第64回 お世話のコツ~10箇条~
- 自宅で認知症の人を世話することになると、それを家族は、冷静に受け止められないのが現実です。当初は、途方に暮れ、これから先がどうなっていくのか不安でなりません。そこで「認知症の人のお世話の心得10箇条」を考えました。
第1条.認知症は今の医学では治せませんし、進行します。
第2条.もの忘れがひどいと思ったら、まずは専門医に相談して下さい。
第3条.家族の中で主体となる介護者(キーパーソン)を決めておきましょう。
第4条.できるだけ他の家族やご近所の人に協力を得ながら介護しましょう。
第5条.介護保険サービスなど地域の社会資源を大いに利用してください。
第6条.認知症の人もできることは沢山あります。
第7条.息抜きをしましょう。息抜きは認知症の人に優しくなれます。
第8条.自分の介護の限界を見極めて下さい。誰だって、限界はあります。
第9条.一人で頑張ろうと思わず、介護をシェアしてください。
第10条. あなたは介護の専門家でなく、いつまでも家族です。
- この記事の執筆
医療との関わり(第1、2条)
残念ながら、認知症の根治療法は未だ開発されていません。それゆえ、認知症を薬で治すことはできませんし、また進行を抑えることができても、それを止めることはできません。ご家族の驚きや落胆の気持ちは理解できますが、まずは認知症という病気のことを知り、認知症と向き合いながら本人を世話する、という心構えが大切です。
医療機関の受診には2つの利点があります。認知症は治らない病気と思っている人が多いのですが、原因となっている身体や脳の病気を早期に治療すれば治る認知症もあります。その診断や治療が遅れますと本来の治らない認知症に移行してしまいますので、認知症を疑ったら、ともかく専門医を受診してください。
もう一つの利点は、進行を遅らせる抗認知症薬を早めに服用でき、その効果を期待することができます。また定期的に通院することで、地域の介護保険サービスなどの利用に繋げられ、早期に自宅での介護体制を築くことができます。初期のうちであれば、本人も認知症を理解することができ、その進行を抑制する食事や生活習慣の改善に積極的に取り組むようになります。
キーパンソンを決める(第3、4、5条)
認知症の人を誰が中心となって世話、介護するか、家族関係で必然的に決まってしまう事が多いようです。しかし、その人の周りに兄弟姉妹、配偶者の子などの親族がいる場合は、彼らも病気を心配し、何とか治してあげたい、と思う気持ちで、様々な対応の仕方や介護方法について、中心となって世話している人(キーパーソン)に話を持ちかけることがあります。それが、キーパーソンの考えと同じなら良いのですが、時には正反対のこともあります。
親族に対して「手も、金も出さず、口だけ出す」と嘆くキーパーソンがいますが、その気持ちもわかります。認知症の介護は、その担い手が多ければ多いほど負担は軽減されますが、お互いの意見が食い違い、親族間で揉めてしまえば、キーパーソンの精神的負担は、大変大きなものに膨らんでしまいます。
そこで、当初に家族内で誰がキーパーソンになるのか決めておくのが良いでしょう。暗黙の了解の形をとるのでなく、キーパーソンが勇気を奮って宣言することを勧めます。そこで重要なことは、キーパーソンが他の親族をいかに上手に指揮できるかです。それには、介護の分担ができる親族と相談しながら、その人の役割をキーパーソンが決めていくことです。
家族の事情で、役割分担が継続できないこともあります。また、今までは必要としなかった介護が必要になることもあります。そのような時にキーパーソンが役割分担の修正役を務め、また地域の社会資源の有効活用も積極的に検討すべきでしょう。その中には、隣近所の力をお借りすることも考えてみてください。例えば、徘徊する人を近所で見かけたら連絡を頂くなど、直接的な介護ではなく、隣近所の方にもお手伝いしていただけることを相談してみてください。
キーパーソンの大切な役割の一つに要介護認定の申請があります。地域の介護保険サービスの利用は、日々の介護を楽にしてくれますし、またケアマネジャーが上手な介護方法や様々な地域の介護サービスの利用について相談に乗ってくれます。要介護認定により、地域の介護サービスをできるだけ利用して、家族の介護負担の軽減に役立ててください。
何もかもしようとしない(第6、7、8条)
認知症の人にも日常できることは沢山あります。はじめから「できない」と決つけないで、できることは本人に任すようにします。その逆に、認知症を進行させないためと称して、できないことを無理にさせようとする家族がいます。これはかえって介護負担を増強させてしまいます。例えば「服薬を忘れないようにと何度注意しても忘れる」と腹を立てる家族がいますが、認知症の人に「忘れないように」と注文を付けることに無理があります。この場合は、家族が毎回の服薬を管理することで、問題は解決できます。
