第74回 誤診が多い若い人の認知症~前頭側頭型認知症FTD

2004年に厚生労働症は、行政用語として「痴呆症」を「認知症」に変更しました。それ以前、老年痴呆と呼ばれたものが今のアルツハイマー型認知症で、初老期痴呆と言われた代表的な疾患がアルツハイマー病とピック病でした。

ピック病は、2000年初頭に病理学上前頭側頭葉変性症と同じと認められ、それ以来、前頭側頭型認知症(FTD)を病名に用いる臨床家が多くなりました。また進行性非流暢性失語症と意味性認知症を含めた前頭側頭葉変性症(FTLD)ともいわれ、名称が混沌としています。

前頭側頭型認知症FTDについては、第26回27回28回のコラムに詳細を記しましたので、ここでは、ちょっと違う観点で若年者のFTDについて考えてみましょう。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 誤診が多い理由
  2. 家族の対応
  3. 1.会話の内容に現実感や深刻さが乏しい
  4. 2.異常な行動を注意しても止めない
  5. 3.非礼な態度、怒りっぽい、身なりに気を使わない
  6. 4.食べ方の異常
  7. 今後のことの対応
  8. ユッキー先生のアドバイス

誤診が多い理由

若年性のFTDの頻度は、若年性認知症の3.7%で、若年性アルツハイマー病の7分の1程度と少なく、また他の精神障害との誤診が多いようです。理由は、ごく初期にエピソード記憶の障害や見当識障害が目立たず、異常な行動が主症状であることが挙げられます。

家族は、会社や家庭でのごく身近な人や出来事に関心を示さなくなった本人に異常を感じ、「閉じこもり」と思い、精神科を受診します。そこで多くはうつ病と診断されますが、実際のうつ病に見る悩んだ表情や自身を責め立てる自責感などはありません。むしろ出勤しないことにも深刻味は無く“あっけらかん”としています。

些細なことに執着して思い続ける、同じ行為を繰り返す、決められた時間の決められた行為に固守する、などの異常な行動が見られます。これらは、強迫行為と似ていますので、強迫神経症と診断されることがあります。すなわち、カギを閉め忘れていないかと何度も確認する行為や手洗いを何度も繰り返す強迫行為は、本人がバカバカしいと感じながら行為を続けるのですが、FTDの場合は同じ行為を淡々と繰り返します。

万引きや痴漢などの反社会的な行為を知らされた家族は、大変驚きます。家族が慌てて本人に会いに行くと、意外と平然としている態度に腹立たしく思うようです。被害者に状況を尋ねると、行為をすぐに認め、あやまり、その後はあっけらかんとした態度だったとの説明です。警察に連行され逮捕されてもあまり深刻に受け止めません。

普段の生活では、会話量が少なくなり、冗談を言う事や表現力豊かに話すこともしなくなります。一本調子の会話と同じ言葉の繰り返し、喜怒哀楽の感情表現を失い、固い表情で家に閉じこもってしまうので、精神科では統合失調症と診断されることがあります。さらには人格障害や発達障害と診断されることもあります。

家族の対応

前頭側頭型認知症FTDに限らず、若年性認知症の場合は、家族の対応に困難を伴います。普段の様子から、異常を感じた時に、多くは精神科を受診しますが、その時の診断結果がFTDではなく、上記のような他の精神障害のこともあります。しかし、日常で下記のような症状が見られたときはFTDを疑い、その対策を考えなければなりません。

1.会話の内容に現実感や深刻さが乏しい

家族が最初に本人の異常に気付くのは、毎日の行動が以前のような本人らしい振る舞いや会話が失われていくことです。FTDの人は、自ら進んで会話は持とうとしませんし、話しかけても会話が続きません。この時、家族は仕事の事や友人関係のトラブルが原因と疑いますが、具体的な理由が見つかりません。会社を無断欠勤し、部屋に閉じこもることもあります。無論家族は、理由を問いたり、時には叱責の言葉を発したりしますが、それらの言葉には全く関心を示さず、無視することが多いようです。

このような以前のその人には見られなかった態度や言動が続いた場合は、最寄りの精神科を受診し、診断を受けることが必要です。その際に本人の普段の様子を、詳細に説明してください。採血や放射線検査の結果よりも、本人の最近の行動変化から、正常、異常を判断し、診断を決める問診が重要になります。

2.異常な行動を注意しても止めない

同じ行為を繰り返す常同行為を家人が注意しても止めようとしません。ごく初期には、注意することでも効果がありますが、しばらくしてまた始めます。例えば万引きのような反社会的は行為も、発見され警察沙汰になっても、再度同じコンビニで同じものを万引きするようです。

