第3回 認知症が疑われるときのチェックテストと病院選びについて

2015年12月28日

今回は東京大学医学部附属病院 神経内科 特別外来 メモリークリニックでアルツハイマー病(AD)やレビー小体病、前頭側頭葉型萎縮症等の疾患の診断、治療に当たっていらっしゃる岩田淳先生にインタビューさせていただきました。

岩田先生は認知症の診断・治療だけではなく、臨床研究も行っておりますので、認知症の研究も含めた幅広い内容をお伺いさせていただきました。全9回でお送りいたします。

岩田先生のインタビューを第1回から読む
話し手
岩田淳先生
東京大学大学院医学系研究科神経内科学 講師
岩田淳先生

第3回 認知症が疑われるときのチェックテストと病院選びについて

これだけ認知症患者の増加が社会問題になってくると、自分は大丈夫か、自分の家族がいつかなるのではないか、という不安になる方も多いでしょう。

認知症の判断基準のひとつに認知症のチェックテストというものがあります。もしや、というときにあわてないように、認知症のチェックテストや認知症が疑われる場合の病院選びについての知識を身につけておきましょう。

進化する認知症のチェックテスト

―― 認知テストはいろいろあって、最も有名なのが長谷川式認知症スケールですが、先生は50~60代の方に対しては何のテストをするのが、最も確度が高くなるとお考えですか。

それは難しくて、長谷川式とか、MMSEとかは、認知症でないと異常を検出できないテストです。正常であれば満点がとれてしまいますから、天井効果といいますが、わずかな変化を見いだすためにはあまり意味がないと思います。それよりも記憶の負担がもっと大きい検査が必要となります。

例えば、一例ですが、Free and Cued Selective Reminding Test (FCSRT)といって、絵を覚えてもらって、後で何があったかいってもらうというテストがあります。そういったものが大事だとは思いますが、これも人対人でやる検査ですので人件費がかかります。そういった問題点があるので、今ではiPadなどでできるような認知機能検査や、ゲームの様な感覚でできるようなものがおそらく最も大事だと思い始めています。自分一人で出来ますから。

とにかく手軽に一人でできるものであって、精神的な負担がかからないというのがとても大事です。例えば、今度始める、DIAN(ダイアン)-Japan研究というのがあります。常染色体優性遺伝のアルツハイマー型認知症の家族歴のある方たちを定期的に追跡する研究です。

アメリカでは既に始まっている研究ですが、その日本語版を大阪市大の森先生を中心にやります。それにはiPad版の認知機能テストを使用する可能性があります。参加者の方にiPadを渡して、データを取っていくことになります。人手がかからないですし、反応時間を正確に測定する事もできますからね。

―― アルツハイマーの方に対してですか?

ダイアンジャパンというのは、家族性のアルツハイマー型認知症の家族歴持った方々を対象に行なう研究で、要は遺伝子異常を有していて、将来発症する可能性のある方々ということです。家族性アルツハイマー病は常染色体性優性遺伝という遺伝形式をとります。

人間は父親と母親から一対ずつ遺伝子をもらうのですが、この病気の場合どちらかから遺伝子の異常が伝えられた場合に病気になります。父も母もその親からは一対ずつ遺伝子を受け継いでいるので、どちらかに異常があれば子供に伝える確率は50%です。つまり、家族性アルツハイマー病と診断されている方のお子さんが同じ病気になる可能性は50%という事になります。

そして、家族性の場合は残念ながら、20~40代でアルツハイマー型認知症を発症する可能性があるわけですが、遺伝子の異常を持つ可能性のある方達の認知機能の変化を追跡して、いずれは早期の治療介入に結びつけていきたいというプロジェクトです。

そういう人たちの、認知機能が発症する前にはどうなっているのかということをみる研究ですが、30~40代の若い世代の方に検査を受けて頂きます。そういう方たちは症状がないですから、長谷川式認知症スケールだったら必ず満点ですし、普通の知能テストをやったって、満点を取ってしまうでしょう。

そういう方々にやってもらうテストというのは、かなり難しくて時間がかかり、精神的な負担が高いテストになります。そういったものをiPad形式でやるということを今考えているところです。

認知症が疑われる場合は、認知症を診なれた医師を受診すべき

―― クリニックから大学病院まで、医療機関がたくさんありますが、最初にどういった病院にいけばよいのでしょうか。最初の病院選びのポイントについて教えてください。

難しいですよね。今でこそ、認知症を診ようと努力している先生たちが増えてきて、医師会などで、認知症について熱心に取り組んでいるということをアピールしている先生方が結構おられます。そういったところであれば、基本的には大丈夫だと思います。

そうでないところはかなり温度差があるので、「認知症の診断は難しい」とおっしゃる先生もいれば、「認知症診療は遠慮したい」という先生も非常にたくさんいます。実際認知症の方を診るのは大変なので、そういう先生方の気持ちもわかります。認知症のことを日頃からやっておられる先生というのは、それこそネットとかで紹介されていると思います。

また、「慣れ」は大事で、時々、「ずっと正常だと医師からいわれているのですが、何もできなくて」といって来院される方で、長谷川式認知症スケールが10点くらいしかできなくても、脳の大きさを測定する検査のVSRADが正常だからといわれている方がいます。VSRADが正常な理由はおそらくレビー小体型認知症なのだろうと思うのです。しかし、そういう診断名が思い浮かばなければ「正常」という診断名になってしまいますね。

レビー小体病ではMRIでは異常が出てこない段階がありますからね。もちろん、アルツハイマー病でも、そうそう症状と相関しません。そういう意味で、認知症を日頃診て慣れている先生のところにまず行った方がいいとは思います。

―― 底上げがされてきている感じがありますか?

講演会をすると、ご質問いただく内容のレベルが大分上がってきている印象を強く受けます。みなさんが一生懸命に頑張っておられる様子がよくわかりますね。日本の医療機関には中小病院、大学病院と、いろいろあるとは思いますが、要は簡単にいえば、全ての医者が認知症を診られるようにならないと、400万人もの患者さんを全て診療することはできません。

日本の医者の数が何十万人ですから、1人の医者が何十人診たって、医者の数が足りないことになります。産婦人科や小児科の医師もおられるわけだから、全ての医者が認知症を診られるわけではないのですし。当然ですね。

そうすると、内科にかかわる医者は少なくとも、認知症をきちんと診られる状態にならなければなりません。何十年前は糖尿病だって、よく分からないのできちんと診療する自信がないという医師が多かったのですが、今は糖尿病といったら、どの内科医も診ることができますよね。それと同じだと思います。認知症もそういう時代になっていかなければなりません。

ただ、そのためには、話が戻りますが、糖尿病や高血圧の薬みたいに、「効いているね」という実感を有した薬が出ないと、やはり厳しいと思います。私も「抗認知症薬を処方していますが、変化がないように思えます」と言われることがあります。

「こういう点をみると、変わっていることはありますよ」とお話ししますが、これはトレーニングを積んでいかないとわからないので。そういう意味では、治療をしたら数値がこうなるといったような客観的な数値の出るバイオマーカーが出てくれば、どの医者でも認知症を診ることができる時代がくるだろうし、ブレイクスルーになると思っています。

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