第91回 新型コロナウイルス感染症ワクチンの薦め

いよいよ日本でも新型コロナウイルス感染症COVID-19 のワクチン接種が始まります。ワクチンの開発は、2度の緊急事態宣言が出された現状でのCOVID-19 感染者抑制に必要不可欠なもので、大きな期待が寄せられています。しかし、同時にワクチンがもたらす副症状に対する恐怖心から、接種を控えようと考える人も多いようです。

私自身は、感染症の専門家ではありませんので、ワクチンに関する知識は深くはありません。しかし、このコラムでは、ワクチンの効果や副症状、危険性について、これまで発表させたデータをもとに、私なりに分かりやすく説明し、多くの方が接種されることを期待したいと思います。
この記事の執筆
今井幸充先生
医療法人社団翠会 和光病院院長 / 日本認知症ケア学会 元理事長
今井幸充先生
この記事の目次
  1. mRNAワクチンと他のワクチンの違い
  2. ワクチンの効果と副反応
  3. 気になる重篤な副症状
  4. 高齢者へのワクチン接種
  5. ユッキー先生のアドバイス

mRNAワクチンと他のワクチンの違い

現在、多くの国でCOVID-19ワクチンの開発に取り組んでいます。その中で、ビオンテック社とファイザー社が開発したmRNAワクチンは、発症予防効果が確認されたことから世界中が注目しています。わが国でも政府主導で、このワクチンを接種することが2021年1月20日に合意されました。

mRNAワクチンついて簡単に説明します。インフルエンザ・ワクチンをはじめ多くのワクチンは、病原体を鶏の卵で培養し、感染力のないもの(不活性化)、あるいは弱毒化されたものを材料にして製造します。最近では、インフルエンザ・ワクチンのように、昆虫や植物を培養とし生産する技術が開発され、流行期に大量に供給できるようになりました。

mRNAワクチンは、これまでと全く違う方法で製造されたワクチンです。まず、mRNAの働きについて説明しましょう。ウイルスも人間も生物は遺伝子DNAを持っています。これは、生物が生きるために不可欠なタンパク質を合成する設計図として働きます。DNAに組み込まれた遺伝情報は、mRNAにコピーされ、その情報をもとに新たなタンパク質を合成します。すなわちmRNAは、生物の情報運び屋の役割を持ちます。

mRNAワクチンは、このmRNAの機能を生かし、短期間に、安価で大量に精製することに成功し、十分な発症予防効果が確認された画期的なワクチンです。新型コロナウイルスの表面には、トゲのようなたんぱく質(スパイクタンパク)があり、これが人の細胞にウイルスを侵入させる媒介の役割を持っています。このタンパクのmRNAを解析して、特殊な技術で合成し、ワクチンとして製剤化されたのがmRNAワクチンです。

このワクチンがヒトの体内に注入されると、ウイルスのスパイクタンパクのmRNAが細胞に入り、設計図に従い、人の体内でスパイクタンパクを合成されます。これをウイルスの侵入と認識し、体内の免疫システムが働き、このタンパク質を記憶します。そして、実際のコロナウイルスが侵入すると、ワクチンにより作られたコロナウイルスへの免疫システムが働き、ウイルスの活動を押さえ、発症を予防します。

ワクチンの効果と副反応

一般には、薬剤の効果を判定するために2重盲検試験を行います。この試験は、臨床治験と呼ばれるもので、新薬の開発には欠かせません。ファイザーで開発されたワクチンは、正式名BNT162b2 mRNAワクチンと呼ばれ、実際にワクチンを接種した人とプラセボといって偽薬を接種した人との効果の違いを確認する臨床治験を行ってきました。これまでに最終試験の第3相臨床治験が実施されました。

この臨床試験には、43,548例が無作為に選ばれ、そのうち 43,448 例が臨床治験に参加しました。参加者には、実際のワクチンか、あるいはプラセボのどちらが接種され、両群の効果や副症状の違いを比較検討し、ワクチンの実用性を確認しました。2020年12月31日発刊の世界的に権威ある医学雑誌New England Journal of Medicine に、BNT162b2の治験結果の一部が論文に掲載されています。

