ユッキー先生の認知症コラム

認知症専門医として、大学院教授として、認知症とどう向き合うか、ユッキー先生が語ります。
ユッキー先生へのコラムのリクエストや質問があればこちら

第7回 認知症患者が受診を拒む-病院へ連れて行くには

先日のもの忘れ外来でのことです。初診の患者さんのカルテにメモ書きが挟んでありました。「本人には、『妻の健康診断の付き添』と説明して連れてきましたので、その点を配慮して診察してください」といった内容で、付き添ってきた娘さんからのものでした。

もの忘れ外来でよくみられる家族の訴えです。初診の患者さんの中には、このケースのように、家族がもの忘れを心配して何とか受診させようとするのですが、断固拒否する人がいます。このような抵抗に遭うと、どうしても受診を躊躇してしまい、初期の対応が遅れてしまいます。また騙して無理矢理病院に連れて来ようとすることで、家族の精神的負担がさらに大きくなってしまうようです。

なぜ受診を拒むのか?

私たちの普段の生活で、体調がおかしいと感じたときには、まずお医者さんに診てもらうことを考えます。それなのに何故、認知症の高齢者はそれを極端に嫌うのでしょうか。私のもの忘れ外来で、「何故、病院に来たくないのか」直接患者さんに尋ねたことがあります。その答えとして最も多いのが「自分はおかしくないから」でした。その他には「病院が嫌い」「薬を呑みたくない」「家族が馬鹿にするから」などで、その理由はまちまちです。でも、このような訴えを聞いていると、一生懸命に自分を守っているように思えるのです。「私はぼけていない」「みんなが “ぼけ”と馬鹿にする」「家族の世話になりたくない」「入院なんかしたくない」「施設なんかに入りたくない」と言うこころの叫びが聞こえてきます。

認知症は、エピソード記憶の障害がその代表的な症状ですので、新しく体験したことを全て忘れてしまいます。それ故、もの忘れで失敗したことや家族に迷惑をかけたことを覚えていません。ですから家族や周囲の者が「どうして覚えていないの」「今言ったばっかりじゃないの」と怒っても、呆れても、ご本人は何故そんなに怖い顔をするのか、なぜそんなに怒るのか、なぜいつも文句ばっかり言うのか、その理由が分からないのです。やがて、周囲の人が皆敵となり、自分を攻撃しているようにしか思えないのでしょう。だから「病院に行きましょう」と言っても、「自分はおかしくないから病院に行く必要がない」と拒否するのです。

認知症の人の病院に行きたがらない理由をこのように考えると納得がいきます。そして、さらに家族が何とか受診させようとごまかして病院につれてきたとしても、本人は「だまされた」とますます家族を信用しなくなり、ご自分を守るために、家族を攻撃し、医師や看護師も”ぐる”と思い、ますます病院が嫌いになる、また病院が恐ろしいところと思うようになってしまうのです。

どうすれば受診してもらえるか

私が、まだ大学病院で一般精神科外来を担当していた頃に、ときどき家族から受診を嫌がる高齢者の相談を受けました。その時、ご家族には「どのような手段でもかまいませんから外来にお連れください。お連れくだされば何とかします」とアドバイスをしていました。そして家族は、「健康診断に行こう」「ごはんを食べに行こう」「自分が調子悪いから病院に付き添ってほしい」などごまかして病院に連れてくるのですが、認知症の人は、すぐにだまされたことに気づきます。例えその場では怒りを露わにしなくとも、その後どんなに説得しても病院には行きませんし、家族との信頼関係も崩れ、家庭内では家族を攻撃するような悲惨な状況になってしまうのです。要するに騙して受診されたところで、私は何もできなかったし、かえって認知症の人に混乱を招いてしまったのです。「何とかする」と言った私のアドバイスは、医師のおごりであり、認知症の人への愚弄だったのですね。

そこで、本人には、最近のもの忘れの状況を説明し、早く診断し治療することで、少しでももの忘れの進行を遅らすことができることを説明し、納得した上で受診してもらうことが最善策と考えました。ご家族には、「本人に、今までのもの忘れの例を挙げて、周囲が困ったことを伝えてください。そして同時に、『治るもの忘れもあるので、早く専門家に診てもらいましょう』と説明して受診を勧めてください」とお願いします。

多くの家族は、このような説明で素直に受診する訳がない、と考えますが、そこで一言付け加えて欲しい言葉は、「私(家族)の為に診てもらって欲しい。」です。「(貴方が)認知症になったら、私がとっても困る。だからお願い、私の為に診てもらって」とお願いしてみてください。認知症の人も、夫であり、人の親ですので、家族への気遣いは十分残っているのです。

