第79回 認知症の人の身体拘束は是か、非か?

2019年9月にNHKクローズアップ現代+で医療機関における身体拘束の実態が報告されました。10月16日には、視聴者の意見を踏まえて、現場の医師、看護師、介護士らがこの問題について討論した同番組が放映されました。

そこでは、認知症患者などがケアに激しく抵抗する様子や異常な行動への対応の難しさが報告され、身体拘束を容認する意見も聞かれました。このコラムでは、前回に引き続き医療現場での身体拘束について考えてみます。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. 身体拘束を必要とする理由
  2. 身体拘束の法的問題点
  3. 一般病院での身体拘束
  4. ユッキー先生のアドバイス

身体拘束を必要とする理由

9月11日の番組に対する視聴者の声が掲載されています。

NHK>NHKクローズアップ現代+>【身体拘束は減らせない?】に寄せられた声

投稿者のほとんどが医療・介護関係者で、身体拘束をせざるを得ない現場の様子を生々しく訴えていました。その患者のほとんどが認知症で、病院スタッフの悲鳴とも思える日常の様子が描かれていました。

投書内容を読むと、現場スタッフの業務遂行上、あるいはスタッフ自身の身の安全のためにも認知症の人の身体拘束はやむをえない行為との認識でした。具体的な理由として、転倒のリスク、点滴の抜去、おむつ外し、夜間帯のスッタフ不足、暴言・暴力、看護・介護への抵抗、家族の不理解などが挙げられています。

当然のことながら、実際に身体拘束を受けた患者からの投稿はありません。それ故、議論は、ケアに係わる側の意見のやり取りで、患者が身体拘束をどのように受け止めているかの議論はありませんでした。

認知症患者の思いを想像すると、多くは入院や治療が必要な状況を理解できず、「見知らぬ人が怖いことする」という恐怖心から、自身を守る行動をとっているように思います。しかし、治療者側は、その自己防衛の行動を認知症の異常な行動と判断し、医療業務を円滑に行うために身体拘束を選択します。患者はその行為にさらに激しく抵抗する様です。

ここには、患者と治療者の双方が、互いへの理解に欠けた一方的な行為が行われているように思います。すなわち、それぞれが自分の行為を正当化し、相手への尊厳に欠いた行為を自身のために優先しているのではないでしょうか。

身体拘束の法的問題点

一般の人は、患者さんへの身体拘束を非人道的と非難し、クローズアップ現代+のレポートでもその行為に批判的でした。しかし、医療現場では必ずしも身体拘束を否定していません。この点を法律的な視点から考えてみます。

法曹界での医療現場における身体拘束の解釈も混とんとしています。2010年1月に最高裁判所は、名古屋高裁で身体拘束を違法とした判決を差し戻しました。この裁判は、80歳の入院患者の転倒予防のために、看護師が入眠するまで約2時間ミトンによる身体拘束を行ったことが不法行為および債務不履行に当たるとして家族が損害賠償を求めた裁判でした。

ここで注目したいのは、一審では請求が棄却されましたが、高裁では70万円の支払いを命じた判決でした。しかし、上告した最高裁では、この高裁の判決の差し戻しを命じたのです。

m3.com>医療維新、2010年2月10日

身体拘束の法的規制としては、介護保険の施設設置基準で原則禁止が明記されています。しかし、患者の行為に、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要素が認められた時には身体拘束が許されます。すなわち、身体拘束を容認する条件が示されているのです。

この3要素は、一般医療機関でも拘束の容認基準として身体拘束マニュアルなどに明記されている場合が多いようです。すなわち医師法では、身体拘束を違法とする条項はなく、現場の状況により身体拘束が容認されているのが現状です。

精神保健福祉法(正式名称:「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」)では、精神障害者の心身喪失や心神耗弱の状態での異常行為に対して身体拘束を容認していますが、そこには実施のための詳細な規定が設けられています。この法律で注目したいのは、精神障害者に、事理弁別能力欠損に伴う自傷、他害の疑いがあると判断した上で身体拘束を指示できるのは、精神保健指定医であることが定められている点です。

一般病院での身体拘束

精神科以外の一般病院での身体拘束の実施は、恐らく担当医師の指示によりますが、多くの場合は、ケアに当たった看護師の判断で実施されているようです。その判断基準は、身体拘束実施の3要素である「切迫性」「非代替性」「一時性」が基本になりますが、それらの詳細な判断基準は、個々の医療機関に委ねているのが現状です。また、その判断に基づき、身体拘束の実施を指示する現場の責任者は誰なのか、曖昧なのが現状です。

中には、ケアに携わっている専門職者などの独自の判断で身体拘束が実施されることもあります。この背景には、治療の為と言うよりも、現場の都合で身体拘束が実施されていると疑わざるを得ないケースもあります。もしそれが現実であれば、「身体拘束の3基本原則」は身体拘束を実施するための言い訳として利用されているとも解釈できます。身体拘束が人権的配慮を踏まえた上での実施なのか、あるいは現場スタッフ側の都合による実施なのか、その答えは謎です。

ユッキー先生のアドバイス

今や一般病院、急性期病院を問わず、高齢者患者が急増し、これまでの医療のあり方を変革する必要性に迫られています。高齢者医療と認知症を切り離すことができない現場では、拘束廃止にはまだまだ多くの課題を抱えていることも認めざるを得ません。次回のコラムでは、身体拘束根絶に向けて、医療がすべき行動について考えてみます。


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