ユッキー先生の認知症コラム

認知症専門医として、大学院教授として、認知症とどう向き合うか、ユッキー先生が語ります。
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第27回 前頭側頭型認知症の早期発見と症状

前頭側頭葉認知症(FTD)の経過 若年性認知症に比較的多い前頭側頭葉認知症は、その症状が多彩なことから、家庭介護者は無論のこと、プロの介護者にとってもその対応に苦労することが多いようです。そこで、この回ではFTDの特徴的な症状とその臨床的な経過を示し、次回第28回では、それらに対するケアの取り組みを紹介しましょう

前頭側頭葉認知症の早期発見

FTDは、50歳代から60歳代の若年者に発症し、しかも初期にはアルツハイマー型認知症(ATD)のようにエピソード記憶の障害や見当識障害が目立ちませんので、発症当初でこの病気に気付くことは臨床家にとっても難しい、と言われています。
そこで第26回の「ユッキー先生のアドバイス」で紹介した初期の行動について詳しく解説しますので、より理解を深めてください。もし、このような変化に心当たりのある方が周囲にいましたら、是非専門医に相談してください。

1.これまでの本人からは考えられない反社会的な行為をする。
比較的多い行動は、コンビニ等のよく行くお店で、支払いをしないで品物を持ち去る行為です。
多くの場合、本人は悪びれることもなく品物を持ち去ろうとするので、店の人に容易に発見され、しかも認知機能の障害はごく軽度のために、本人は状況を察知することができ、素直に罪を認めてしまいます。それゆえ、警察に通報され、窃盗罪としてとり扱われてしまうことが多いようです。他の反社会的行為として多いのが人前での性的逸脱行為(痴漢)や他人の家の植木を引き抜くことなどの反社会的な行為です。このように、その人らしからぬ反社会的行為が見られた時は、FTDを疑ってください。

2.周囲のことに関心を向けなくなり、自分勝手な行動、生活をおくる。
前回のコラムで紹介した後藤勝行(仮名)さんの例のように、仕事のことや家族のこと、親しい友人、物、そして趣味や社会情勢等今まで関心を持っていた様々なことに興味を示さなくなります。何を尋ねても表面的な返事しか返って来ません。また、自分勝手な行動が見られ、周囲を驚かせます。後藤さんも新学期の大切な時期に学校を休んでも特に葛藤はありませんでした。

3.些細なことに執着して、同じことを繰り返し行う。
例えば、新聞記事に赤のアンダーラインを引く、家具の位置の確認、自分の持ち物の鞄や手帳等、介護者にはどうでもよいことに執着します。場合によっては、一日中同じ行為をやり続けることもあります。

4.時間に執着する、決められた時間での食事、入浴、その他の行儀に固守する
ある入院している患者さんは、1日のスケジュール表の前に座り、ジーと時計を眺め、その時間が来ると真っ先に行動を開始します。3食の食事の時間、入浴、おやつ、レクリエーション、体操の時間はもとより、起床、消灯時間に至るまでスケジュール通りに行動します。それが叶わないと、険しい表情で病棟スタッフを攻撃します。このように、毎日時間通りの行動に固守します。初期には、ここまで激しいものではありませんが、日課について異常な執着を見せます。

5.会話での表現力がなくなり、一本調子、同じ言葉の繰り返しが多くなる
「会話ができなくなった」と家族は訴えます。本人からの積極的な話題提供がなくなり、また話しかけには表面的な回答しか返ってきません。本人の話しは、いつも同じ質問と表現の繰り返しで、会話になりません。このような、無関心や考え不精が見られることに家族は不快感を覚え、注意し、説得するのですが、その対応に対して怒り出すこともありますが、むしろ関心が無いような態度でその場をスーと立ち去ることも見かけます。

6.喜怒哀楽を表わさなくなる
情緒的な交流が失われます。傍に一緒にいてもその人から伝わる優しさや思いやりのような感情の表現が失われ、冷たく、表面的で疎通性に欠ける表情になります。中には、子供のようにはしゃぐ人もいれば、不機嫌で無愛想な態度で人との接触を嫌う人も多いようです。



