【広川先生のMCIコラム(第5回)】早く気づけば認知症にならない!?~実際にあった早期発見の事例④~

2017年11月22日
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この記事の執筆
広川慶裕先生
ひろかわクリニック院長
広川慶裕先生

はじめに

これまで数回にわたり、認知症の早期発見に関する事例をご紹介しました。
今回は、認知症のごく初期段階であると早期発見できたにも関わらず、治療や認知症予防策を中断された結果、1年後来院されたときには認知症がかなり進行してしまっていたという事例を紹介したいと思います。

初診時

Aさん(70歳/男性)は、奥様に連れられて来院されました。奥様によると、最近物忘れがあり、何度も同じことを言う、ついさっき言ったことを忘れるなどの症状があると言います。ただ、Aさんご夫婦は、日常生活を送ることに支障は感じておらず、夫婦で趣味のスポーツ観戦をしたり、テレビを見て内容について対話をしたり、一緒に買い物に行ったりと毎日楽しく過ごしているとのことでした。

しかし検査をしてみると、MMSEは20点で、やはり認知機能の低下が疑われました。確定診断の為に、画像検査(MRI、脳血流シンチグラフィ)を受けていただくと、脳の萎縮と血流低下が認められました。私は問診と検査結果をもとに総合的に判断し、認知症のごく初期段階であると診断しました。
治療方針としては、まずは少量の抗認知症薬と血流改善薬による薬物療法と、当院で開催している認トレⓇ教室(認知症予防トレーニング教室)への週1回の参加を提案し、Aさん夫婦との治療が始まりました。


初診から半年間

薬物療法、認トレ教室への参加を継続し3か月ほど経過した頃から、Aさんの認知機能は初診時に比べ徐々に改善が見られ、奥様も良くなってきていると思うと認識されるまでになっていました。

半年が経過した頃、「相変わらず物忘れはあるが、最初に診察に来たときほどの物忘れはない」と奥様は言われ、Aさんも「特に変わりはない。自分はいつも元気だ」と言います。そして、この時点でMMSEは26点まで改善~回復していました。私は、認知機能、特に記憶力に関しては劇的に改善することは難しいので、このまま薬物調整をしながら、認トレ教室の参加も継続して様子をみていきましょうと話しました。しかし、そのようなお話をした次の診察日、Aさんご夫婦は診察にはお越しになりませんでした。お薬もなくなっているだろうし、認トレ教室の参加もされなくなっていたので、私としてはとても心配な思いをもっていました。

治療中断から1年後

Aさんが来られなくなって1年が経過したある日、Aさんご夫婦が突然、診察に来られたのです。診察室に入ってくるAさんの様子を見て、私の嫌な予感が当たってしまったと思いました。Aさんに1年前のような表情はなくなっていました。痩せて、目はうつろ、会話もうまく出来なくなっていました。
話しを伺うと、「以前検査をしてもらい、薬を飲み、認トレ教室にも参加をしたことで物忘れは少し良くなりました。本人も元気だったし、これ以上は良くならないだろうと、忙しさもあって、薬の服用も認トレ教室参加も中断してしまいました。この一年で夫は物忘れがどんどん進んで、最近では会話もきちんと出来なくなってしまいました。家からも出ず、好きだったスポーツ観戦をしても、すぐに忘れてしまうので結果の感想を対話することも出来なくなっています」と言います。


大変残念なことですが、薬物療法と認トレ教室参加を中断したこの1年で、Aさんの認知症はより進行していました。MMSEも10点にまで下がっていました。すぐに抗認知症薬などの薬物療法を再開しましたが、私のこれまでの臨床経験上、大きく低下してしまった認知機能を取り戻すことは難しいというのが現状です。
MCI期や認知症のごく初期段階では、抗認知症薬の服用や認トレなどの認知症予防策を講じれば認知機能が改善することは期待できますが、ここで大切なことは「継続すること」です。「良くなったからもう大丈夫」と予防策を止めてしまうと認知機能の低下は進みます。服薬や認トレで認知機能が改善、少なくとも維持されているからです。
現在Aさんは、これ以上認知症を進行させないよう、薬物療法のほかに、毎日の散歩や刺激のある楽しい生活を送れるよう、奥様が全面的にサポートされています。

さいごに

MCI期や認知症のごく初期は、基本的には日常生活に支障がなく、薬を飲んでも、認トレ教室への参加などの認知症予防策を行っても、目に見える劇的な変化は中々自覚できません。「なんとなく頭がすっきりしたかも」「そういえば、物忘れが減っているかも」「意欲的になってきたかも」という、“なんとなく良くなっているかも“という程度で十分なのです。この時点でMMSEなどを施行すると平均3点~5点、最大10点近く改善した人もいます。頑張っても特に変化がないのだからと薬や予防策を中断してしまうと、どんどん認知機能は低下方向に向かってしまいます。
統計上、MCI期に何も対策を講じず放置すると、3年~4年で約半数が認知症になるとされていることを考えると、“変化がない”ということは、“現状を維持できている“ということで、認知症予防としてはとても効果があると考えてほしいのです。

認知症は早期発見も大切ですが、その後、認知症を発症させないための予防策をどこまで「継続」して行えるかがより大切なのです。

(画像はイメージです)

広川先生のクリニック情報

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京都府宇治市宇治妙薬24-1 ミツダビル4F
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http://www.j-mci.com/

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