若年性認知症の方の居場所をつくりたい ~【第1回】認知症に寄り添う人々~

2017年6月8日

今回「認知症に寄り添う人々」というテーマで、現場の最前線にスポットを当て、患者さんたちに寄り添ったケアに取り組まれている方々のお話しを全6回のシリーズでうかがいます。数字や研究では見えてこない真のケアやサポート方法などを深くさぐっていきたいと思います。

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この記事の執筆
認知症ねっと
認知症ねっと編集部
認知症ねっと

シリーズ【認知症に寄り添う人々】

超高齢化社会をむかえた現代日本において、認知症患者の増加は大きな社会問題となっています。実際にはどんな病気なのか、予防できるのか、治るのか治らないのか。また、家族や周囲の対応は?どう接したらよいか…など、それら一連をしっかりと理解している人は多くないことでしょう。

近年、その高い関心から認知症への対策や取組み、研究発表なども多数行われています。しかし、認知症の疾患特性からみると、数字に現れるものばかりがすべてではありません。

今回「認知症に寄り添う人々」というテーマで、現場の最前線にスポットを当て、患者さんたちに寄り添ったケアに取り組まれている方々のお話しを全6回のシリーズでうかがいます。数字や研究では見えてこない真のケアやサポート方法などを深くさぐっていきたいと思います。

▼関連リンク
シリーズ「認知症に寄り添う人々」ダイジェスト

第1回「若年性認知症の方の居場所をつくりたい」

まずお一人目は、若年性認知症の方に特化した希少なデイサービス施設を運営する「特定非営利活動法人 ぐるーぷ 麦」代表の吉田さんです。若年性認知症の方々を取り巻く現状や対策についてたっぷり聞いてきました。

スポーツや美術館、楽しめる適正プログラムを企画

——まず「ぐるーぷ 麦」についてお聞かせください。

(神奈川県川崎市で)軽度の若年性認知症の方に対応したデイサービスを行っているNPO法人です。若年性認知症の方たちにあった適正なプログラムを曜日ごとに組み、利用者同士の関わりの中で楽しく過ごしていただいています。現在、通われているのは60代男性の若年性認知症の方が中心なのですが、みなさん本当にイキイキされています。

——具体的にはどんなプログラムがありますか?

月曜日は臨床美術講師を招いて脳トレアートを中心としたプログラムを行っています。火曜日は朝オリエンテーション後に英会話レッスンを行ったのち、近くのスポーツセンターに出向いて笑いヨガやストレッチで体を動かしています。

昼食は、私が出来る限り腕をふるってつくっています。皆さんがスタッフとオリエンテーションをしている間など、頃合いをみながら麦のキッチンで作っていますよ。栄養バランスを考えて、いろんな献立を立てているので利用者さんだけでなく、ご家族にも好評をいただいています。忙しくて出来ない時も多いのですが、そんな時には近くのお店に出前を頼んだりなど、昼食の時間も楽しんでもらえるように工夫しています。

ぐるーぷ 麦の通所者の皆さんが制作した絵画
通所者の皆さんによる作品

そして午後からは、しりとりで言葉を引き出す脳トレや、七ならべ10回勝負などを集中して行います。ゲームに熱中することで注意力が向上するんですよ。その他の曜日も、散策や美術館めぐりなど出掛けることが多いですね。

月に1回抹茶カフェでお抹茶をいただいたり、天気のいい日は多摩川河川敷でストレッチしたりいろいろ盛りだくさんです。普通の大人の趣味サークルのような雰囲気で、病気があることを忘れるような居場所づくりを目指しています。

服装も化粧もキレイに。エプロンなんてとんでもない!

——プログラム企画には何かコツなどありますか?

いつも「なにか認知症によいプログラムはないかな?」とアンテナをはっています。若年性認知症の方の多くは、不安や出来ないことが増えることで自信をなくされています。今の自分が生きていること、社会に対応できていることを実感してもらえるような1日を過ごしてもらいたいという思いが強いです。

それと、スタッフには利用者の心に対しての気遣いやサポートを常に心掛けるようにと伝えています。その一環なのですが、スタッフの格好や見た目は大切で、エプロンとかジャージとかマスクとか、とんでもないです。あれをした時点で「作業」「業務」になる気がします。服装もお洒落にしてほしいし、化粧もきちんとして、いつでもキレイでいてほしい。

ぐるーぷ 麦は男性の通所者がほとんどですし、できればキレイな女性に出迎えてもらった方が嬉しいと思います。でも、この業界はそういった大切なことが一番後回しにされている気がします。

——確かに、同性の私もキレイな女性のお出迎えがいいです。

ですよね! そうなると、通所の男性たちもお洒落してこられるんですよ。みなさん、いつも素敵な装いでいらっしゃいます。これも自立支援や心身機能維持向上につながっていると思っています。

忘れても大丈夫ですよ、私たちが覚えていますから!

——その他に取り組まれていることはありますか?

