ユッキー先生の認知症コラム

認知症専門医として、大学院教授として、認知症とどう向き合うか、ユッキー先生が語ります。
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第23回 成年後見制度とは(3):成年後見のお仕事

高橋正一(仮名)さんは、父洋平(78歳)さんの後見人として承認されたことで、これから様々な役割を果たさなければなりません。今回は、正一さんが後見人としてどのようなお仕事をしなければならないのか、解説しましょう

成年後見の理念

後見人になった正一さんは、後見制度についてもう一度考えてみました。父親の洋平さんは、中学を卒業後、終戦後から横浜で中華料理屋を営んでいた祖父の後を継ぐために、見習いとして中華レストランに住み込みで働いていました。23歳の時に見合いで雅子さんと結婚し、祖父が営む中華料理屋に移り、数年後には厨房を任されるようになりました。折からの横浜中華街人気を背景に店の経営は順調に発展し、中華街でも人気のレストランとして行列ができるまでになりました。38歳の時に、店の名前で中華料理の加工品を発売してからは、お店は飛躍的な発展を遂げました。息子である正一さんは大学を卒業後5年間は別の食品会社に就職しましたが、その後洋平さんのアドバイスで料理人になるための見習いを5年間務め、洋平さんの会社に料理人として就職しました。そして50歳の時、正一さんは会社の社長になり、洋平さんは会長として会社の経営を正一さんに任せる事にしたのでした。

このような洋平さんの後見人になった正一さんは、新しい成年後見制度の目的と理念を十分理解しその役割を果たさなければなりません。

後見制度の目的は、法務省ホームページ(成年後見制度~成年後見登記制度~)によると以下のように記されております

「認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な方々は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、自身の世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらの事をするのが難しい場合があります。また、自分に不利益な契約であってもよく判断できずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。この判断力の不十分な方々を保護し、支援するのが成年後見制度です。」

後年後見制度の目的から、この制度の理念について考えてみましょう。この制度の理念は、さまざまは知的障害があっても、その人が地域で安心して暮らしていける社会をめざすことです。それには、これらの障害のある人を法律的に保護する仕組みがなければなりません。それが成年後見制度で、彼らの日常生活を直接支援する人が後見人です。

後見人が必要な人を被後見人といいますが、後見人は、被後見人の意思・意向、生き方を十分に尊重する事が求められます。障害のある人の自己決定を尊重すること、これが後見制度の第二の理念です。後見人は、被後見人の意思を無視して、財産管理や身の周りの世話をすることは、この制度の理念に反し、まして被後見人の財産を生前に相続することでもありません。後見人は、被後見人が何を望み、どのような生き方や生活を望んでいるのかを常に問いかけ、模索し、被後見人が安心して生活できるように財産を管理し、生活を支える事が求められます。

三つ目の理念が、エンパワーメントです。エンパワーメントとは、「障害をもつ人の弱さの克服や強さに焦点をあて、その人の持っているパワーを強化し、その問題対処能力を高めようとする働きかけ」であって、その人の残された能力を最大限に使えるように支援することです。後見人は、この理念をとかく忘れがちです。「被後見人は、何もできない、考えられない、だから後見人の意のままに被後見人の財産を管理し、保護すれば良い」と思いがちですが、このような考えを持つことは、後見人としての自覚に欠け、法律が求める後見人ではありません。すなわち、被後見人の判断や、「したい」と思っていることを最大限に尊重し、それらがスムーズに行えるように支援することがエンパワーメントです。

後見人としての心得

では、正一さんは、後見人としてどのような心得をもって、父親の洋平さんの世話をすればよいのでしょうか。

洋平さんは、アルツハイマー型認知症のために、記憶力をはじめ、理解力、判断力が不十分で、特に会社の経営のことや自分の財産を守ることが困難になったと察します。そのために、後見人は、洋平さんの財産管理と身上監護が求められますが、その具体的な役割については、後ほど述べることにして、ここでは、後見を開始するにあたっての心得を述べましょう。

成年後見制度の理念から、正一さんが心がけることの一つは、認知症に冒されても洋平さんらしい生活を送るための援助を行うこと、二つ目は、洋平さんの意志・意向を尊重して援助を行う、そして三つ目が洋平さんの残っている能力を十分に生かし、洋平さん自身の力で解決できるように援助するエンパワーメントの考え、この3つのことを正一さんは心がける必要があります。ではその具体的な対応を考えてみましょう。

