困りごとも相談できる薬のスペシャリスト ~【第3回】認知症に寄り添う人々~

2017年8月7日

認知症ケアの最前線にスポットをあて、患者さんたちに寄り添ったケアに取り組まれている方々のお話しをうかがう連載「認知症に寄り添う人々」。

第3回は、千葉県茂原市「ツルハドラッグ茂原店」調剤薬局の薬局長・鈴木正和さんです。薬の提供だけでなく、健康管理や認知症に関する相談やアドバイスなど、地域密着の薬局として誰もが頼れる薬局づくりをおこなっている鈴木さんの取り組みをくわしく聞いてきました。

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認知症ねっと編集部
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シリーズ【認知症に寄り添う人々】

超高齢化社会をむかえた現代日本において、認知症患者の増加は大きな社会問題となっています。実際にはどんな病気なのか、予防できるのか、治るのか治らないのか。また、家族や周囲の対応は?どう接したらよいか…など、それら一連をしっかりと理解している人は多くないことでしょう。

近年、その高い関心から認知症への対策や取組み、研究発表なども多数行われています。しかし、認知症の疾患特性からみると、数字に現れるものばかりがすべてではありません。

今回「認知症に寄り添う人々」というテーマで、現場の最前線にスポットを当て、患者さんたちに寄り添ったケアに取り組まれている方々のお話しを全6回のシリーズでうかがいます。数字や研究では見えてこない真のケアやサポート方法などを深くさぐっていきたいと思います。

▼前回までの認知症に寄り添う人々
シリーズ「認知症に寄り添う人々」ダイジェスト

第3回「困りごとも相談できる薬のスペシャリスト」

第3回は、千葉県茂原市「ツルハドラッグ茂原店」調剤薬局の薬局長・鈴木正和さんです。薬の提供だけでなく、健康管理や認知症に関する相談やアドバイスなど、地域密着の薬局として誰もが頼れる薬局づくりをおこなっている鈴木さんの取り組みをくわしく聞いてきました。

たくさんのお薬を1つでも減らしてあげたい

——この地域の特徴とご来店客層を教えてください。

ツルハドラッグ茂原店の来店客層はご年配の方が圧倒的に多く、調剤薬局へ処方箋をお持ちいただくお客様も平均年齢60歳前後くらいだと思います。

調剤薬剤師として処方された薬をお渡しすることが主な役割なのですが、ご高齢の方が多いという地域的な特徴もあり、単にお渡しするだけでなく、お薬のことをよりわかりやすく説明したり、飲み方がわからない方にアドバイスしたりするなど、丁寧に接するよう心掛けています。

また、認知症の患者さんも多くいらっしゃいますので、薬を取りに来られたご家族から様々なご相談を受けたりもしています。

——具体的にはどのようなご相談が多いのでしょう?

高齢の方は、持病などで薬が多いうえに、それぞれが朝晩や朝昼晩だったりなど、服用の回数や量が違うとどう飲んでよいかわからないという声を本当に多く聞きます。他にも、うっかり飲み忘れてしまうとか、お薬の良くない飲みあわせを知らなかったりなど、小さなことなのですが、みなさん様々な違う悩みを抱えておられるんです。

病院では薬を出す際に、それがどんな薬なのか、なぜ必要なのか詳しく説明が聞けないこともあると思います。たとえ説明をちゃんと受けていても、実物が手元にない状態のまま聞くと忘れてしまいますよね。「処方箋に書いてあるだろう」と思われるかもしれませんが、やはりご高齢の方には理解が難しいと思います。

そのようなご要望にこたえるために、病気内容を詳しく把握し、生活環境もきちんと聞き取りを行います。ですから自然に日常会話を越えた悩み相談のようなやりとりが増えますし、そうすることでしっかりと患者さんのことを理解でき、求められる答えをお渡しすることも可能になるのです。

