第3回 物忘れが心配、認知症を予防するには・・・(その1)

家族が「最近、物忘れがひどいわね」と感じ、また自身でも「物忘れがひどい」と思っている人の多くは、認知症の予備軍です。このような人は、前回説明しましたように、「軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment - MCI)」と診断される人で、疫学調査でも一般の高齢者よりも約10倍アルツハイマー型認知症になる可能性が高いと言われ、ハイリスカー、すなわち高い危険性を持った人なのです。

では、普段からどのような事に心がければ、アルツハイマー型認知症にならないですむのか、考えてみましょう。

この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生

病気の予防を考える上で、まずは予防とはどのようなことなのかを整理しておく必要があります。一般に、病気の予防は、病気にならないために何らかの手段を講じることを意味します。最も身近なことでは、癌や心臓病、脳卒中などの生活習慣病の予防を誰しもが心がけています。このように「病気にならないための予防」を「一次予防」と言います。

そして「二次予防」とは、病気を早く発見して、重症化しないうちに治療することで、具体的には健康診断がこれに当たります。

MCI(軽度認知障害)と診断された人が、アルツハイマー型認知症にならないための予防は、一次予防とも二次予防とも言えます。MCIは、病気ではなく、加齢に伴う認知機能の低下、と考えるならば一次予防ですし、病気と考え、進行してアルツハイマー型認知症にならないために早く発見して、予防の手段を講じるならば二次予防ですが、一般には前者と考える人が多いようです。

さて、一次予防の策を講じるためには、発病の原因を明らかにすることであり、それを避けることが最も効果的な予防といえます。例えば、肺癌ではタバコが大きな原因であることが確認されていますので、まずはタバコをやめることが効果的な肺がん予防です。そしてこのタバコのことを肺ガンのリスクファクター、危険因子と呼びます。

では、アルツハイマー型認知症のリスクファクターにはどのようなものがあるのでしょうか。確認されているリスクファクターの中には、「歳をとること」と「女性であること」が挙げられますが、これを予防することは出来ませんね。その他には、アルミニウムの体内摂取、頭の周囲が小さいこと、過去の頭の怪我、教育歴などが挙げられましたが、これらのすべては、科学的な証拠を明らかにすることは出来ませんでした。

最近、九州大学の研究者たちが、アルツハイマー型認知症のリスクファクターは高血圧と糖尿病であることを疫学調査で明らかにしました。すなわち、高血圧や脳卒中など、脳の血流に問題がある人、または糖尿病の人は、アルツハイマー型認知症にかかりやすいことが、証拠を持って示されたのでした。

そうなると高血圧や糖尿病は、生活習慣病の代表的な病気ですので、生活習慣病の予防対策がアルツハイマー型認知症の予防になると考えられます。すなわち、食事や運動に関する普段の生活習慣を改善することがアルツハイマー型認知症の予防に結びつくと言ってもよいでしょう。そのなると、アルツハイマー型認知症も癌などと同じように生活習慣病ではないのか、という議論も当然医学会では持ち上がっていますが、未だ結論には至っておりません。

ユッキー先生のアドバイス

現在、高血圧や糖尿病の治療を受けている方は、将来、アルツハイマー型認知症にかかる可能性が高いと言うことです。ではそのような慢性の病気を持っている人は、日常生活でどのようなことに注意すればよいのでしょうか。

1. まずは医療機関で治療が必要か、必要でないかを判断してもらいましょう。また30~40歳代になったら、必ず年に1回、健康診断を受け、血圧や血糖値が高くないか、またコレステロールや中性脂肪の値もチェックしましょう。

2. すでにお薬を飲んでいる方は、当然のことですが、忘れずにお薬を呑むようにしましょう。ただMCI(軽度認知障害)の方は、物忘れが主たる症状ですので、その人に「忘れないように薬を呑むこと」を期待しても無理なことがあります。ですから家族や周囲の人が、忘れないで薬を呑むように、見守り、手伝ってあげることが必要です。

3. 普段から、家でも血圧や血糖値を測り、自分で健康管理をしましょう。血圧は最高血圧(収縮期血圧)が140mmHg以下、最低血圧が85mmHg以下を正常値としますが、だいたい最高血圧120mmHg、最低血圧80mmHg前後を維持するように心がけましょう。血糖値は、空腹時で100g/dl以下をめざしましょう。

4. 日常の生活では、両方の病気とも、食事の管理、運動は重要な予防要因です。塩分や糖分、カロリーをとりすぎないようにし、日頃の有酸素運動も欠かさないようにしましょう。特に運動は、歳をとると億劫になってしまいますが、効果的な予防法ですので、なんとか工夫して継続的に身体を動かすことを考えましょう。大切なこと、と分かっていても、やらないのがこの運動ですので、一人でやろうとしないで、ご夫婦で、友人や近所の人と一緒に楽しんで身体を動かすことを考えましょう。また何かのサークルに参加することも良いでしょう。

今回はアルツハイマー型認知症の予防についてお話ししましたが、その他の認知症を来す病気は、脳血管性認知症を除いて、そのリスクファクターが明らかにされていません。次回は、アルツハイマー型認知症の一次予防として、健康な人の予防法を解説しましましょう。

(2012年10月2日)

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