参考ください。
認知症の人に限らず、高齢になると、知らない人と交わること、新しいことを行うこと、知らない場所に行くことなどに躊躇する人が多いようです。元からの性格もありますが、年齢と伴に社会参加や活動の意欲は衰え、むしろ、何もしないで家の中で自由気ままに過ごすことを好みます。その背景には、心と身体の老化が影響し、特に意欲の老化は、日常の活動性を低下させてしまいます。
このような活動性の低下は、孤立や閉じこもりに繋がり、その結果、運動機能や認知機能が低下し、寝たきりや認知症を招いてしまいます。人の身体機能は、毎日使わないとどんどん低下してしまいますが、その現象を廃用症候群と言います。例えば、骨折などで一定の期間運動が制限されますと、その周囲の筋肉が衰え、以前のような力が出ないことを経験した人も多いと思います。廃用症候群は、運動系だけでなく、他の臓器にも見られ、特に脳の機能は、高齢になるとその衰えが著しいようです。
運動機能の回復に役立つのがリハビリテーションです。衰えた筋肉を復活させるためには、積極的に筋肉の増強を図らなければなりません。まして高齢になると筋力の低下のスピードは早く、またその回復は遅いために、いったん筋力が落ちるとその回復のため並々ならぬ努力を要します。
また、高齢者が身体の病気で長期間入院を強いられますと、運動機能はもとより、記憶力、理解力、判断力などの能力も低下し、同時に日常生活上のさまざまな行為が営めなくなることがあります。これも廃用症候群と考えますが、早期に対応しないと、回復が不可能になり、認知症に発展してしまいます。
廃用症候群は、社会との接触を嫌い自宅に閉じこもることでも当然起こります。特に認知症の人は、他者との接触を極端に嫌いますので、家に閉じこもる事が多いようです。かといって、外出や地域のイベント等の参加は、一人で行くことは難しく、どうしても家族が付き添うことになります。それゆえ、家族の都合が優先されるために、頻回の外出は大変です。そこで、認知症DSを利用し、身体を動かし、他の参加者との交流で廃用症候群の予防に努めることが必要です。
家族介護者の骨休め(レスパイト)
認知症の介護は、当事者でなければ分からない苦労が伴います。自宅で家族が介護する場合は、24時間気を抜けないこともありますし、本人の生活ペースが優先されますので、介護する家族の時間がなかなか思うように取れないのが現状です。また、認知症の介護は、長い期間続きますので、家族にとってうんざりすることもあります。
そこで、週に2~3日、認知症DSを利用できたら、その日は家族が介護から解放され、一息入れることができます。また、毎週決まった曜日に認知症DSに参加しますので、計画的にその日を有効に使うこともできます。この介護の休息の日を持つことは、介護負担の軽減に役立ちますので、在宅介護を継続させる秘訣です。
認知症は、生活障害をきたしますので、進行すると排泄、食事、入浴、着替えなどの介護が必要になります。これらの介護は、慣れていない家族にとって大変大きな負担になります。また、認知症の人との関係によっては、入浴や排泄介助などに抵抗を感じる家族も少なくありません。このような介護は、DS参加時にプロの介護職が肩代わりしてくれますので助かります。要介護度が高くなりますと、ほぼ毎日DSを利用することが可能ですので、大変な介護をDSのスタッフに任せることもできます。
認知症の人の中には、家族が困る精神症状や異常な行動をみることがあります。徘徊は、家族が外出しないように24時間見守っていなければなりません。もの盗られ妄想や嫉妬妄想などの訂正がきかない信じ込みは、その対応に苦労が強いられます。さらに、大声での暴言、叩く、蹴る、つねるなどの対応にも限界があります。このような行動心理症状(BPSD)が出現した時に、認知症DSはその軽減に効果を発することあります。