医療機関への受診のさせ方

FTD初期の特徴的な症状に家庭が気づき、専門医を受診させようとしても、多くの患者さんは、病識がありませんので、受診を拒みます。そこで、どのように説得すれば受診に繋げることができるか、ご家族にとっては重大な問題です。例えば、反社会行動で刑事事件に発展した時には、比較的受診させやすいのですが、他の症状ではなかなか受診への説得は成功しません。それゆえ、FTDは、初期に診断する機会に恵まれないのが現状です。また前回の事例の後藤さんのように、うつ病や統合失調症等の他の精神疾患に誤診されることも少なくありません。

   

まずは、ごく初期に本人の変化に気づくことが重要です。
前回の後藤勝行さんのように、初期であれば本人に病識がありますので説得が効く場合があります。この時期が過ぎた時は、家族が本人に面と向かい、「最近様子がおかしい」とその変化をありのままに伝え、受診を勧めてください。無論、1度や2度の説得では功を奏しませんので、何度も、何度も、そして家族全員で、また本人が信頼している他の人にもお願いして受診を勧めてください。
ここでは、ご家族の粘りが重要です。FTDは、先にも述べましたが、記憶、理解力、判断力などの能力は残っていますので、説得に応じることもあります。また騙して受診させようとすると、騙されたことをいつまでも覚えていて、今後の家族関係、治療者との関係を悪くし、ケアを困難にしてしまいます。

認知症の専門病院では、CTやMRI、場合によっては血流状態を見るSPCT検査を実施して、前頭葉と側頭葉、さらには脳全体の変化を確認します。また、心理テストから認知機能の低下の状況を明らかにします。多くの場合FTDは、これらの検査結果と先に挙げた特徴的な症状で診断します。

残念ながら、FTDに効果的な薬物は開発されていません。多くの臨床家は、アルツハイマー型認知症に使用される抗認知症薬を使いますが、効果は期待できません。また、行動の異常には、抗精神病薬という安定剤を使用しますが、これも症状を抑える働きはあっても、その症状を改善させ、FTDそのものを治すことはできません。

しかし、患者さんの生活支援は医療においても重要な課題です。医療は、彼らの生活支援を容易にするサポート役として、主に行動の異常に対し適切な治療を行います。



FTDの進行に伴う症状の変化

FTDは、進行性の認知症ですので、そのケアを考える前にどのような過程をたどるのか知っておく必要があります。なぜならば、その進行の過程では、様々な社会的な支援を有効に利用することが重要で、恐らくご家族だけでケアを継続していくことはなかなか困難な状況が予測されるからです。ましてや、50歳代の若年者の場合は、その介護者が配偶者であり、経済的な問題や良好な家族関係に大きな危機をもたらします。では前回のコラムで紹介した後藤勝行さんを例にその典型的な進行の過程をご説明しましょう。

1.初期のFTD
教員であった勝行さんの発症当初は、抑うつ状態でした。それは、活気がなくなり学校を休むようになったことから、医師がうつ病と診断しました。しかし、実際のうつ病は、仕事をしたくとも辛くてできない、からだが動かない、といった活動性の低下を訴えますが、FTDは、仕事や家庭のことに関心を無くし、周囲にお構いなく身勝手な行動をするようになります。また、うつ病の人には、悲哀感やうつ感といった感情が周囲の人にも伝わり「辛そう」に見えるのですが、FTDの場合は、「何を考えているのか理解できない」、「いい加減にしてほしい」とその無関心さに腹立たしささえ覚えることがあります。

このように、初期のFTDは、うつ病と似ているように見えてもよく観察すると異なることがわかります。優しさや穏やかな表情が消え、冷たい感情、周囲や物事に無関心、奇妙な行動のこだわり、身勝手な行動は、FTD初期の特徴で、やがて1日を本人が決めた時間通りに進めようとします。起床の時間、食事の時間、お風呂の時間、寝る時間など、ほとんど狂いなく時間通りにおこないます。そして、やがて反社会的な行為が見られ、家族を驚かせます。

 

2.進行期のFTD
この時期になると、記憶の障害(物忘れ)や時間、場所、人物の見当識障害が目立ちますが、アルツハイマー型認知症のように、身の回りのことができなくなる程の障害ではありません。むしろ理解力や判断力の低下が著明になり、了解不可能な行動をとるようになります。

勝手な行動の延長としての反社会的な行動が目立ち、家族を悩ませることが多くなります。万引きや他者への性的ハラスメントなどの警察沙汰になる行動も珍しくありませんが、多くは、日常のちょっとしたマナーや常識的な行動ができなくなります。だれかと話している所にお構いなく割り込み、自分のことのみを主張する行為、商店街で排尿、ごみを道端に堂々と捨てる、など今までのその人には考えらえない反社会的な行動をします。それに対して周囲が注意しても聞き入れませんし、たとえ本人が謝ったとしても、形式的で、次の瞬間にはまた同じ逸脱した行動を繰り返します。