それによると、 BNT162b2 が 21,720 例,プラセボが 21,728 例に接種され、2 回目の接種後 7 日目以降に COVID-19 を発症した症例数は、BNT162b2 接種群で 8 例,プラセボ接種群で162 例でした。この結果から,BNT162b2 は COVID-19 の発症予防に 95%の有効率が示されました。

年齢別の有効性をみると、各年齢層でほぼ同じ有効率が認められ、特に75歳以上では100%の有効率が認められました。その他、性別、人種別、民族別、さらには体格の違いや合併症の有無で、ワクチン群とプラセボ―群とで有用率に大きな違いは見られませんでした。

副症状(副作用)で多いのは、注射部位の痛みです。第3相臨床治験では、66歳以上の高齢者で60~70%、55歳以下では80%前後にみられましたが、1~2日後には消失する軽度のものでした。その他に疲労,頭痛の副症状が報告されていますが、重篤な有害事象の発現率は低く,ワクチン群とプラセボ群とで同程度の出現率でした。これらの結果から、第3相臨床治験では、ほぼ安全性が確認されたことになります。

気になる重篤な副症状

最近、気になる報道がありました。重篤な副症状であるアナフラキシーの出現がインフルエンザ・ワクチンよりも頻度が高いこと、そしてノルウェーでワクチン接種後に高齢者23人が死亡したことが報告されました。このような報道があるとワクチン接種に戸惑う方も多いと思います。

米国の疾病対策センターでは、2020年12月14日から23日の間に、ファイザー製のmRNAワクチンを接種した21人にアナフラキシーが見られたことを報告しています。この頻度は、100万人当たり11.1人で、インフルエンザ・ワクチンの1.3人と比較すると高頻度といえます。

症状としては、顔面の紅潮、唇、顔、咽頭の腫れなどが接種後数分から数時間以内に起こり、多くはアドレナリンの筋注で改善します。この症状は、以前に食物や昆虫などでアレルギー症状を経験した人に比較的多く見られるようです。アレルギーを持つ人は、ワクチン接種前に医師と相談してください。

ノルウェーの死亡例は、老人ホーム入居者で、高齢者だったようです。23人の多くが衰弱状態であったので、他の身体疾患が死亡の原因とも考えられ、ワクチンが原因と断定できなかったようです。今後死亡原因が解明され、ワクチンとの因果関係も明らかになると思います。

高齢者へのワクチン接種

mRNAワクチンは、これまでのところ、発症予防と重症化予防に一定の効果が認められ、また副症状も他の疾患のワクチンよりも出現頻度が低いことから、これまでにない画期的なワクチンと評価している臨床家も多いようです。

ただし、このワクチンは、コロナウイルス感染を予防する効果は、未だ明らかにされていません。しかしイスラエルの事例では、現在国民の約30%に接種が完了し、新たな感染者数は減少し、同時に重症化も回避できていると報道されています。

このワクチンの接種は、始まったばかりで、その効果や危険性に関しては、今のところ明確な答えが出ていません。特に、高齢者への接種事例は少なく、また本来の基礎疾患と重篤な副症状、死亡との関連も明らかにされていません。

高齢者は、COVID-19で重症化されることが言われていることから、ワクチンの接種は必要と考えます。しかし、呼吸器疾患や重篤な基礎疾患を有する人、重篤なアレルギーを持つ人は、接種前にかかりつけ医とよく相談してください。また、重度の認知症で、寝たきりで、衰弱が見られる方も接種前に医師に相談してください。

ユッキー先生のアドバイス

いよいよ日本でもコロナワクチンの接種が始まります。前回のコラムでも申し上げましたが、認知症の人は、普段より感染の機会が少ないと思います。しかし、できるだけ多くの方にコロナウイルスに対する免疫が体内に存在することで、このコロナ騒ぎは終息に向かいます。報道等でワクチンの接種に関していろいろ言われていますが、情報の信頼性を確認した上で、ご自身で接種をするか否かを決めてください。


(2021年2月9日)

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