第1回 認知症を取り巻く社会と家族介護における問題点
今回は東京大学医学部附属病院 神経内科 特別外来 メモリークリニックでアルツハイマー病(AD)やレビー小体病、前頭側頭葉型萎縮症等の疾患の診断、治療に当たっていらっしゃる岩田淳先生にインタビューさせていただきました。
岩田先生は認知症の診断・治療だけではなく、臨床研究も行っておりますので、認知症の研究も含めた幅広い内容をお伺いさせていただきました。全9回でお送りいたします。
- 話し手
第1回 認知症を取り巻く社会と家族介護における問題点
社会の高齢化とともに増加の一途をたどる認知症患者の数。10年後の2025年には高齢者の5人に1人が認知症という調査報告もあります。
決定的な治療法が見つからない中での患者数の増加は、それ自体が大きな問題でもありますが、それと同時に、認知症患者の数が増えるということはその介護者も増えるということになります。
認知症患者が急激に増えたのはなぜなのか、また、認知症患者が増加する中での家族介護における問題点についてお聞きしました。
10年間で1.5倍に・・・急増する認知症患者
―― 厚生労働省の発表によると、認知症を患う人の数が2025年には700万人を超え、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症に罹患するとのことですが、先生はこの状況についてどのように考えていますか。
憂うべき事態であることは間違いないと思います。認知症の一番の問題点というのは、患者さんにとって必要な治療が大変なことはもちろんですが、それ以前に、働ける人が働けなくなってしまいます。例えば癌の患者さんは、比較的進行したとしても治療を受けながら働くことができますが、認知症の場合は軽症といわれている段階であっても働けなくなることが多いのです。団塊の世代の方々が高齢者になってきたわけですが、高齢者でも仕事を続けられるという事を目標としているのに労働人口が極端に減少していく可能性があります。
―― 2025年の700万人という数は、2015年時点からの約10年でみると1、5倍とのことですが、このように急増した原因はなんだと思われますか。
これは私も実はよくわからないのです。ただ、あくまでも想像というか、私なりの考えですが、一つは寿命が長くなっているということ、すなわち高齢者自体が増えているということがあります。もう一つは、認知症の患者数の掘り起しがどんどんすすんでいることです。
というのも、データでは一年間で100万単位の増加がみられますが、現実的にはいきなり一年で100万人もの方が認知症になってしまうことは考えられません。もしかしたら、10年前の世間の認知症に対する見方というのは、トイレに失敗するようになったら認知症であるという認識の人が多かったのかな、と。現在は、軽度認知障害(MCI)からほんのちょっとだけ進行した軽度な状態でも認知症とちゃんと認識されるようになりました。そういう、統計の取り方の違いや診断能力の向上というのが、一つはあるのかなと思います。
いつまで続くかわからない中での家族の不安と負担
―― 認知症患者が増えるということは、その介護者も増えるということになるわけですが、家族が介護に手がとられてしまうことの問題は何でしょうか?
若い世代のご家族が介護によってフルタイムで働けなくなります。ご高齢の配偶者の方であればまだいいのですが、お子さんあるいはお孫さんという世代の労働人口が奪われるということは問題です。また、一方で若い人口が介護の仕事以外についていたら、もっと社会全体の生産性が上がるはずなのに、介護の仕事につかなければ、ある意味、社会が立ち行かなくなるわけです。こちらも問題です。
要するに内向きの需要に、若い労働人口を回さざるをえないといった社会構造があります。そして、更に問題なのが、介護に関わるご家族がその状況に耐えきれなくなって、精神的な疾患を抱え込みかねません。すると、そういった方々にも医療費がかかることになります。
認知症の方やご家族にとっては、その状況がいつまで続くかわかないことがとてもご心配なようです。介護者の方から「この介護状態があと10年続くのか、20年続くのか、はっきり教えてくれませんか」と言われることもあります。日本のように、一般的に医療が非常に進んだ国においては、長生きはできますが、幸せな状態で長生きができるかどうかは、また別の問題です。認知症の方では、非常につらいけれども、命としては長生きできる状況になりかねないという問題があります。良く「生かされている」とか「健康寿命」という単語を聞きますよね。私の外来に来ておられる方々には「幸せに」長生きをして頂きたいと思っています。
―― 見通しのつかない状況が長く続くことによって何が問題になりますか?
大変さがいつまで続くかわからないということです。精神的な負担だけではなく、金銭的な負担についても、家族の方々はものすごく悩んでおられます。年金や認知症の方御本人が蓄えられたもので全てカバーできるのであればいいのですが、そうではなくなってしまった場合、どうすればいいのかというのは、大きな問題です。
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