ユッキー先生の認知症コラム

認知症専門医として、大学院教授として、認知症とどう向き合うか、ユッキー先生が語ります。
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第50回 認知機能の低下と運転免許

この認知症コラムも第50回を迎えることになりました。2011年9月から「ユッキー先生の認知症コラム」が始まり、ほぼ毎月、連載してきまいた。これも笑読していただいている皆様方のご支援の賜物と感謝申し上げます。

平成29年3月12日より道路交通法の一部を改正する法律が施行されましたが、その中で「高齢運転者対策の推進を図るために規定の整備」の事項について説明しましょう。この改正では、特に認知機能が低下した人の運転免許更新に対する処遇に重点が置かれ、認知機能が軽度に低下した軽度認知機能障害(MCI)の方やごく初期の認知症の方にとっては今後の生活に大きな影響が出ることも予想されます。そこで、今回のコラムではこのたびの道路交通法改正の内容を詳しくご説明し、今後の対応について、私なりの意見を述べてみます。


運転免許更新手続きの改正

平成29年3月12日から道路交通法では「臨時認知機能検査に関する規定」「臨時高齢者講習に関する規定」ならびに「臨時適性検査等に関する規定」が整備されました。この改正について説明します。

≪改正点1≫

70歳以上75歳未満の運転免許更新を希望する高齢者は、「合理化講習」を受講します。受講内容は、運転適性検査30分、双方向型講義30分、実車指導60分の合計2時間で、改正前の「高齢者講習」よりも1時間短縮し合理化されました。

満75歳以上の高齢者には、免許更新時に「認知機能検査」(以前「講習予備検査」で行われた検査と同じです)を受けます。検査内容は、➀時間の見当識能力の検査、②16種の絵を記憶して答える記憶の再生力検査、③白紙に指示した時間を時計で描く検査、で記憶力や判断力を評価します。判定は「記憶力・判断力が低くなっている者(第1分類:得点49点未満)」、「記憶力・判断力が少し低くなっている者(第2分類:得点49点以上76点未満)」、「記憶力・判断力に心配のない者(第3分類:得点76点以上)」に判定されます。

「認知機能検査」の結果が「記憶力・判断力に心配のない(第3分類:得点76点以上)」と判定された場合には、「合理化講習」を受け運転免許が継続されます。

≪改正点2≫

満75歳以上の高齢者で、「認知機能検査」の成績が49点以上76点未満の「記憶力・判断力が少し低くなっている(第2分類)」と判定された場合は、「高度化講習」の受講が義務付けられます。この講習は「合理化講習」に個別指導60分が加わり、合計3時間の講習を受講します。

≪改正点3≫

「認知機能検査」の結果、「記憶力・判断力が低くなっている(第1分類:得点49点未満)」と判定された方も「高度化講習」を受講します。そして後日、「臨時適性検査」を受けるか、または主治医の診断書の提出が必要になります。「臨時適性検査」では、改正前と同様で、認知症専門医の受診が義務付けられます。主治医の診断書から認知症の判定が困難な場合には、専門医の診断が必要です。「臨時適性検査」や医師による診断書から認知症と診断された場合は、運転免許の取り消し、または停止になります。

≪改正点4≫

75歳以上の運転免許を持っている方が「認知機能が低下した場合に行われやすい一定の違反行為(18基準行為*)」をした場合には、「臨時認知機能検査」を受けなければなりません。その結果が第1分類の得点49点未満の場合は、≪改訂3≫と同様に、「臨時適性検査」を受けるか、主治医の診断書の提出が求められ、認知症と診断された場合は、運転免許の取り消し、または停止になります。

≪改正点5≫

75歳以上で18基準行為*を行った場合に実施される「臨時認知機能検査」の成績が49点以上76点未満の(第2分類)と判定された場合は、「臨時高齢者講習」を受講しなければなりません。内容は実車指導60分と個別指導60分で、その後の免許は継続されます。また「臨時認知機能検査」が76点以上の第3分類と評価された場合は、「臨時高齢者講習」の受講は必要なく、免許は継続されます。