まず、第1点の「洋平さんらしい生活を送る支援」とは、どのようなことでしょうか。まずは、認知症の洋平さんが、できるだけ今の生活が継続できるように支援することです。鎌倉の大きな家に妻の雅子さんと2人だけの生活を送っているのですが、おそらく洋平さんにとっては、いつまでも自宅での生活を望むのに違いありません。しかし、雅子さんも高齢であることか、洋平さんを介護するのは大変な負担が強いられます。だからといって、正一さん自身の生活を変え、同居し、お世話をしなければならないことではありません。正一さんがしなければならないことは、洋平さん夫婦が安心して、安全に暮らせるための支援です。まずは、介護保険を申請して、地域の介護保険サービスを有効に利用する支援です。その際に、在宅介護サービスの利用に関する手続きは、正一さんの承諾が必要となります。さらに、今後、雅子さんが自宅で洋平さんを世話することが難しくなったときには、洋平さんの望む生活ではないかもしれませんが、適切な介護施設への入所を考える必要もあります。洋平さん夫婦の安心、安全を考慮したやむを得ない選択かもしれませんが、その選択を決めるもの正一さんの役割になります。このように、認知症の洋平さんが安心して暮らせるように算段していくのが身上監護です。

今の洋平さんなら、複雑のことでなければ自身の意思・意向を言葉で表すことがある程度できます。例えば、「したいこと」「してもらいたいこと」「食べたい物」「いきたいところ」「欲しいもの」など様々な希望や要求があります。このような洋平さんの意思・意向は、洋平さんに不利益が生じない限り、できるだけ叶えてあげ手助けを正一さんに課せられます。また、洋平さんが認知症になる以前に希望していたことも可能な限り、実行してあげます。その際の正一さんの役割は、その際に生じる必要な契約などの代行です。例えば、老後の生活の希望に住まいの改築や転居などがあったとすればその契約業務、病気になったときの医療上の契約などです。重篤な病気になった時の延命処置のありかたなどは、あらかじめ相談し、その時には、本人の意思を医療関係者に伝えることも役割の一つです。もし、洋平さんが遺言書を残すことを考えるならば、その作成にかかわります。また、遺書といった大掛かりなものでなくても、洋平さんの希望する生活の事など、日ごろから聞き出すために一緒に食事をしたり、買い物をしたりすることも重要です、

洋平さんは、常に会社の事を心配していました。そこで、正一さんは後見人としてではなく、子としての想いから、週に1回程度、洋平さんを会社に連れて行くことにしました。その時の洋平さんは、生き生きとし、その振る舞いからは社員の誰一人として認知症と気付く人はいませんでした。古くから務めている従業員の中には、洋平さんの姿を見て、「社長」と話しかける者もいました。会社での従業員を思いやる洋平さんの言葉かけや振る舞いは、まさしく洋平さんの残っている力そのものでした。その力を発揮の支援したのが正一さんで、これがエンパワーメントです。このような配慮は、後見人がしなければならない行為ではありませんせんが、この力が認知症になった洋平さんの新たな活力となることは間違いありません。

後見人の心構えとして、被後見人のいつもながらの生活が末永く続く様に支援することですが、その際にその人の意思・意向を十分に尊重し、その人の残っている力を活用できるように支援することです。

後見人の仕事内容

後見人の仕事は、大きく分けて「財産管理」と「身上看護」に分かれます。

1) 財産管理
財産管理とは、被後見人の代わりに財産を維持したり、また処分したりすることを言います。具体的には、印鑑や貯金通帳、その他有価証券などの管理をしますので、例え本人であろうと、後見人の承諾なしに預金通帳から現金を引き出したり、解約したりする事はできません。また、年金の受取、公共料金や税金の支払いなどの収支の管理をします。

その他、不動産の管理、処分あるいは賃地・貸家があればその管理、また遺産相続の手続きも行います。このように後見人は、本人の財産に関して、日常生活に必要な金銭から高額な財産の処分まで、多岐にわたっての財産管理をします。