物や行為に異常なこだわりを持つようになります。例えば、いつも着ている洋服やアクセサリー、雑誌、新聞の広告、鞄や手帳など身につけているもの、などの身近なものにこだわります。また、簡単な絵、塗り絵、折り紙などの作成、本や雑誌への下線引き、レシート等の物の収集、その他の物や行為にこだわり、それを繰り返します。

食事の食べ方も変わります。ご飯とおかずをバランスよく食べるのではなく、茶碗の中のご飯を全部食べ、次におかずの一品を全部食べ、それが終わると他のおかずを食べ始めるといった食事のとり方をします。人によっては、食事の時の座る位置、茶碗やお皿の位置や並べ方などにも執着します。

 このころになると、時間通りの行動は、細かなスケジュールから大まかなスケジュールとなり、むしろ周囲への無関心が目立ちます。そして、たとえ家族であっても接触することを避け、言葉数も少なくなっていきます。

3.重度のFTD
このころになると、本人の会話量が極端に減ってきます。家族に対しても自分から積極的に話しかけることはせず、普段の挨拶や頼みごと、世間話等もしなくなります。また、家族とも目を合わすこともしません。呼びかけると、スーと顔をそらし、その場を去ろうとするようになります。

左の前頭葉が障害を受けますので、会話、言葉に関する異常が目立ちます。それは、アルツハイマー型認知症のように「物の名前が出てこない」といった記憶の障害に伴う異常ではなく、「リンゴ」を「リボン」と呼称し、会話のセンテンスも組み立てられなくなり、周囲は何を言おうとしているのか理解できなくなります。同時に、本人も相手の会話の意味が理解できなくなります。

さらに、奇妙な会話が出現します。それは一つのセンテンスに同じ言葉が強制的に入り込んでしまう滞続言語という言葉の障害です。例えば、「今日は、お天気がいいからドンヒャラリ」、「朝の食事はパンとドンヒャラリがきた」、「皆と一緒に出かけてドンヒャラリがきた」のように、会話の途中で『ドンキャラリがきた』という意味不明な言葉や音が強制的に入り込んでしまう特徴的な言葉の障害が見られます。

そして、排泄、入浴、着替え、食事といった基本的な身の回りのことができなくなります。排泄は、失禁と言うよりもむしろ、室内の隅に放尿や放便し、さらには便を手にとって弄ぶ行為(弄便)が見られます。入浴や着替えを自ら行うことはしませんし、食事は、箸を使わず手で食べ、さらには生肉や冷凍品など口にすることもあります。時には、紙や洋服の端、石鹸やスポンジなどその辺にある食品でないものも口にする異食行為が始まります。意外と多いのが、自身の指先の皮膚を噛む行為で、いつも出血した痛々しい状態になります。

この時期になると、全く他者との交流をもとうとしません。近寄って話しかけても、挨拶をしても、全く無視する態度をとります。無論、自分の意志を伝えることや要求する会話もなくなり、声を出すこともしなくなります。その内に、全身の筋肉が硬くなり、寝たきりとなります。また、食物の呑みこみも悪く、嚥下性肺炎に罹り、これが悪化すると、死に至ることも少なくありません。

【ユッキー先生のアドバイス】

FTDは、以前お話ししたレビー小体型認知症と同様、アルツハイマー型認知症と異なる特徴的な行動異常を来す認知症です。
若年者に多く、特にその初期には反社会的行為が見られますので、家族にとっては精神的に大変な負担を強いられます。若年性認知症の家族の会では、病気の症状である反社会的行為を犯罪として扱われることに大きな懸念を訴えています。一般の市民はもちろんのこと、警察でも、また専門家医の中でも、このような反社会的行為が病気なのか、あるいは犯罪なのかを区別することは容易ではありません。ただ、私達はこのような認知症があることを十分に認識し、もしも、その人から考えられない反社会的行為が見られたら、このFTDを思い浮かべてください。このことが犯罪者のレッテルを回避する重要な周囲の態度です。その人の反社会的な行為にとらわれず、これまでにお話しました異常な行為、態度が見られましたら、できるだけ早い時期に専門医を受診してください。

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