認知症介護の注意点:①食事を介助するとき
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食事がセッティングしてあるのに、食べ始めない。
食事は、人間が健康に生活する上で極めて基本的な生活行動のひとつです。特に、高齢者は食が細くなり、食事を食べる量が減ることから、十分な栄養素を摂ることができません。その影響により、便秘、やせ、低栄養の状態、さらには栄養障害に至る場合もあります。その結果、床ずれ(褥瘡)や傷が治りにくくなる、免疫力の低下、感染しやすい状態となる危険があります。
食事を食べ始めない、口を開けない場合は、一口目を介助して食べてもらいましょう。そうすることで、食べ物であることが分かります。そして、箸やスプーン、フォークなどを手渡して一人で食べてもらいましょう。
その際、食器を食べやすい位置にセッティングする、食器自体を持ち上げやすい軽い素材のものに変更する、「今日のメニューは~~です。」と読み上げる、「お味噌汁ですよ。」「おいしいですよ。」など落ち着いた声かけを行い、食事のなごやかな環境を整えましょう。
食べ物をずっとかみ続けている。
高齢者の場合、入れ歯の噛み合わせが悪くなったり、噛む力が弱くなったり、飲み込む際に誤って気管に入ってしまう(誤嚥)場合があります。食材が噛みにくいもの、弾力のあるもの、口の中にはりつきやすいものは、一口大にしましょう。
また、食材のやわらかさを変更する方法もあります。日本介護食品協議会のユニバーサルデザインフードに基づき、食材のかたさなどの基準が定められています。「容易にかめる」、「歯ぐきでつぶせる」、「舌でつぶせる」、「かまなくてもよい」の4区分になっています。本人の食べやすい食材を選んでみましょう。
そして、歯科を定期的に受診し、自分の歯の状態や入れ歯のかみ合わせの状態を診てもらうことも大切です。
最後に、食事をせかされるのほど嫌なことはないです。本人の食事のペースを尊重しましょう。なかなか飲み込めない場合は、口角をトントンと刺激すると飲み込めます。
周りの人やテレビなどが気になって食事に集中できない。
食事の環境は、今までの生活してきた環境にもよると思います。気が散って食事が摂れない場合は、時間を調整たり、静かな環境を整えましょう。
食べ終わったのに、ずっと箸を動かしてつかもうとしている。
模様のついた食器を使っている場合、それが食べものに見えていることがあります。模様のない食器に変えてみましょう。
一口が大きすぎる。
一口量が多い場合、むせて食べものや飲みものが気管に入ってしまい、誤嚥性肺炎や窒息などにつながる恐れがあります。スプーンを小さくする、あらかじめ一口大に切っておくことによって解消できます。
飲みもの(水分)を飲まない。
高齢者は、喉の渇きを感じにくかったり、トイレに行くのが億劫と感じている場合があるため、飲みものを積極的に取らない場合があります。しかし、身体の水分量が減ってしまい、脱水につながる恐れがあります。
いつでもこまめに水分が摂れるように、ペットボトルや水筒を準備しておくことも効果があります。
また、底の深いコップや湯のみの場合、中に何が入っているか分からず、飲まないことがあります。また、持ち方が分からない時は、取っ手のついたコップに変更するという工夫もあります。日頃使い慣れた、愛着のある湯のみやコップで飲むと、落ち着いて飲めます。
途中で食事をやめてしまう。
食事をする時の姿勢を正しましょう。椅子から身体がずり落ちている、椅子が高すぎて足が床についていないなどの不安定な姿勢や、食器を取る際にテーブルが高すぎる場合などは、食べることを途中でやめてしまう場合があります。クッションを活用したり、テーブルと椅子の高さが本人に適しているものを選びましょう。
また、食事の途中でトイレに行くと、気持ちが食事から離れてしまいます。食事の前に排せつや手洗いを済ませて、食事に向き合える環境を整えましょう。
その他、食事の量が多すぎる、1日の活動量が減ったため食欲がわかない、便秘である、などの理由も考えられます。
食事は、ただ栄養を取るだけではありません。心地よい環境で食べることは、生きる楽しみにつながります。
手づかみで食べてしまう。
箸やスプーン、フォークの使い方が分からなくなり、手づかみで食べる場合があります。隣で使っている姿をお見せして、真似してもらいましょう。
むせてしまう。
高齢者になると、食べものや飲みものを飲み込むことが難しくなります。以下に主な理由を挙げます。
①自分の歯が抜ける、入れ歯の噛み合わせが悪くなることで噛む力が低下する。
②舌の動きが悪くなる、唾液の分泌も少なくなる、喉仏の位置が下がる、飲み込むために働く筋肉が低下するため、食べものを飲み込む力が低下する。