ツルハドラッグ茂原店外観
広い駐車場も完備したツルハドラッグ茂原店の外観

——悩みを聞いてもらえる薬局はめずらしいですね。

雑談からスタートし、色々と聞き取りを行っていく中で悩みや要望を探し出します。最初はそっけなかった方でも、真剣に対応していると次第に思いを打ち明けてくれるようになり、信頼をしていただけるようになります。

気がつけば常連の方が本当に多くなりました。嬉しいことに私を頼ってきてくれる方もおられますし、こちらとしてもどんどん相談に乗ってあげたいと思っています。少しでも体と心を楽にしてあげたいし、飲んでいるお薬の数を1つでも減らせるような状態にしてあげたい。そんな気持ちでいつも応対させていただいています。

——相談できる場所が近所にあるのはとても心強いと思います。

困りごとを抱えている方々の相談をしっかり受けているうちに、自然とこういう流れになってきました。私はこの茂原店に赴任して丸3年になるのですが、そういった高齢の方々との一連のやりとりを良いカタチで口コミしていただき、ますます高齢の方のご来店が増えたように思います。

最近の傾向として「どういった生活指導をしたらよいか」「どう接したらよいか」などを聞いていかれる認知症患者さんのご家族、娘さんや息子さんのご来店も多くなりました。高齢化の影響もあり、認知症の患者さんも急激に増えている気がしますし、介護をされるご家族の苦悩も多種多様になってきていると感じています。

食事指導や運動療法などのアドバイスも

——認知症患者さんのご家族はどのようなご相談が多いですか?

一番多いのは、ずっと前から認知症と診断されていて症状が進行しているのに、お薬が全く変わらないという不安や、周辺症状がどんどんひどくなっていくこと等の相談ですね。

認知症というのは、薬を飲めば完治する病気とは違いますから、やはり「このお薬でよいのか」「これは何に効くものなのか」「いつまで飲めばいいのか」「今後どうすれば」など、不安は常につきまといます。

そんな悩みや困りごとを多く聞き、少しでも改善を目指せないか、薬剤師が介入して何かできないか、と色々模索していました。ご飯が食べられないという声や、運動機能の低下を危惧する声も多かったことから、食事指導や運動療法なども独自に学んでお伝えしたりもしています。

ツルハドラッグ茂原店インタビューの様子1

——食事や運動など生活面のアドバイスは嬉しいですね。

簡単なことばかりなのですが、薬をお渡ししながらお伝えすると、より効果的だと思いますので、積極的に行っています。例えば、食事面では脳に良いとされるクルクミンの入ったカレーメニューを提案してみたり、身体面では転ばないように座ってできる運動や、末梢神経の働きを高めるための指先運動をお教えしたりなど、あらゆる悩みやご相談に対してアドバイスできるよう日々勉強しています。

そんな中、話題になっていたMCT中鎖脂肪酸)の認知機能への高い効果に注目したんです。そこでMCTの勉強会に参加して詳しく学ばせてもらったところ、「これなら認知症の症状緩和に効果があるかもしれない」と思って取り組み開始を決めました。その旨を認知症で悩まれているご家族にお伝えし、「試してみませんか」とおすすめしてご希望の方を対象に取り組みをスタートさせました。

——中鎖脂肪酸 をどのように取り組まれたのでしょう?

スタートは平成26年秋頃でした。記憶障害やもの忘れの症状がある認知症の患者さんを抱えるご家族にお声掛けしたところ、15人の方が参加してくださいました。MCTオイル(中鎖脂肪酸 100%のオイル)かパウダーどちらかを選んでいただき、1日小さじ1杯程度の量を摂取してもらいました。

オイルはお味噌汁や飲み物に混ぜてもらったり、パウダーはご飯やサラダにかけてもらったり。その他にも卵掛けご飯にまぜたりなど、色々と食べ方を工夫してもらいながら続けていただきました。

どちらも味はほとんどありませんが、ご家族の方々は料理の味や雰囲気を変えないようにすることに気を配られていました。色々とお話しをうかがった中では、温かい料理に混ぜるのが一番わかりづらくて自然だということです。

——その取り組み結果はいかがでしたか?

