認知症ケアの基本

この記事の目次
  1. 1. 見守りと観察ケア
  2. 2. 健康管理のケア
  3. 3. かかわりケア
  4. 名前を呼ぶ意味
  5. 質問の意味
  6. かかわる意味
  7. 共に行動する意味
  8. 4. 興味・関心を探るケア
  9. 5. 気分転換のケア
  10. 6. チームケア
  11. 7. 生活の基盤(住環境)
  12. 8. 五感を刺激するケア
  13. 9. 家族へのケア
  14. 10. 本人の尊厳を守る(身体拘束・虐待・自己決定権)

1. 見守りと観察ケア

認知症の人の日常生活を阻害しないで、目で確認できる範囲で行動を観察し、現状把握を行うことを見守り・観察ケアといいます。

見守りケアは、ケア提供者間の情報交換や協力が大切となります。

まず見守る場所から離れる際は、新たに見守りをするケア提供者に「場を離れること」「今までの観察内容」を正確に伝えなければなりません。また身体の不調や周辺症状などを観察していくことも含まれます。

周辺症状が現れる時間帯、原因、環境などもこの見守りケアから見えてくるものと考えられます。また身体の不調も、日常生活の見守りを通して把握できるでしょう。

2. 健康管理のケア

認知症の人は身体の変調や不具合を言葉で十分に表現できないことや、健康管理についての認識もかなり低くなることから、健康管理は認知症の人にとって大切なケアの1つになります。

健康を害してないか見きわめるためには、1.既往歴を見逃さない、2.検査データを見る、3.食事・水分摂取状況、4.排泄状況、5.顔色や皮膚の状態、6.服薬の情報、7.いつもの日常生活の把握、は欠かせない大切な観察項目になります。「おかしい」と思ったらすぐに医療チームと連携をとり行動しましょう。

また水分摂取量が減ってしまい、薬の副作用で、身体に異常をきたす場合もあるので、この点にも細やかな配慮が必要です。


3. かかわりケア

具体的には、ケアの場面で相手の話を十分に聴き、気持ちを支えることです。

今どうありたいのか、何をしたいのかを理解し、認知症の人の感情・行動の意味などを思い測り、ケア提供者は身体言語を活用して表現します。

以下は具体的なかかわりの意味についての気づきです。

名前を呼ぶ意味

認知症になったからといって人はプライドを失いません。名前はその人が生まれたときから使っています。呼んでもわからないと勝手に介護者が判断して、名前も呼ばずに食事を用意したり、排泄の世話をするなどしがちですが、まず「○○さん」ということによってあなたの為の食事ですよ。という気持ちが伝わります。かつて能力にあふれ、知性をもって生きてきた人です。敬意をもって接するという気持ちは名前を呼ぶことによっても相手に伝わります。

質問の意味

開かれた質問をし、会話を広げ、話を聴くかかわり姿勢をもつことも大切なことです。

この開かれた質問とは、「何が~?」「なぜ~?」「どのように~?」などで始まる質問であり、一言二言では答えられず、対象者が主体的に話しをする形で展開するものです。

対象者が認知症の場合、開かれた質問を避け、どうしても簡単な返答を求めがちになります。開かれた質問を多くすることを心がけ、心に沿えるケアを展開したいものです。

かかわる意味

例えば「家に帰りたい」という人に対してどんな気持ちであるのか推し量り、「会いたいですね」「心配ですね」など不安な気持ちや感情に共感するような言葉かけを行うことです。 認知症ケアではよく「ありのままを受け止める」「あるがままを受け止める」といわれますが、具体的にかかわらない限り、受け止めることはできません。周辺症状で悩む対象者を外側から眺めているだけでは、ありのままは受け止められません。 しっかりとかかわり、相手の気持ち・感情をお互いに確認して初めて「ありのままを受け止めらえる」と考えます。

共に行動する意味

「行動を共にする」、それは対象者に寄り添い歩く、共に食事をつくる、外出するなどが挙げられます。ケア提供者は、対象者が今何をしたいのか、どう動きたいのかという気持ち・感情に沿う形で行動を起こしていきます。

たとえば対象者が今横になっていたいのに、ケア提供者が「起きて一緒にお茶を飲もう」と誘います。横になってばかりいたら、寝たきりになってしまうとはいいますが、それでは、対象者は起きる気にはならないでしょう。

必要なのは、「起きてくれない対象者をどう動かそうか」ではなく、「どうしたら起きてお茶を飲みたい気持ちになってくれるのか」を視野に入れた行動です。

4. 興味・関心を探るケア

認知症高齢者の今ある能力を把握し、何ができるのかを理解し、興味・関心を探ることです。生活史を参考にしてもよいし、新しいチャレンジでもよいでしょう。かかわりケアや気分転換のケアを通じて、情報を収集するように心がけます。

興味・関心を探ることで対象者にとって1つの役割を獲得するという効果もあります。

例えば野菜を作っていた人が認知症になり、野菜が育っていく楽しみを感じられなくても、野菜づくりにふれあうことはできます。

5. 気分転換のケア

新しい情報提供や助言を行い、執着している感情を他に向ける努力をすることです。

例えば「家に帰りたい」と歩いている人にお昼ごはんの話題で場面や気分を切り換えることです。

具体的には、
1.声の調子やタイミングに配慮する
2.お茶・おやつ・食事などの誘導を行い、場を変えたりして気分を切り換える
3.認知症高齢者の関心事を活用する
などの配慮が必要です。


