【広川先生のMCIコラム(第4回)】早く気づけば認知症にならない!?~実際にあった早期発見の事例③~

2016年7月12日
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この記事の執筆
広川慶裕先生
ひろかわクリニック院長
広川慶裕先生

はじめに

これまでのコラムでは、認知症が早期に発見された事例を2つご紹介しました。

1つ目は、MCIだと診断されたにもかかわらず、現時点では認知症ではないので何もできないと医師に言われた事例

2つ目は、MCIだと診断されたことでうつ状態に陥り、急激な認知機能障害を起こした事例。どちらの事例も本人や家族が「いつもと何か違う」という不如意感をきっかけに早めに医療機関を受診し、MCIであると診断まではされましたが、その後の対応が充分でなかったことで不安を抱かれ当院に来院された方の対応事例でした。

今回は、数年前から本人や家族も何かおかしいと気付きながらも、「まさか認知症なんてことはないはずだ」と状況を受け入れることができないまま数年間を過ごした後に来院された方のお話しをしたいと思います。

初診時

ある日、Aさん(54歳・女性)はご主人の後ろに隠れるようにして診察室に入って来ました。ご主人は顔を強張らせ、ただならぬ雰囲気をもったお二人が私の前の椅子に座りました。

いつもの通り、「どうされましたか?」と尋ねるとご主人は「数年前から、物忘れや置き忘れが目立つようになり、最近では字も書けなくなってきている。特に漢字が分からなくなっているようで自分の名前を書くのもままならない。まだ50代で認知症という歳ではないのでおかしいなと思いながらそのまま数年過ごしました。徐々にひどくなっているので『もしかして?』と思い、連れてきました。」と言います。

Aさん本人に「物忘れの自覚はありますか?」と尋ねると、ご主人の顔を見ながら「あると思います」とおどおどした小さい声で答えてくれました。その後もAさんにいくつか質問をしたのですが、何を聞かれているか分からない、答えが間違っているのではないかという不安な様子がひしひしと伝わってきました。

この日行ったMMSEは15点。確定診断の為、すぐに画像検査(MRIと脳血流シンチグラフィ)を受けてもらいました。画像検査の結果は、やはり年齢不相応な海馬萎縮があり、アルツハイマー型認知症に特徴的な頭頂葉と後部帯状回、?前部の著しい血流低下が認められました。私はMCIと診断するには遅すぎたか…と正直悔しい思いを持ちました。つまり、若年性アルツハイマー型認知症と診断せざるを得なかったのです。

私は診断結果について、Aさんご夫婦が不安を抱かないよう、しかし、現状がきちんと理解できるよう丁寧に伝えしました。伝え方を間違えると今後の治療に影響が出てしまうかもしれません。診断結果をお伝えするときは慎重に行うことを心掛けています。

結果を聞いたAさんとご主人は、不安を抱くというよりもむしろ、すっきりしたという様子でした。自分(妻)が今どういう状況なのか、この物忘れや理解力の低下の原因が分かったことでも、今までのもやもやした気持ちがすっきりしたという様子で、「これからどうしたら良いですか?」という前向きな質問をしてくれました。

さあ、ここからの取り組み次第で、リバーター(認知機能が改善する人)になるか、進行し続けてしまうのかが決まります。Aさんとご主人と私たちクリニックの認知症予防策が始まりました。

認知症予防策の開始

Aさんには、認知症予防プログラムとして2つのプログラムを設定しました。①薬物療法と、②認トレ教室の参加の2つです。薬物療法としては抗認知症薬(メマリー、レミニール)の投与を、認トレ教室には1ヶ月2回以上の参加をするよう約束しました。診療(面談)は、最初の1ヶ月は2週間に1度、以降は1ヶ月に1度のペースで行いました。

Aさんには仲の良いお姉さんがいます。認トレ教室には毎回、お姉さんが一緒に参加されました。当初は、お姉さんのサポートがないと認トレインストラクターが指示していることの理解が難しい様子でした。ご主人は、Aさんが認トレ教室に参加している2時間、いつも待合室でじっと待っておられます。

Aさんはご主人やお姉さんの温かいサポートのおかげで、笑顔を絶やすことなく、認知症予防プログラムをこなすことができています。認知症予防では「家族療法」も大切な予防策の一つです。Aさんご家族は自然とその家族療法が出来ており、Aさんは大変良い環境で認知症予防を行えていました。

認知症予防開始から1年

現在、Aさんの認知症予防開始からほぼ1年が経過しました。Aさんは初診時と比べ、明るくなり、おどおどと不安げな雰囲気は全くなくなりました。物忘れはやはり今でも時々あると言いますが、日常生活には全く問題なく、ご主人のお仕事の手伝いもされるほど、普通の生活を送っています。認トレ教室も今では問題なく指示にしたがってプログラムを行えるようになっています。

そこで、Aさんご本人からの「良くなっていると思う」という言葉を裏付けるため、また、1年間の頑張りの成果を確認するため、再度、画像検査を行いました。すると、1年前の血流状態よりも明らかに改善していたのです。

若年性認知症は進行が速く、年々できることが減ってくるのが一般的な経過なのですが、Aさんの場合は1年前と比べて出来ることが増えている、もしくは、維持できている状態です。Aさんご本人とご家族のサポートで現在のところ進行は抑えられていると言い得る状態です。

おわりに

認知症は早期発見が大切であることはメディアなどの影響もあり、広く知られるようになったと思います。ただ、ご自身やご家族の物忘れや置き忘れ、不如意感をいざ目の当たりにすると、医療機関を受診し、状態を確認するのが怖いと感じることは当然のことです。気にはしながらも「歳だからこんなものだろう」と見過ごしてしまいがちです。

しかし、今回のAさんのようにMCIから少し認知症へ進んでしまっている状態の方でも対策の取り方や頑張りで、進行を抑制することは可能なのです。また、認知機能の改善は十分に期待できると思います。

「あれ?前はこんなことなかったのにな…。」と不如意感を感じたら、恐れず、見過ごさずに、診断を受けて下さい。認知症を予防する方法は必ずあるのですから。

広川先生のクリニック情報

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http://www.j-mci.com/

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