家族介護者を困らすBPSDは、激しくなると認知症DSでも対応できないことがあります。これらの症状は、比較的進行した時期に出現しますので、早い時期から認知症DSに参加していると、専門スタッフが本人をよく理解していますので、激しい行動の要因を見つけ、うまい対応を施すことができます。また、スタッフから対応方法のアドバイスを受け、場合によってはショートステイの利用に繋げて、家族が一人で困らないように、いろいろアドバイスしてくれます。
デイサービスの参加を促す対応
認知症の人が認知症DSの参加を嫌がる理由は、新しい環境に行くこと、知らない人と交わること、DSに行く理由がわからないこと、などです。DSの内容を説明しても「そんなの嫌い」「家にいたほうが良い」と聞く耳を持たず、感情的になって反対します。しかし、認知症DSは、本人のみならず家族にとっても有益なことから、できるだけ参加を促す必要があります。そこで、嫌がる認知症の人の対応を考えてみました。
ほとんどの認知症の人は、DSとはどのような処で、何をするのか、理解していません。家族も詳しく知らない人が多いようですが、DSの参加前に本人の承諾を得るため、家族がDSに関する説明をして、説得しなければなりません。そこで、家族の方に時間的余裕があれば、参加を促す前に、お目当てのDSを見学して、どんなところか確認し、その印象を本人に伝えてみてはいかがでしょうか。
本人の強い参加拒否から「本人には合わない」「効果が期待できない」と消極的考える家族がいます。その時に、認知症DSの意義についてもう一度考えてみてください。DSは、本人が楽しみに行く処でなく、廃用症候群の予防とそれに伴う認知症の進行抑制のための参加で、家族の介護負担軽減に役立つ場です。
認知症DSの参加を促すため、以下の点を念頭において丁寧に説明してみてください。
① 歳をとって衰えてきた身体や脳の機能を回復する為のリハビリテーションの場所で、年寄りが集まる集会所、遊びに行く場所、楽しみにいく場所ではないこと。
② 専門の職員が、無理なく体を動かす体操やゲームなどを指導して、身体の機能回復に努め、また脳の働きを良くする取り組みで、日々の生活機能を高める。
③ 昼食サービスがあり、希望があればお風呂にも入れる。バスが家まで来て、送り迎をしてくれる。
④ 認知症(物忘れ)の進行を抑制し、失われて行く日常生活のさまざまな機能を回復する為に必要なところ。
⑤ DSに参加している間に、家の片づけをしたい。買い物に行きたい。それができると(私も)助かる。(私のためにも)DSに参加してほしい。
デイサービスが嫌い、の対応
最初から「デイサービスは嫌だ」と強く拒否する人がいます。上記のポイントを踏まえて説得してもダメなときは、「(家族の方も)一緒に見に行きましょう」と誘ってみてください。一人で参加することが不安な人には効果的です。何度か一緒に参加すると、やがて、本人ひとりでの参加も受け入れられるようになります。
何度か参加していた人が、突然「デイサービスに行きたくない」と拒否した時は、DS参加中に何か嫌なことがあったのでしょう。例えば、他の参加者とのいざこざ、スタッフの対応、課題の失敗、できなかったことへの羞恥心などです。その原因を本人から聞き出すことは難しいのですが、行きたくない理由を尋ねるのも良いと思います。また、DSスタッフに相談して、原因がわかればスタッフと対策を練ってください。
どんなに苦心しても認知症DSの参加を嫌がる人はいます。その場合は、一端DS参加を飽きられて、DSのことに触れないで、日々を送ってください。そして1か月ぐらい経ったら、参加を促す説得を再び試みてください。DSの参加を何度もしつこく勧めるとDSに悪感情が生まれますので、次回のチャンスを待ってください。
ユッキー先生のアドバイス
第36回、37回のコラム「認知症の人の世界」でも説明しましたが、認知症の人は、自身の壊れていく姿に恐れ戦き、不安で身動きが取れない状況にもがき苦しんでいます。そこに猜疑心や自己防衛心が生まれ、家族の思いとは別に、頑なな拒絶と攻撃の感情が生まれます。そんな感情を癒すには、嘘偽りの説明ではなく、不安な気持ちに寄り添った対応です。
(2018年3月26日)
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