第9回 アルツハイマー型認知症の早期発見と予防

2016年1月1日

今回は東京大学医学部附属病院 神経内科 特別外来 メモリークリニックでアルツハイマー病(AD)やレビー小体病、前頭側頭葉型萎縮症等の疾患の診断、治療に当たっていらっしゃる岩田淳先生にインタビューさせていただきました。

岩田先生は認知症の診断・治療だけではなく、臨床研究も行っておりますので、認知症の研究も含めた幅広い内容をお伺いさせていただきました。全9回でお送りいたします。

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話し手
岩田淳先生
東京大学大学院 特任准教授
岩田淳先生

第9回 アルツハイマー型認知症の早期発見と予防

認知症の中でももっとも発症頻度が高いのがアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症の進行は比較的緩やかですが、しかし確実に進行していきます。今回は、その「アルツハイマー型認知症」と「アルツハイマー病」との違いや早期発見に関してお聞きしました。

重要となるのはアルツハイマー型認知症の早期発見

―― 早期発見ができれば、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせることができると一部でいわれていますが、超早期段階での診断は可能なのでしょうか。

ここも言葉の問題がありますね。「アルツハイマー病」の超早期診断なのか、「アルツハイマー型認知症」の超早期診断なのかということです。要するに認知症になった方の超早期診断なのか、それとも認知症になるかもしれない病気を有した「アルツハイマー病」の人を超早期に診断するのかというところで、誤解を生むのです。

―― なかなかそこの切り分けは難しいですね。

「アルツハイマー型認知症」という病気は、私の立場では「認知症」の状態に至った「アルツハイマー病」の人を指します。つまり日常生活障害が出現してきた「アルツハイマー病」の方であるのですね。一方で「アルツハイマー病」の方というのは、最新の考え方では「アルツハイマー病」の病理的状態を有した認知機能が正常の人も含むということになります。

MCIは「アルツハイマー病」の病理を有した人で認知機能が軽度に障害されている状態で、「アルツハイマー型認知症」というのは「アルツハイマー病」の病理を有した認知症の人ということが私自身の理解です。

認知症という言葉にはきちんとした定義があって、簡単に言えば日常生活で介護が必要な状態というものなのですが、一般の人はMCIだってアルツハイマー型認知症だと思っているし、下手するとその前のもっと軽い段階だって、認知症だと思っているのかもしれません。そこが問題で、よく患者さんの家族が「認知、はいっていますから」とおっしゃいます。ちょっと物忘れがあっただけで、認知症なのだという理解なのです。それは、一般的な感覚では当然理解できます。

ただし、医学的には大きな問題でして、「必ずしもそういうことではないので」というようなことをくどくどと話をしなくてはならなくなることがあります。大体、外来の軽症者に対する話で、こういう問題がでてきます。

以前問題となった受診者で、「軽度認知障害」と診断して配偶者も含めて診断名をお伝えした方がおられました。その配偶者の方がご家族に「軽度の認知症と診断された」とお話になって大問題となった症例があります。こちらは半年後の受診をお願いしたのですが、認知症なのに半年間も治療をしないのかという事なのですね。言葉を正確に使えば使うほど一般社会とかけ離れて行ってしまうという懸念が常にあるわけです。

結局はアルツハイマー病の超早期発見というのはアミロイドPETか脳脊髄液のアミロイドβの異常を見つけるしかないと思います。こういう数字で出るものであれば説明は簡単なわけですから。しかしながら、現状ではさっきも申し上げたように、異常があったとしても介入ができない訳ですから、それに意味があるかといわれると、研究的な意味以上のものはないのかもしれません。やはり、何の症状もないのに癌検診を受けたら進行癌がみつかって手の打ちようがないと言われてしまうような問題が出てくるのですね。

一方で、アルツハイマー型認知症になった段階での超早期診断というのはとても大事で、認知症になった人には早く診断し、介入した方がその後の悪化を抑えられるというデータが沢山ありますから、そういう意味では記憶障害のエピソードがわずかに出た人が外来を受診して頂いて、その人が認知症であるかないかということを診断するのは、とても大事なことです。

―― そうすると、このアルツハイマー型認知症における超早期診断というのは、既に日常生活に困難をきたしていて、そういう状態になった人に対してするということでよろしいのでしょうか。

もし、本当に超早期診断をして、その後の経過に大きな変化をもたらすのであれば、アルツハイマー型認知症への将来の移行が疑われるMCIをできるだけ早いうちに検出することです。それは可能だし、意味があることだと思います。

そのために一番お金がかからない方法は、MCIと診断した後に「半年くらい後に来てくださいね」ということです。それはなぜかというと、半年後に認知症にコンバート(進行)する率というのは、少なくとも日本の研究では、どんなに多く見積もっても十パーセントしかないからです。だいたい、MCIから認知症へのコンバート(進行)率は年間で12%くらいなので。簡単にいえば、10人患者さんを拝見して、一年後ではお1人コンバート(進行)しているかどうかということですよね。

半年たってコンバート(進行)していたら、「コンバート(進行)していますね、認知症の治療を開始しましょう」という話になるわけですし、コンバート(進行)していなかったら、「また半年後にいらして下さい」という形でフォローしていくことができます。私はMCIと診断したら、その段階で半年に1回、薬は出さずにフォローするというのが基本です。

ただし、MCIと診断する時に、日本の場合はSPECT(スペクト)という検査ができますけれども、SPECTをやると、アルツハイマー型パターンの人が時々います。要するにアルツハイマー型認知症と全く画像のパターンが同じという人がいた場合は、認知症になる率が高いかもしれないということを考慮して、2~3か月ごとに拝見します。その時に何をみるかというと、前回との差をみるのですね。

前回と比べて話の整合性が合わなくなっていないかどうかとか、MMSEの様な認知機能の検査で点数がとれなくなっているかどうかとか、そういったことをみて、点数が下がっている人に対しては、生活障害がものすごく軽度であっても認知症の治療を開始することは結構あります。大体、経験上、そういう人というのは、さらに一年ぐらいみていると、悪くなっていく確率が高いですね。逆をいえば、アルツハイマーのSPECTパターンを示さない人はそうそう悪くはならないというのが経験です。

―― そうするとSPECTというのは正しく検知できるのですか?