15人のご参加で7人に改善傾向があらわれました。参加された当時84歳女性アルツハイマー型認知症の方を例にあげます。以前から認知症と診断されていましたが、段々と症状が悪化しているのに医師の対応が特に変わらず、お薬にも変化がないことにご家族はかなり悩まれていました。

そこでMCTオイルを1日スプーン1さじ、約6mg摂取してもらいました。無口で会話も無く、自宅にこもりがちだったのですが、摂取後10日前後で会話が出てきたそうです。それからも一人で散歩に出掛けることができるようになったり、周辺症状も無くなって安定して落ち着いているとのこと。

この方は2年程摂取を続けられていて、年齢相当の衰えはあるものの、家事を一人でできるまでに改善されたそうです。ちなみに期間中に一度、摂取を中断したことがあるのですが、症状がまた悪化したため、あわててスグに継続再開されたとのことでした。

MCT摂取で認知症の改善効果を実感

——ご家族からの反応はどんなものでしたか?

摂取から約10日で改善傾向が表れるなど、思いのほか早い効果にとても驚かれていました。「良いものを教えていただき頭があがりません」とまで言っていただいたご家族もいらっしゃって、私としてもお勧めして良かったと心から思いました。

ココナッツオイルのイメージ
中鎖脂肪酸はココナッツオイル等に多く含まれるが、中鎖脂肪酸だけのオイルやパウダーが市販されている

取り組み開始から約2年半が過ぎましたが、改善効果が見られた何人かは、今でも摂取を続けられていらっしゃいます。ちょうど今、また新しく2人の方が取り組みをスタートさせる予定になっています。

振り返ってみれば、最初にお勧めした時点でほとんどのご家族が「少しでもプラスになることがあれば何でもトライしたい」というお考えでした。病院では認知症状の進行を確認してお薬を処方されるだけの場合が多く、自宅での周辺症状や記憶障害などへの対応について教えてくれることはあまりないと思います。そんなこともあり、現在の認知症治療への不安の大きさも感じることができた有意義な取り組みだったと思います。

——MCTの効果は思っている以上にすごいですね。

そうですね。私自身も、MCT摂取によって障害等級2級から等級3級になられたり、ひどかった周辺症状が全くなくなって家事も1人で出来るようになったという現状には、本当に驚いています。

認知症へのMCTの効果は、改善・維持の両面であると実感していますよ。また、私の見解としては、周辺症状が出ておられる認知症の方の改善が顕著だったように感じています。

——みなさん「相談して良かった」と思われているでしょうね。

そう思っていただけたなら励みになります。私は以前OTC医薬品(一般用医薬品)の担当をしていたので、元々お客さんとお話しするのがとても好きなんです。その延長線上で、相談を受けることも嬉しいですし、質問してもらうと色々と説明したくなってしまう性格なんですよ。

あれこれ皆さんにお世話を焼いてしまうので、「しゃべり過ぎなのでちょっと…」と言われたこともあります(笑)。しかし、大半の方は喜んで聞いてくださいますし、その必要性も強く感じています。

ドラッグストア内の調剤薬局の“気軽さ”という特徴を生かし、病院で聞けなかったことや不安に思うこと、困りごとなどを相談してもらえる環境づくりをしていきたいと考えています。

薬剤師としての意義と責務を確立していきたい

——ちょっとした相談でも立ち寄られる方が多そうですね。

そうかもしれません。とくに季節の変わり目は体の疲れや血圧変動が起きやすく、糖尿病などの持病のご相談も多くなります。数値が変動しやすく管理が難しい時期の場合、そのことを念頭に置きながら、単純に検査数値だけで判断しないよう気をつけてアドバイスするよう心掛けています。