6. チームケア

認知症ケアは1人ではできません。

ケア提供者は自分自身の限界を知ることが大切になります。何でもがんばる、私がやらなければと思わずに、まずは、自分のできることとできないことを知ることです。

それから次に一緒に働くそれぞれのチームメンバーの能力を知ることが必要となります。それは自分自身ができないところや、相手ができないところを補う力になるからです。 統一したケアであれば認知症の人にとっては混乱が少ないからです。


7. 生活の基盤(住環境)

認知症の人が安心して暮らせる生活環境づくりが重要になってきます。よい環境は生活者の自立を助け、介護をサポートし、治療効果があるといわれています。

認知症の人本人を中心にして、その家族と共に考えていくものです。環境の配慮として「物理的バリアフリー」があります。

まずその人の認知症の程度、見当識障害、視空間認知障害などをアセスメントすることが必要になります。 環境面では安全の配慮が叫ばれていますが、機能的という環境も認知症の人の場合抜け落ちてはいけない点です。生活場面でいかに現存能力(できること)を活用するか、が重要であり、そのためには環境調整が必要になります。 画一的な安全対策をとるのではなく、理解しやすい位置情報、手すり設置、段差の考慮、機能的に体を動かせるような空間確保など、その人に合った環境調整をすることが必要です。

また認知症の人は、具体的に壁にカレンダーや日めくりを貼ったり、炬燵やテーブルにみかんや季節の花を置いたりすることにより、「今がわかる」「四季が感じられる」と安心できます。

このように認知症の人が心身共に安全で安楽な状態で、快適な1日を過ごし、安眠できる環境を整え援助することが必要ですが、その人がこれまでにしてきた役割(家事作業など)を行う力がある場合は、共に行い役割の継続性の意味をもたせることも重要です。すべてを援助するのではなく、共に環境の調整を行うことを大切にしていきましょう。

8. 五感を刺激するケア

ケアにあたる際、視覚、聴覚、味覚、臭覚、触覚など人間のもつあらゆる感覚を刺激することを心がけます。つまりひとつのケアを行うときに、感覚を刺激する配慮をするのです。

たとえば、フットケアや清拭時には季節の花を飾り(視覚、臭覚)、その人の好きな音楽(聴覚)、温泉の素などの入浴剤(臭覚)を用い、その後、保湿剤をたっぷり塗ってマッサージ(触覚)を行う、食事の際には、花を飾り(視覚、臭覚)、クロスをかけ、陶器の茶碗(触覚)を用意するなどが考えられます。またリラクゼーション効果のある音楽(聴覚)を流すのもよいでしょう。

このようにひとつのケアを行う際に、感覚刺激の工夫を行っていきます。


9. 家族へのケア

時代とともに家族も変化しています。

その変化の中で、認知症の人を抱える家族は介護を担いきれない局面にぶつかることがあります。そして家族の中でさまざまな葛藤が生まれます。施設などに入所させた家族は常に胸の奥で自分自身を責めていたりします。

逆に、施設入所以来面会にこない家族もいます。「もう二度と顔を見たくない」という家族もいます。でも面会にこなくても、顔を見たくなくても、そこまでに至る家族歴がそれぞれの家族にはあります。また家族の一員を他者に預けるということは、大きな決断でもあります。 遠くから「母は元気なんだ」「生きているんだ」と家族が思って暮らせることは、ケア提供者の家族に対するケアなのかもしれません。

ケア提供者はこれまでの家族歴、関係を引きずっての葛藤を理解して、家族と付き合っていくことが重要です。家族を支えることが認知症の人を支えることにつながっていくのです。

10. 本人の尊厳を守る(身体拘束・虐待・自己決定権)

認知症高齢者が直面している人権問題に「身体拘束」という人権侵害があります。

わが国では1998年に「抑制廃止福岡宣言」が採択され、翌年厚生省(現厚生労働省)は、介護保険施設運営基準の中に「身体拘束における禁止規定」を告示し、規定条約を作りあげました。現場ではそれを受けて、拘束禁止における管理や技術について試行的な取り組みを行ってきています。しかし、まだ体のずり落ち防止と称して「安全ベルト」を装着したり、胃ろうやチューブを抜いてしまうためミトンをはめたりしていることも存在しています。

また「虐待」については、2006年の高齢者虐待防止法施行後はじめて行った全国調査が厚生労働省から2007年8月に発表され、その数字によると家庭内で1万2575件、施設内で53件の計1万2628件、虐待が確認されました。家庭内における虐待は息子と夫で半数を占め、その被害者は女性が77%で、84%が同居している人からの虐待でした。理由としては、介護者が長年の介護に疲れ果てたり、一生懸命のあまり追いつめられて虐待するケースや経済問題、長年にわたる家族関係やケアの問題など多様な要因が考えられます。別の調査では虐待された人の8割の人になんらかの認知症の症状がみられたという数字もあり、介護負担の軽減には認知症の正しい知識や介護のポイントの理解が大切です。

また認知症の人は自分と違う、とくに「認知症の人は自分たちと違う存在だから、自分たちと同じことができなくて当たり前」と決めつけて認知症の人の行動を制限したり、プライバシーを守れなかったりと、多くの人権侵害がケア提供者の姿勢から発することが見受けられます。たとえ認知症という疾患をもつ人でも、そうでない人と同じように生活していく権利があるという、いわゆるノーマライゼーションということを理解しないままの行動が、このような人権の侵害を生むということを理解しておく必要があります。


(出典) 1.~6.および8.については、六角僚子:認知症ケアの考え方と技術PP47~59.第4章.認知症ケアの基本対応.医学書院,2005年より抜粋・一部改変して掲載


このページの
上へ戻る