第65回 緊急特集:認知症の人の熱中症対策
- 2018年7月23日には、熊谷市で史上最高気温を上回る41.1度を記録しました。今年の夏は、例年より早い6月29日に関東地方で梅雨が明け、その後気温が35度以上の記録的な猛暑が日本列島を襲っています。それに伴い東京都では、7月1日から23日の間に52名が熱中症で死亡し、そのうちの84.6%が60歳以上の高齢者で、この数は、昨年の同時期の2倍以上と報告されています。
熱中症死亡者の何人が認知症の人であったかは定かでありませんが、その数は多いと察します。今回のコラムは、このような、災害ともいえる異常気象の中で、認知症の人の熱中症予防対策を考えてみました。
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認知症の人に熱中症が多い理由
認知症に冒されると、記憶はもとより見当識、判断、理解といった能力が障害されます。時間に関わる見当識が冒されると、今が朝なのか、夜なのか見当がつかなくなるだけでなく、今の季節がいつなのかも分かりません。要するに、認知症の人は、季節が夏で、気温が上がり、とても暑くなることを予測できません。それ故に、夏の暑い時間帯にもセーターを取り出して着ようとする人もいます。
判断力が冒されると、暑くて汗をかくことで体内から水分が失われ脱水症になり、また室内が高温だと体内に熱がこもり熱射病になると、家人から注意されても、水分を補給すること、室温を下げることが必要、という判断は思いつきません。それゆえ、熱中症を予防する手段を本人自ら実行することはありません。
認知症の人に限らず、多くの高齢者は水分をとることを嫌います。私の子供のころ、母は「冷たいものを摂り過ぎると、からだをこわす」と言い、氷水やアイスキャンディーなどあまり食べさせてくれませんでした。田舎の祖母などは、喉が渇いたときに「熱いお茶が良い」と言って、それを飲ませられたものです。
また、水分を摂ることで、「トイレが近くなる」「夜、尿失禁をする」と思い、寝る前など水分を摂らない高齢者が多いようです。さらに「水を飲むと汗がでる」から飲まないと主張する人もいます。私の学生時代には、運動部の練習中に「水分を摂ると汗が出て体力を消耗する」と、飲水を禁じていました。今の高齢者があまり水分を摂らない理由も、これらの昔の誤った生活習慣の延長かもしれません。
私の子供の頃には、各家庭にクーラーはありませんでした。それからクーラーが世の中で普及しても、「必要ない」あるいは特別な理由がなくても「クーラーは嫌い」と思っている高齢者が沢山いました。その頃の人は、窓から入る自然の風を好み、少しでも涼しくするために打ち水をするなど、生活の中で涼をとる工夫をしていました。それゆえ、クーラーは必要なく、また冷気が体に悪いと信じていたようです。
認知症の人の熱中症対策
1.水分摂取と室内温度調整は、本人任せにしない
家族は、認知症の人の熱中症にいろいろ策を講じているようですが、言葉で「水分を摂ってください」「室内のクーラーをつけてください」と注意しても、それを本人が実行することはほとんどありません。「注意したから熱中症は大丈夫」と決めつけることが一番危険です。水分の摂取や室内の温度調整は、本人任せにせず、家族が本人の水分摂取を確認し、同時に室内温度調整を実施することが必要です。
2.見守れる人をおく
独居や老々介護、また日中本人が一人になる時間が長い日には、本人を見守る環境を作ってください。方法としては、ケアマネジャーに相談して介護保険サービスの訪問介護や看護を利用して下さい。家族が不在な日に1日一回訪問し、水分摂取の状況や室内温度のチェックを依頼してください。仕事場から、電話で指示するだけでは、本人を熱中症から守れません。
3.室内の温度調整はできるだけ広い範囲で行う
猛暑の日差し避けるために家にいれば安全、と思っている人がいますが、熱中症で救急搬送される多くの人は、室内で発見されています。室内は、熱がこもり、蒸し暑く、危険です。家屋内の温度調整は、本人の部屋だけでなく、よく利用する居間やキッチンなどにもクーラーをつけ、その室内の温度にも気を付けてください。認知症の人の中には、自室内外の温度差を嫌い、クーラーを止めてしまう人がいますので、それを防ぐには、介護者が室内の温度を28~29度に設定し、コントローラーを目の届かない場所に置き、本人が操作できない環境を工夫してください。
4.夜間の室内温度にも注意する