その他にも、食生活の傾向や嗜好品もうかがうようにしています。例えば、コーヒーや緑茶を好んで召し上がる方は、カフェインの利尿作用によって脱水状態になっていないかとか、血圧変動に影響していないかとか。

逆に検査結果を見て血圧が高ければ「お茶をたくさん飲んでいませんか?」「塩分やカリウムを多く摂っていませんか?」などお聞きします。緑茶からほうじ茶に変えてカフェイン摂取をおさえるだけで、血圧が30ほど下がった方もいらっしゃいますし、日々の食生活をしっかり見ていくことも健康には大切なことなのだと確信しています。

ツルハドラッグ茂原店インタビューの様子2

——他にも取り組みをされていれば教えてください。

ツルハグループの薬局長クラスの薬剤師は、毎年自分で課題を作って学術発表するという取り組みを行っています。まず社内で発表・精査し、通過すれば各学会へ発表や外部発信するという流れになります。

私も先ほどお話ししたMCT中鎖脂肪酸 摂取について、2016年の日本認知症ケア学会大会で「調剤薬局来局者への対応を通じての改善症例」として日清オイリオさんと共同発表させていただきました。

この取り組みの主旨には、薬剤師としての知識を深めていこうという狙いがあります。通常業務の合間に制作しますので大変な部分も多いですが、新たな知識や発見を得られるだけでなく、薬剤師としての存在意義も確立されるため、とても大切でありがたい取り組みだと思っています。

——今後の地域との関わりや展望を教えてください。

どんどん高齢化していく地域のニーズに、調剤薬局としての在り方も合わせていかなければならないと思っています。今、病院を受診した後に病院のすぐ近くにある薬局でお薬をもらう際、薬局が混んでいることも多いので、会話も説明もあまりなく薬を受け取ることが大半だと思います。私はそのことがずっと気になっていました。

そんな流れで昨年、地域のお祭りに「薬剤師のおくすり相談コーナー」を設置してもらって参加しました。そこで、薬の説明をしたり、体重や体脂肪を計測して食事環境などの相談やアドバイスをするという取り組みも始めました。薬剤師の立ち位置を見直して、薬剤師が関われる責務をもっと増やしていければと考えています。

——最後に地域の方や読者へメッセージをお願いします。

ツルハドラッグ茂原店に近い方であれば、薬のことだけでなく、生活環境や食事についての困りごとなどなど、いろいろ聞きにきてください。また、店内で血液検査も行っています。買い物ついでに10分程度で検査できますので、気軽に足を運んでもらえたらと思います。

大切なことは、そういった相談できる場所を見つけ、ちょっとでも自分の気持ちや体の負担を軽減してあげることです。一人で悩んでいても解決しませんし、引きこもってしまえば認知症などは症状がより悪化してしまう可能性もあります。色んな場所をめぐって自分と相性の良いお店や薬局、薬剤師を見つけてみるのもお勧めですよ。地域の薬剤師をもっと活用してもらいたいと思っています。

取材・文 たなべりえ

今回お話をうかがったのは

ツルハドラッグ茂原店/調剤薬局長 管理薬剤師 鈴木正和さん
ツルハドラッグ茂原店/調剤薬局長 管理薬剤師 鈴木正和さん

ツルハドラッグ茂原店
大手ドラッグストアチェーン「ツルハドラッグ」の千葉県茂原市にある店舗。
調剤は、月曜日から土曜日まで朝の10時から19時まで営業している。(土曜日のみ18時まで)
広い駐車場を完備した地域密着型の店舗。

▼関連リンク
脳のエネルギー不足を助ける「中鎖脂肪酸」の働き

▼シリーズ「認知症に寄り添う人々」記事
第1回「若年性認知症の方の居場所をつくりたい」
第2回「生活支援につながる栄養ケアで負担を軽くしたい」
シリーズ「認知症に寄り添う人々」ダイジェスト

▼外部リンク
ツルハドラッグ公式サイト


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