第2回 正常(生理的)の物忘れ、認知症の物忘れ
- 物忘れを体験しない人はいません。特に歳をとると物忘れがひどくなったと感じる人も多いと思いますが、その物忘れが全く問題ない誰もが体験する物忘れなのか、認知症のような病気の物忘れなのかの区別は、なかなか難しいことがあります。 そこで、この回では、物忘れについてお話しましょう。
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正常な「物忘れ」とは
「物忘れ外来」を初めて受診される人の中には、物忘れをとても心配して一人で、また夫婦で来院される方も少なくありません。その人達の訴えを聞きますと、「先日、大切や約束を忘れてしまった」「いつも、メガネの置いた場所がわからなくなって、大騒ぎをする」「人も名前が覚えられない、思い出せない」、ときには「買い物に行ったが何を買うのか分からなくなって、帰ってきた」など日常の物忘れに纏わるエピソードで、「私はアルツハイマー病に違いない」とご自分で診断し、来院されます。
このようにご自分の物忘れ体験を切実に訴える方の多くは、物忘れで失敗した苦い体験を全て覚えているのです。ようするに、ご自分の最近の出来事を細かく覚えていると言う事は認知症ではありません。
集中力を欠いていたり、多くの情報が一度に押し寄せていたり、本人がパニックに陥っていたりすると、それが原因で物忘れが生じます。そして、普通の人は、自分の体験の「一部」を忘れる物忘れが特徴です。約束は忘れても、誰と約束したかは覚えている、名前は忘れても顔は覚えている、何を買うのか忘れても、買い物に行ったことは覚えています。
認知症の物忘れ
それに対して、認知症の物忘れは、自分の体験の全てを忘れてしまうのです。ですから自分自身で詳しく物忘れのエピソードを説明する事はできませんし、しません。多くは、物忘れに対しての自覚がないので、アルツハイマー病を心配して物忘れ外来に受診した方がよい、と思うこともありません。そして、物忘れがだんだん進行すると、一人で電車に乗って遠くに出かけること、金銭の管理、クスリを決められた時間に決められた量を服用することなど日常生活の複雑な行為がうまくできなくなってきます。
軽度認知障害(MCI)とは
このように、普通の人の物忘れは、歳とともに、体験の一部を忘れるケースの頻度が増えても、物忘れにより日常の生活に混乱をきたしたりするような事はありません。
しかし、ここで安心する訳にはいきません。高齢者の中には、認知症ではないけれど、ごく普通の物忘れの人に比較すると、その頻度や程度がひどい人がいます。このような方を「軽度認知障害 Mild Cognitive Impairment (MCI)」と言います。自他共に物忘れがひどいことを認め、記憶に関する心理テストを行うと正常の人より明らかに記憶力が低下しているのですが、日常の生活は問題なく営める人、このような人をMCIと診断します。
このMCIを定義した研究者が実施した疫学調査によりますと、一般高齢者がアルツハイマー型認知症になる確率は年間1~2%であるのに対して、MCIでは年間10~15%との報告でした。一般高齢者よりも約10倍アルツハイマー型認知症になる可能性が高いのです。要するにMCIと診断された人は、アルツハイマー型認知症のハイリスカー、高い危険性を持った人、といえます。では、どのような事に普段から心がければ、アルツハイマー型認知症にならないですむのでしょうか。次回に詳しくお話しましょう。
ユッキー先生のアドバイス
自分の物忘れがどの程度なのか、自分で調べてみてください。
1. 貴方は何歳ですか。
2. 今日は何月何日何曜日ですか。
3. 今の季節は。
4. 今日の朝食は何を食べましたか。
5. いま、貴方は何処にいますか。
6. どのようなものでもよいのですが、3つのものを頭に浮かべてください。
例えば サクラ 猫 電車
その言葉を1分後に思い出してください。
7. 100から7を引く計算を暗算してください。答えから次々に7を3回引いてください。
8. 4桁の数字を頭にならべてください。その数字を後ろから順に言ってください。
9. 貴方の知っている野菜の名前を1分以内に10個挙げてください。
10. で思い浮かべたものの名前をもう一度言ってみてください。
この物忘れのテストは、かかりつけ医や介護専門職の人たちがよく使っている「改訂長谷川式簡易知能審査スケール」の中の問題を参考に作ってみました。どのくらい答えられたでしょうか。恐らく3つ以上間違っていたとしたら貴方の物忘れは注意が必要かもしれません。一度物忘れ外来に受診してきちんと調べてもらいましょう。
いずれにしても、本人も家族も、また周囲の人も、物忘れがひどいと感じたら、一度専門医を受診してください。
(2012年9月2日)
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