2) 身上看護
身上看護は、「後見人としての心得」でも説明しましたが、被後見人が安心して毎日の生活が営めるように様々な契約を行ったり、また健康上問題が生じたときに適切な医療を受けられるような配慮をしたりすることです。直接介護をしたり、看病したりする行為は含まれません。例えば、住まいに関する契約、介護施設の利用契約や各種手続き、費用の支払いなどの障害福祉サービスに関する利用手続き、医療機関の利用手続きなどの法的行為の代理にあたるのが身上看護です。また、本人の安否確認、健康状態の観察、生活状態の変化などの見守りも行って行きます。

後見人の仕事の流れ

家庭裁判所の審判で後見人と選任されると、具体的に後見人としてやらなければならない事があります。

1)最初の仕事
 (1) 後見人は、被後見人の財産や収入を把握しなければなりません。たとえば、月々の医療費や税金などの決まった支出、また年金や給料あるいは株等の配当金などを見積もります。これらの収入・支出の年間の見通しに立て、今後の生活プランの立案に役立てます。
 (2)就任後1カ月以内に財産目録や年間の収支を家庭裁判所に提出します。
 (3)法務局から「登記事項証明書」が送られて来ます。
 (4)後見人は、銀行などに必要な手続きを行います。

2) 日常の仕事
財産管理: 後見人は、被後見人の財産を管理することが求められますが、それが正しく行われていることを示すために被後見人の収入や生活上必要な様々な経費を記録に残しておく必要があります。そのために、年金や給与などの収入、公共料金や税金をはじめ、後見人が必要とした経費などを金銭出納帳に記録し,領収書等の資料を保管しておかなければなりません。これを怠りますと、預貯金の流用、財産管理が不適切と審判され、後見人を解任され民事・刑事上の責任を問われることもあります。

身上監護: 日常の後見人の仕事として、被後見人の生活環境を整えることを怠ってはいけません。これは、被後見人の直接の養護や介護の義務を意味するものでなく、通院や入院が必要な場合は、関係する医療機関との契約や費用の支払い、介護サービス利用時の契約、支払などの必要な手続きを行うことを意味します。 

報告の義務: 被後見人は、日常の財産管理や身上監護の状況などの後見事務の内容を定期的に家庭裁判所に報告する義務があります。それゆえ、日ごろから後見人の行った行為の内容を記録にとどめ、また領収書等の証拠になる書類を残し、整理しておく必要があります。

3) その他の財産管理
 (1) 被後見人が所有する不動産を売却する場合は、その手続きを行います。その際に、居住用の不動産の売却に関しては家庭裁判所に処分許可の申立てをします。
 (2) 被後見人の遺産に関する分割協議が必要となったときは、後見人が被後見人の代行を務めます。
 (3) 家の新築、改築、修繕などが必要になったときは、施行業者などへ手配し、契約をおこないます

後見人のお仕事は、被後見人の財産管理と身上監護です。これまでの解説でお分りのように、その仕事内容は、主に法律的な手続きの代行です。すなわち身上監護も身の回りの世話をすることでなく、被後見人が望む生活環境を整えるために必要な契約や手続きを実施していくことが後見人のお仕事です。

【ユッキー先生のアドバイス】

後見人のお仕事として。とかく誤解されるのは、身上監護として被後見人の身の回りの世話も含まれると解釈してしまうことです。ここで、後見人が関与しなくてよい事について、列挙します。
1. 療養看護や介護また日常の家事援助など被後見人の生活上の世話
2. 入院や入所時の身元引受人や保証人になること
3. 検査、手術、薬物治療など医療に関する同意を行うこと。
4. 養子縁組、認知、結婚、離婚などの身分行為
5. 遺言、臓器提供、延命治療の代諾など被後見人自身の意思に基づくことが必要な行為
6. 被後見人の死後の葬祭、埋葬、家財の整理など死後の手続き、相続手続き

3回にわたって成年後見制度の仕組みや、手続き方法、そして後見人の役割について解説しました。後見人として金銭出納書や身上監護記録の裁判所提出は、決して容易なものではありません。このような手続きがあるためにとかく後見人になることを躊躇しがちですが、ご本人の大切な財産を守ること、また豊かな生活を送るためには、重要な制度です。このような書類手続きが苦手な家族は、後見制度を扱う行政機関に相談してみてください。経費は掛かりますが、弁護士、社会福祉士、司法書士等が後見人として財産管理や身上監護を行います。


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