在宅の世話では、まず本人ができなくなったことを整理し、それらの介助を効率よくするように努めます。その中には、家族にもできないことや、やりたくないことはあります。例えば、入浴や排泄の介助などは、心情的にできない人がいます。また、目を離すと家を出てしまい徘徊する人の対応も大変負担です。その他、認知症の進行に伴い、家族が対応しなければならないことが徐々に増え、疲労感がたまり、今までは苦でなかった介護も苦に感じることがあります。
そこでキーパーソンは、日常の介護から少し離れ、休息をとることです。レスパイトとも言いますが、介護疲れを癒すために、デイサービスやショートステイを積極的に利用してください。これらのサービスを有効に使い、自身の時間を持つことで、認知症の人にやさしくなれます。
さらに、自身の限界を見極めることです。認知症の介護は長期にわたり、また日々その負担は大きくなります。キーパーソン自身の生活環境や健康のこと、また認知症の人との関係性など、様々な状況から、自分はどこまで介護が続けられるのか、どのような状況が生じたら自宅で介護ができなくなるのか、自問してください。そして、そのような兆しが見えたら、認知症の人の処遇を見直す必要があります。キーパーソンの交代、あるいは介護施設の入居を考える時期なのかもしれません。
介護をシェアする(第9、10条)
認知症の介護を、一人の家族で続けることは、なかなか大変です。そして、どんな介護者も同じように上手に介護ができるとは限りません。得手、不得手、好き、嫌いも介護者によって異なります。そこで重要なことは、不得手や嫌いな介護はプロの介護者に任せることです。
家庭の事情や仕事のことで介護が継続できない事があります。また、長引く介護で精神的にも肉体的にも限界を感じる時期も来ます。突然、介護者が病気になることもあります。このような介護者自身や周囲の状況で在宅介護が継続できない時には、施設への入居も必要な手段だと思います。
介護施設の入居は介護放棄と自責的に考えてしまう人も多いようです。しかし、最も悲惨なことは、キーパーソンが病気になって倒れてしまう事、また認知症の人に嫌悪感が増強し、暴力や放置などの虐待に発展してしまうことです。このような悲劇を避けるためにも「介護をシェアする」手段を考えてください。すなわち、家族ができないこと、また行わなくても良いことはプロに任せてください。そして、家族がすべきことは、当然続けていく、との考えです。
家族の大切な使命は、認知症の人と家族としての関係性を保つことです。家族介護者と認知症の人との関係性は多様です。良い関係もあれば、あまりよくない関係もあります。また、これまで人生を共にしてきた歴史もあります。プロの介護者には、それがありません。どんなに認知機能が崩れても、認知症の人は、目の前の人が家族であることをわかっていると確信します。それゆえ、家族としての関係性をいつまでも保持することは、家族介護者の大きな使命で、認知症の人にとっては、安心につながるのです。
在宅で、介護ができなくなっても、認知症の人には介護が必要です。その場合には介護施設への入居が必要となりますが、それは家族の介護放棄ではなく、在宅介護の延長と考えてください。家庭で出来なくなった介護をプロにお願いして、家族は認知症の人の安心のために、施設に頻回面会に行き、本人と良い関係をもち続けてください。
プロの介護者は、介護に関する基本的な教育を受け、国家資格に準じる介護福祉士を、試験と講習を受けて修得しています。それゆえ、介護に対する学際的な知識と技能を持った有資格者ですので、家族が行う介護と質が異なります。すなわち介護と世話の違いについて第63回のコラムで私の考えを述べましたが、家族の行為は日常の世話であって、介護技術を提供するものではありません。逆に、プロの介護者は、家族のような世話はできません。
施設への入居は、介護をシェアする一例です。家族は、プロの介護者ではありませんので、認知症の人の介護をプロのように行おうとしても、多々難しいことがあります。また、在宅での介護に限界を感じる時期も当然あります。自分だけで介護しようとせずに、プロの介護者の力を借りながら介護を続けてください。そして、家族は本人の心の世話を最後まで続けてくだい。
ユッキー先生のアドバイス
お世話のコツは、「何もかも自分がすべき」と思わないことです。実際に思っても、認知症介護では、それができません。「介護をシェアする」を心がけ、できるだけ多くの人とお世話、介護をシェアしてください。
家族が、プロの介護者と介護をシェアすることは、家族の負担軽減になり、同時に本人にとっても良い介護が施されることになります。家族の人の中には、お願いしたプロの介護者には口を出してはいけない、と思い込み、ただ見守っている方がいます。それでは、誰のための介護のシェアか、わかりません。
介護をシェアするときは、本人の生活環境やこれまでの暮らしぶりなどの情報をしっかりとプロに伝え、適切な介護を施されることが望まれます。また、プロの介護行為に疑念を持つことがあったら、それを指摘し、本人にとっての最良の介護を一緒に考えてみてください。
(2018年7月9日)
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