*参考:臨時認知機能検査の対象となる違反行為(18基準行為)
• 信号無視(例:赤信号を無視した場合)
• 通行禁止違反(例:通行が禁止されている道路を通行した場合)
• 通行区分違反(例:歩道を通行した場合、逆走をした場合)
• 横断等禁止違反(例:転回が禁止されている道路で転回をした場合)
• 進路変更禁止違反(例:黄の線で区画されている車道において、黄の線を越えて進路を変更した場合)
• しゃ断踏切立入り等(例:踏切の遮断機が閉じている間に踏切内に進入した場合)
• 交差点右左折方法違反(例:徐行せずに左折した場合)
• 指定通行区分違反(例:直進レーンを通行しているにもかかわらず、交差点で右折した場合)
• 環状交差点左折等方法違反(例:徐行をせずに環状交差点で左折した場合)
• 優先道路通行車妨害等(例:交差道路が優先道路であるのにもかかわらず、優先道路を通行中の車両の進行を妨害した場合)
• 交差点優先車妨害(例:対向して交差点を直進する車両があるのにもかかわらず、それを妨害して交差点を右折した場合) • 環状交差点通行車妨害等(例:環状交差点内を通行する他の車両の進行を妨害した場合)
• 横断歩道等における横断歩行者等妨害等(例:歩行者が横断歩道を通行しているにもかかわらず、一時停止することなく横断歩道を通行した場合)
• 横断歩道のない交差点における横断歩行者等妨害等(例:横断歩道のない交差点を歩行者が通行しているにもかかわらず、交差点に進入して、歩行者を妨害した場合)
• 徐行場所違反 (例:徐行すべき場所で徐行しなかった場合)
• 指定場所一時不停止等 (例:一時停止をせずに交差点に進入した場合)
• 合図不履行 (例:右折をするときに合図を出さなかった場合)
• 安全運転義務違反 (例:ハンドル操作を誤った場合、必要な注意をすることなく漫然と運転した場合)

道路交通法改正について一言

この度の道路交通法改正は、75歳以上の高齢者の認知機能低下に伴う運転適性をより厳格に評価し、その結果、認知症と診断されると、免許取消または停止の行政処分を行うものです。その理由は、高齢運転者の自動車事故急増と重大事故の多発の要因には、認知機能低下に伴う高齢者の運転適性能力に問題があることが指摘されたからです。

この法律の改正は、恐らく高齢者ならびに認知症高齢者による重大自動車事故減少につながるのでしょう。その一方で、第35回のコラム「認知症の人の自動車運転」でも指摘しましたが、運転免許取消後の彼らの生活を考えると、この改正に一抹の疑問、不安が残ります。

免許取消または停止の行政処分が通達された高齢者は、その事態をどのように受け止めるのでしょうか。特に、郊外で一人暮しをしている人の多くは、生活に欠かせない自動車が運転できなくなることで、途方に暮れるでしょう。国が一個人を認知症と診断して、行政処分を行うのであれば、その結果について、国は責任を持つべきだと思います。

免許を取り消されたことを忘れて運転してしまうことも十分予測できます。無免許運転として処罰せられると高額の罰金を支払うことになりますが、それは1回で済むのでしょうか。まして事故を起こすと、相手側への賠償責任が発生し、その際に無免許では保険が適応されません。認知症を理由に免許を取り消しても、その人が運転しなくなる保障にはなりません。今の車社会の構造改革を蔑ろにして、運転免許を剥奪しても、本人はもとより、家族にも大きな生活不安を抱かせるだけではないでしょうか。

道路交通法改正の対策

とは言っても、この法律の改正は施行されました。では高齢者やそのご家族がこの法改正にどのような対応をすればよいのか、私なりに考えてみました。

1. 免許更新前に、予め更新時の講習内容と認知機能検査の内容をインターネットで確認しておきましょう。特に認知機能検査は緊張してしまい、普段の能力を十分に発揮できないことがあります。どのような検査内容なのかを確認し、予行練習を行い更新に臨んでください。

▼外部リンク
認知機能検査

2. 高齢になると認知機能のみならず運動機能も低下しますので、今後の生活が運転する必要がない状況であるならば、ご家族とよく話し合い、運転免許の返上を考えてみてはいかがでしょうか。

3. ご家族が、ご本人の生活状況から認知症を疑うような変化を認めたなら、一度、専門医に相談してみてください。そこで、認知症を否定されれば更新に問題ないと思いますが、もし認知症と診断されましたら、ご本人に運転免許の返上を説得してみてください。

4. 誰しもが、高齢に伴い、肉体も精神も衰退します。すなわち、遅かれ早かれ運転ができなくなる時期が来ますので、独居高齢者は、車のない生活を迎える準備をはじめてください。しかし、免許の返上を自ら決意する人は多くありません。そうなると、地域で高齢者の運転を見守り、サポートするシステムが必要です。現在はそのような制度が機能していませんので、近所の一人暮らしの高齢者の運転に不安を感じるようなことがあれば、まずは地域の包括支援センターや行政の窓口に相談してみてください。

【ユッキー先生のアドバイス】
一人暮らしの高齢者の中には、毎日の生活に車が欠かせないと、と思っているかたが多いです。都心での生活と違い、地方では公共交通機関を利用する人が少なくなり、まさに車なしで生活できない社会であることを誰もが認めるところです。団塊の世代が75歳になる時代に、この道路交通法の改正が安全な社会の構築に寄与するのか、あるいは高齢者の社会参加・活動の排斥に係るのかわかりません。この法律が改正された以上は、躊躇なく認知症になっても住みよい社会の構築に着手することを望みます。

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