夜間、外気温が下がると、就寝時にクーラーを止める家庭が多いようですが、熱帯夜でもクーラーを止めて寝る人もいます。その場合に、窓を開けて風を通すとよいのですが、防犯を考えるとそれもできません。夜間でもなかなか温度が下がらない熱帯夜は、認知症の人の熱中症には特に注意が必要です。部屋を閉め切り、布団を掛けて寝ている人もいて、ますます体内に熱が蓄積してしまいます。また寝ているときに汗をかいても水を飲もうとしないので、脱水にも注意が必要です。
夜間の水分補給や温度調整も介護者が行わなければいけませんが、なかなか容易ではありません。保冷剤を活用し、体の一部を冷やすことも多少体温を下げ効果はありますが、熱中症予防には至りません。夜中の室内温度は、この際、電気代がかさみますが、クーラーを28~29度に設定し、一晩中作動させ、また本人が設定を操作できない環境を工夫してください。
5.着ているものをチェックする
認知症の人の厚着に注意してください。真夏日や猛暑日でも何枚も重ね着をしている人や冬物を着ている人がいます。介護者は、常に認知症の人の服装に注意を向け、熱が体内に蓄積しない服装を工夫してください。
6.本人の好きな飲みものを用意する
飲水は、本人の好む水分を用意してください。スポーツドリンクは電解質が豊富で、脱水予防に最適ですが、その味を嫌う人もいます。無理にそれらを飲ませようとすると、頑なに拒否して、かえって逆効果になることがあります。一度に沢山でなく、一口でも多く、こまめに水分を飲ませてください。そして、塩せんべいや梅干しなどの塩分の補給も一緒に行ってください。ただし、ビールなどのアルコールはかえって身体から水分を抜いてしまう作用がありますので控えてください。
7.水分の多い食事を気にかける
夏は、美味しいスイカや桃などの果物があります。またソーメンや豆腐なども夏に欠かせません。このように、果物や食材の中に水分が多く含まれているものを食べさせてあげてください。高齢者の中には、冷たい粥などを好む人がいます。いろいろ食材に工夫してください。
8.ショートステイやデイサービスを利用する
日中あるいは夜間に認知症の人の見守りができない家族は、介護保険サービスのデイサービスやショートステイを利用してください。これらの「通い」や「泊り」の介護サービスは、この時期お盆休みとも重なり、利用者が多いので予約が取りづらいこともあります。担当のケアマネジャーや地域包括支援センターで相談すると、キャンセルが出た施設を紹介してくれるかもしれません。
9.本人の体調に注意する
認知症の人の中には、様々な合併症を持つ人も多いようです。特に糖尿病や高血圧などの生活習慣病、その他の腎疾患、心臓疾患、内分泌疾患などの慢性疾患は、体内の水分量の変化に敏感ですので、すぐに脱水状態に陥り、熱中症になりやすい状態です。また、服用している薬の中にも、身体から水分を尿として追い出す薬もあります。是非、かかりつけ医師に熱中症予防について相談してください。
また、夏は食中毒による下痢や夏風邪などの発熱が多く、それらが熱中症の引き金になります。特に下痢は、体内の水分を外に出してしまうので、軽い下痢でも水分摂取に注意してください。また水分摂取を拒む認知症の人には、お粥や果物などで水分を補給してください。また発熱時はクーリングが重要です。首筋、両脇、股関節の周囲を保冷剤で冷やすクーリングが効果的です。
10.熱中症の予兆を見落とさない
熱中症の初期には、「めまい」「立ちくらみ」「筋肉痛」「手足がつる」の症状が出現しますが、本人が症状を訴えないので、見逃してしまう事も多いようです。状態が進むと、「頭痛」「めまい」「吐き気」「嘔吐」「倦怠感」など周囲にも異常とわかる症状が見られます。このような症状に気づいたら、水分補給と身体のクーリングを早急に行い、救急外来のある病院を受診してください。この時期を逃すと、けいれん発作や意識障害が出現し、生命にも危険が及びます。
ユッキー先生のアドバイス
若年者と高齢者の体内の水分の割合を比較すると、子供は約70%、成人は約60%であるの比べ、高齢者は約50%とその割合が少ないことがわかります。このように高齢者は、体内の水分量が多少喪失しても、その影響が大きく、脱水症や熱中症に繋がります。体内の水分が足りなくなると、高温で体温が上昇した身体を冷やすための汗が出なくなり、さらに体温が上昇し、脳細胞が障害され、死に至ります。
熱中症は、夏だけの問題ではありませんが、特に気温の上昇はその危険度が増します。認知症の人を熱中症の危険から守るのは、家族や周囲の人の熱中症の正しい知識と、ちょっとした生活の工夫です。是非とも、気温が高くなる夏の日には、熱中症対策を躊躇なく実行し、認知症の人の命を熱中症から守ってあげてください。
(2018年8月1日)
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