もの忘れのひどい高齢者は、みんな自分が以前と違う、何かおかしい、と気づいています。そして、これからどうなってしまうのか、不安でいっぱいなのです。だから、上からの目線で「もの忘れがひどい」「ぼけたのよ」「困ったわね」と言われたら、それに抵抗するために「ぼけてない」と言い張るしかないのです。そして病院で「ぼけ」と診断されたら困るのです。家族が、このようなご本人の気持ちを分かった上で、馬鹿にしているのではなく、心配している、このまま病気が進めば家族が大変になる事を、こころを込めて説明し、根気よく受診を説得してください。納得した上で受診すると、検査も受け、例え認知症であっても治療に積極的になっていただけるのです。

メモを入れた娘さんのケース・・・納得したご本人

先日のもの忘れ外来の例では、娘さんからのメモを読んだ時に、どのように対応したら良いのか困リました。診察室に入室してから、まず奥さんには、健康診断の必要性を説明し、そして最近のもの忘れのことを尋ねながら、本人にも同じ質問をしました。そして、もの忘れが進むと、生活が大変になり、ご家族の世話が必要になること,など時間をかけて説明しました。ご本人が、自分のもの忘れもについて口にしたときに、タイミングを見計らって、奥さんをはじめご家族の皆さんがご本人のもの忘れを心配していること、なぜ今日ご本人が受診しなければいけなかったのかを正直に説明し、検査を勧めました。

その時点では、まだ完全に納得はしていませんでしたが、CTの結果説明で、小さな脳梗塞が沢山あること、脳の血液の循環がうまくいってないこと、これがもの忘れの原因で、治療が必要なことを説明しました。そして血圧を測ると200/95と高く、本人も驚いていたようでした。そのうちご自分のもの忘れがひどいことを真剣に話しだし、病気への不安も本人の言葉で話し始めたのです。診察室を去るときには、ご本人から「先生、また来るからね、頑張って治すよ」と笑顔で退出しました。

気持ちを理解し、気持ちを伝えること

認知症も病気です。どんな病気でも本人しか分からない辛いことがあります。その人自身が失われていく認知症という病気に、本人のみならず、周囲の人も理解できず、苦しみ、不安になり、何とかしなければ、と思い、つい、お互いの言葉も表情も厳しくなってしまいます。でも、本人のつらい気持ちを理解すると同時に、本人にも家族の心配な気持ちを分かってもらう努力が必要です。このようにお互いの気持ちを理解し合えたら、本人への言葉使いも、表情も、優しくなれるかもしれませんね。その優しさは、本人の安心と家族への信頼に繋がるのです。

【ユッキー先生のアドバイス】

ご家族が本人の異常に気づいた時に、まずどのような医療機関に相談すれば良いのか迷うことが多いようです。ここでのアドバイスは、どのようにして認知症専門医を探すかお教えします。

1)まずは、かかりつけ医の先生に相談してください。今、地域の医師会では認知症サポーター医の育成に力を入れています。かかりつけ医の先生であれば、医師会の会員の先生が多いので、地域の認知症専門医を知っているはずです。場合によっては、地域の医師会に問い合わせると、そのリストがあり、近くの専門の先生を紹介してくれます。

2)平成21年頃から認知症疾患医療センターが地域に開設されています。全国150箇所に開設予定で、随時地域の総合病院や精神科病院に開設されます。そこに電話をして、担当の医療ソーシャルワーカーに地域の専門医を紹介していただくことも良いでしょう。以前はこのような担当者を「認知症連携担当者」と呼んでいました。ただ、このセンターでは、最先端の医療機器で認知症を診断し、治療方針を示すことはしてくれますが、実際の治療や生活のサポートは地域のかかりつけ医が担うことになっています。

3)地域包括支援センターは、気楽に認知症の医療や生活支援について相談できる場所です。認知症の人の対応に困ったら相談してみてください。包括支援センターの主任ケアマネジャー、社会福祉士、保健師のいずれかが地域の専門医の紹介や、困りごとの相談に応じてくれます。

4)インターネットで調べることもできます。日本認知症ケア学会日本老年精神医学会アルツハイマー病研究会 などのホームページを診ると、専門医や認知症ケア専門士が紹介されています。

5)認知症を扱う診療科は、精神科、神経内科、脳神経外科、総合内科等です。しかし、この標榜をしている全ての診療所や病院に専門医がいるわけではありません。看板だけを頼りに受診しても専門医でない場合があります。必ず、事前に調べてから受診しましょう。

認知症という病気との闘いは長期戦です。本人も家族もその戦いに疲れないようするためには、自分たちだけで解決しようとせずに、地域のいろいろなサービスを有効に利用し、できるだけ楽な介護ができれば良いですよね。認知症の人と真正面から向き合い、こころを込めて本音で対応する事が、「楽な介護」の第一歩かもしれませんね。


このページの
上へ戻る