③食べものが口→喉→食道→胃に送り込まれる時に、喉から食道に送り込まれる段階で、食べものが気管に入ってしまう(誤嚥)。
④注意力や集中力が低下し、食事に集中できない。
⑤麻痺がある場合、食べものを喉に送り込むことが難しくなる。
このような理由により、食べものや飲みものが食道ではなく、気管に入ってしまうと、むせます。むせるのは、気管に入った異物を出そうとする働きです。むせによって異物が出てくれば良いのですが、むせることなく異物がそのまま気管に入ってしまい、肺炎を起こす場合があります。このことを誤嚥性肺炎と言います。
さっき食べたばかりなのに、「食べていない」と言う。
認知症の進行によって、記憶力や判断力の低下がみられます。また、脳の視床下部という部分に満腹中枢があります。食事をすると、胃に食べものが満たされ、食べものが消化されて血液中の血糖値が高くなります。すると、満腹中枢にシグナルが送られて、食べるのを控えます。しかし、認知症が進行すると、満腹中枢が障害される場合があります。
その結果、食事をしたことの記憶がなくなるため、認知症の人は「食べていない」、ご家族は「さっき、あんなに食べたでしょ。」と言い合いになることもあります。しかし、本人は否定された気持ちだけが残り、悪循環となります。
このような場合は、「そうですね。これから、ご飯の準備をしますね。」と気持ちを受け止めて安心してもらうことが重要です。そして、「一緒に買い物に行きましょう。」「手伝って下さい。」など話題を変えて、意識を食事からそらすようにします。安心できる環境を整えることで、落ち着く場合があります。
認知症の方だけでなく高齢者の方々は、幼い時に戦争を体験しており、食べたくても食べられなかった時代を生き抜いてきました。「食事に対する執着心が強い」と決め付けてしまうのではなく、人生経験や生活背景を尊重した関わりが大切です。
その他、ちょっとしたおやつを準備して、口寂しさを紛らわしたり、食器を小さくして1回分の食事を減らし回数を分割する、などの工夫をしてみてはいかがでしょうか。
異食がみられる。
食べもの以外を食べてしまう行為を異食と言います。主に認知症の末期に現れる認知症の周辺症状(BPSD)の1つです。身の回りにあるもの、例えば、ティッシュ、花、土、石けん、消しゴム、画鋲、ゴミ、紙オムツ、洗剤、タバコ、殺虫剤、薬品、電池、ビニール袋など生命の危険すらあります。
原因は、脳の視床下部にある満腹中枢が障害されることや、満足できていない環境への欲求不満や不安が原因と言われています。
対策として、異食をする時間帯は何時ごろか、異食をする時の表情や行動を観察してみましょう。 例えば、昼食前に異食がみられる場合、お腹にたまらない程度のおやつを摂ってもらったり、食事の時間を早めてみましょう。
また、夕方になるとソワソワする「夕暮れ症候群」の時間帯に異食がみられる場合、お腹が空いていたり、家族が家事や帰宅、入浴などで忙しそうでかまってくれない、という理由が考えられます。夕食に響かない程度のおやつを食べてもらう、調理を手伝ってもらう、皆がいる場所で過ごしてもらい、話しかけて寂しさを紛らわすことが大切です。
その他、認知症の人の身の回りに危険な物品は置かない、安心する環境に整える、興味や関心のあるものに集中する時間を作る、なども効果があります。
歯磨きをしようとしても、口を開けてくれない。
認知症の人は、口を開けてくれない場合が多いです。その理由として、
①顎関節症や口の中の潰瘍などで開けられない場合
②恥ずかしさ、緊張や不安により開けたくない場合
③口を開けるという動作が分からない場合
などが考えられます。
しかし、そのままにしておくと、口の中の細菌が増えて、口臭や虫歯、誤嚥性肺炎の原因になります。
口腔ケアとは、歯磨きだけでなく、舌や口の中をマッサージしたり、飲み込みを良くする体操などを行います。
その結果、口の中の清潔を保つことはもちろん、舌や口の中の筋肉を動かし、唾液の分泌を促したり、脳を刺激します。また、口臭が気になって話をすることを嫌がっていた人が、口腔ケアを行うことで、よく話をするようになる場合もあります。このように、心身共に健康な生活を送るためには、口腔ケアはとても重要です。
口を開けてくれない場合、歯ブラシを見たり、触ってもらいましょう。そして、「これから、歯磨きをしましょう。」と話しかけます。実際に歯磨きをしている姿を見てもらうのも良いでしょう。その結果、これから何をするか分かるため、受け入れてもらいやすくなります。
ドラッグストアや薬局には、歯ブラシだけでなく、スポンジや口の中を拭くティッシュなど様々な口腔ケア用品が売っています。その人に合わせた用品を使用して、口腔ケアを行いましょう。
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