ある例では、毎日夜の11時になると同じスーパーに出かけ、同じ缶ビールを3本買ってきます。家に帰り、そのビールを一口呑んでは他の缶ビールを開け、また一口呑んでは、新しい缶を開けます。口が開いた缶ビールが部屋のあちこちに置かれていたようです。妻が注意をすると、2~3日缶ビールは買わないのですが、直ぐにまた同じ行為が始まったようです。

異常行為をやめさせるように働きかけても多くは効果がありません。そこで、発想を転換し、その行為が続いても大きな問題にならないように根回しするのも一つの方法です。例えば、警察沙汰になる行為が予測されたら、本人の前頭側頭型認知症の診断書を持参し、警察や加害者に見せて、説明すると良いでしょう。また、万引きなどは、同じ店で再度その行為に及びますので、予め店の人に事情を説明し、あとで支払いに行くように算段すれば、大事に至りません。

先の例では、家族が缶ビール3本の出費を問題とせず、本人の行動を止めさせずに、見守ったようです。すると、毎日の生活で、缶ビールを買いに行く決まった行動パターンが本人を落ち着かせたようです。本人の行動を強く抑制すると、かえって不穏になることが多いのです。

3.非礼な態度、怒りっぽい、身なりに気を使わない

前頭側頭型認知症FTDの代表的な症状に「抑制の欠如」があります。これは、他者への配慮に欠けた迷惑な振る舞いで、反社会的行動にも繋がります。例えば、花壇の花を抜き取り持ち帰る、駐輪車を倒すような行為です。その他にも、交通ルールなど社会的秩序を守らず、勝手な振る舞いをします。

突然怒り出すことがあり、周囲を驚かせます。お洒落だった人が、化粧や衣服に無頓着になり、食べこぼしのシミが付いた服を平気で着ています。このようなちょっと困った行動に家族が注意しますが、ほとんど効果はありません。かえって興奮することがあります。

困った行為はFTDの初期に目立ちますが、この時期だと記憶力や会話の理解力が比較的残存しています。それゆえ、本人に丁寧にその行為をやめるように、一度ではなく何度も説得して下さい。また本人の行動パターンを変えるのもよいでしょう。デイサービスの参加や過去に夢中になった趣味に気持ちを向けることも一つの方法かもしれません。

4.食べ方の異常

FTDの初期から中期にかけて物の食べ方の異常がみられます。スナック菓子を食べ続ける行為や食事の量が非常に多くなることもあります。また食べ方が今までと違い、噛んで食べるというよりも飲み込むような早食いになることがあります。その行為で誤嚥やのどを詰まらせるなどの事故も起こります。

この食行動の異常をやめさせることは不可能です。誤嚥や窒息を防ぐには、食事の際に家族がそばにつき、食べさせる介助が必要です。また、食事の形状を柔らかくし、飲み込み易くするのも良でしょう。少しずつ、ゆっくり噛んで飲み込むことを言い聞かせながらそばで介助することを試みてください。

今後のことの対応

FTDが中等度に進行しますと、会話が極端に乏しくなり、コミュニケーションが困難になります。このころには、常同行為が激しくなることもあります。トイレや入浴、着替えなどの自身の身の回りのことも介助が必要になりますが、激しく抵抗することがあります。さらに進行しますと、言葉を発することが無くなり、様々な指示にも従えなくなりますが、普段の決まった本人の行動は残ります。終末期には、多くの場合、肺炎や他の感染症が原因で一生を終えます。

若年性FTDの進行は比較的早く、予後は発症から6年から9年と言われています。家族の世話の負担は、初期の行動の異常から始まり、進行に伴う身の回りの世話も抵抗が強いことから、自宅で世話は困難です。しかし介護保険サービスや介護施設への利用も断られる場合が多く、家族は途方に暮れてしまいます。

その様な状況の時は、地域包括支援センターに是非相談してください。国の新オレンジプランが施行されてから、地域で認知症の人を支援する活動も広まっています。できるだけ、多くの専門職が係わる体制をお勧めします。状況によっては、地域の精神科病院での入院治療を考えることも必要です。

ユッキー先生のアドバイス

前頭側頭型認知症は、初期から迷惑行為や常同行為、食行動の異常など多彩な行動障害を伴うために、他の若年性認知症と異なる介護の大変さがあります。家族だけで世話しようとせず、多くの専門家と協働しながら対応してください。

ただ、本人の行動のパターンを十分観察して、そこから本人への対応を考えると意外に楽に世話することができます。それぞれの異常な行動には意味がありますので、それを見極めることで良い対応が見つかるかもしれません。


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