ご家族の方との交流は、本当に大切にしています。その日に食べた昼食も写真つきでお渡ししていますよ。認知症というのは記憶障害があり、覚えていられない、忘れてしまうという症状があります。

ですからご家族には「昼食は何を食べたの?」「今日は何したの?」と聞かないでくださいね、と伝えています。そのかわりに、お渡しした昼食の写真を一緒に見ながら「今日はコレを食べたのね」「今日は美術館へ行ったのね」と確認的な会話をしてほしいとお話しするのです。

——認知症の方に寄り添った対応という感じがします。

ご家族もそれをするだけで、心が軽くなると思うのです。「わからない」「つたわらない」とお互いが嘆くより、やさしく確認し合える会話の方がずっといいですよね。私たちもご本人たちと接する時には「忘れても大丈夫ですよ!私たちが覚えていますからね!」と常に安心感を与える言葉を付け加えています。

2ヵ月に1度、家族のみなさんに集まっていただいて家族交流会を開催しています。ピアカウンセリングの場になりますが、ときには様々な方をお招きして勉強会なども行っています。最近では、中鎖脂肪酸の研究をされている日清オイリオさんをお招きしたことがきっかけで、中鎖脂肪酸を取り入れた共同研究にも参加しています。

——話題の中鎖脂肪酸ですね。成果はいかがでしたか?

「ぜひ試してみたい」という9名のご家族が参加されました。ご本人には1日20グラムの中鎖脂肪酸商品を半年間摂取していただき、ご家族にはその変化を記録していただきました。早い方で摂取後1〜2週間で大きく改善があったり、周辺症状が緩和されたりなど、本当に驚くほどの変化がありました。

要介護3の61歳の方の場合、無表情で意思の疎通が難しかったのですが、表情が明るくなって「ありがとう」という言葉も出るように。また、要介護1の67歳の方では、書きづらかった文字がまっすぐ書けるようになるなど、9名中7名に何らかの改善がありました。私の見解ですが、重度の方のほうがより顕著に結果が出たように思います。

——ご家族も驚かれたでしょうね。

そうですね、大変喜ばれていました。半年間でうつや不安、不眠、日常生活動作の改善もみられたということで、また新たに3名の方が追加で参加を希望されていました。私も認知症ケア学会などの発表などで結果レポートを書いたり色々大変でしたが、改善の報告ができたことが何より嬉しかったです。

自治体で抱え込まず、横断的な展開を目指してほしい

——では、若年性認知症を取り巻く現状についてお聞かせください。

若年性認知症は公表では3万6000〜7000人と言われていますが、実際にはもっと多くの方々が苦しんでいると思います。高齢の認知症に比べて圧倒的に数が少ないこともあり、若年性認知症の方へのサポートはとにかく少ないのが現状です。

——行政の支援はまだ行き届いてないのですね。

今、ようやくスタート地点に着いたぐらいだと思います。昨年、平成28年度に介護保険制度が大きく変わり、定員が18人以下の小さな事業所は地域密着型通所介護へと移行しました。介護保険事業そのものも地方自治体が運営することになり、川崎市の地域密着型通所介護は川崎市に住む人だけを受け入れることになったのです。

地理的な関係でそれまでは、半数の方が横浜方面から通われていたのですが、この新制度のおかげで川崎市以外の方は介護保険を使った利用が出来なくなってしまいました。これまで通っていた方は大丈夫でしたが、新規で川崎市以外の利用者の受け入れが困難となり、本当に困っています。

——福祉での区切りや線引きは本当に難しいですね。

そのとおりです。それまで横浜市にある病院の先生にご支援やご紹介をいただいて、ご相談もさせてもらっていましたが、いろいろと難しくなってしまいました。

若年性認知症支援の事業者が少ないなかで、やっと見つけて利用したいと思っても、それが出来ない制度になってしまっていることが本当に残念で、利用されたい方に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

若年性認知症には特例として介護保険を使い、川崎市以外の人でも通えるようにしていただきたいです。もっと時代に見合った横断的な展開を目指してほしいと切に願っています。

——最後に若年性認知症の方やご家族、不安を抱えた方へ一言お願いします

先述のとおり、若年性認知症への受け皿は少なく、サポートもまだまだの現状です。だからこそ私から言えることは、少しでも不安があったら「早く受診すること」、この一言に尽きます。多くの若年性認知症の方々を見てきて、早ければ早いほど対応の幅も広がり、その対応が適切であればご本人も落ち着ついて向き合うことができると思います。

それから、若年性認知症の方は高齢認知症と違って、病状の自認があると言われています。自分の病状に不安を覚えて引きこもってしまい、急激に進行してしまうということが見られます。早く信頼できる居場所と相談相手を見つけることが一番大切だと思います。

今後もみなさんの居場所を少しでも拡大できるよう、精一杯がんばって働きかけていきたいと思っています。

取材・文 たなべりえ

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今回お話をうかがったのは

特定非営利活動法人 ぐるーぷ 麦/代表理事 吉田 歌子さん

特定非営利活動法人 ぐるーぷ 麦
神奈川県川崎市で2005年に発足。
地域密着型通所介護デイサービス「でいサロン麦」や地域交流の場「b-café 麦」などを運営し、若年性認知症患者とその家族への支援を行う。
2014年より中鎖脂肪酸研究事業を日清オイリオとスタートさせた。

▼関連リンク
脳のエネルギー不足を助ける「中鎖脂肪酸」の働き

▼認知症に寄り添う人々
シリーズ「認知症に寄り添う人々」ダイジェスト

▼外部リンク
ぐるーぷ 麦の公式サイト


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