そう思います。もちろん、外れる例もたくさんありますけれども、確実だと思った例で悪くならなかった人はごく少数だと思います。ただし、特に80歳以上のご高齢の方ですと検査結果が典型的なパターンにならない方も多いので注意をして見るようにしています。

アルツハイマー型認知症の予防について

―― アルツハイマー型認知症を予防するために大切なことを教えてください。

難しい質問です。というのも、アルツハイマー型認知症には発症前からの前向きコホート研究というのがほとんどありませんから。どういうことかというと、後ろ向きは、つまり病気の人の過去を見る長期コホートをみると、こうしていたら良かったよというのはたくさんあるわけです。

その中で例えば40~50代の生活で、運動していた人とか、メタボリックシンドロームではなかった人とか、煙草を吸わなかった人とか、そういう人が年をとってみたら認知症にはなりにくかったというデータがあります。確かに色々な面からそういうことをすること自体は悪くないだろうとは思います。しかし、そういう生活をしていたら本当に認知症にならないというデータはないのです。前向きコホート研究といって、無作為に選んだ方々を追跡して結果をみるという手法です。

疑似相関という話があります。例えば、アイスクリームが売れると溺死者が増えるということが巷でいわれることがありますが、これは暑いから水遊びをする人が増えて、アイスクリームが売れる、暑いから溺死者が増えるのであって、アイスクリームの販売を止めれば溺死者が減るということは有り得ないですよね。

それと同じで、今ある後ろ向き研究というのは、偶然の一致を否定はできません。そういった問題点があるので、難しいと言えば難しいのですが、幸いなことに、メタボリックシンドロームではないとか、運動をするとか、煙草を吸わないということが、健康に悪いことだとは思わないので、そういうことをやること自体は推奨はしてもいいと思います。頭を使うということについても、当然ですがいいことですよね。

1986年に始まった『ナン・スタディ』という研究をご存じでしょうか。アメリカの修道女678名を対象とし研究です。修道女たちは生活がみな同じであり、同じものを食べて、同じ生活をして、同じように年老いていきます。亡くなった時に脳を解剖させていただいて、アルツハイマー病理はどのくらいあったのか、認知機能はどうだったのかということをみていくと、亡くなったときのアルツハイマー病の病理学的異常の有無とその方たちの認知機能はほとんど関係ないという驚くべき結果が出ています。

アルツハイマー病の病理学的所見が非常に強くても、大して認知機能に異常がなかったという人はたくさんいたし、アルツハイマー病の病理学的所見がほとんどなくても、結構認知機能が低下していた人がいるのです。では、亡くなる前の認知機能と関係していたのは何かというと、その人たちが若い頃に書いた手紙の内容だというのです。

20代の時に書いた文書、日記、手紙に複雑な文章を書いていた人は、認知機能に低下はなかったそうです。逆に20代の若い時に日記に「今日はご飯を食べて、寝ました」のような簡単な文章を書いていた人は低下していたそうです。ですから、元々有していた能力というのは大事なのだという結論でした。若い頃から頭を使うということは、いかに大切かということですね。

―― その結果からわかったこととは何なのでしょうか?

常に活動的な生活をして、脳を使って、引っ込み思案にならないとか、外に出て運動をするとか、活動的な生活を送ることが、おそらく認知症の予防に寄与する可能性が非常に大きいというところまではいえます。

ただ、それが本当にそうなのかというのは、前向き研究をして、そういうことをやっていた人とやっていなかった人で差が出たというデータが出れば別ですが、実際のところはまだわかりません。20代から亡くなるまでという事を考えたら60年の研究になってしまいますね。

―― 確かに、日本にはあまり前向きコホート研究はないですよね。

結局、みんな、後ろ向きコホートになってしまうので、結果をみて多分そうなのだろうな、という程度で終わってしまっています。比較的コホート研究が盛んなアメリカでも、ハッキリとした結果はいえていないというところです。一番の皮肉は、アメリカでは魚油のオメガ3脂肪酸を多く摂取するとアルツハイマー病にならないという研究成果が報告されたことでしょうか。日本人ほど魚を摂取している民族はないと思いますが、アルツハイマー病の患者さんは増えていますね。

こうなると、何が本当かはわからない、という話になります。ただ、私がいつも患者さんもしくはご家族にお話ししているのは、自分が少なくとも後悔しない生活を送っているのが一番なのではないかと思いますよということです。

食生活や嗜好の範囲でみなさんが身体によいと思っているもの、例えば太りすぎないとか喫煙しないといったことは、認知症の予防には大体いいとされています。科学的な裏付けはある程度はありますし。ただ、この食品を摂取したらアルツハイマーにはならないとか、これをやったら……ということが、ものすごく限られた意味であるわけではないので、そういうものに対して、過剰にならない方がいいですよということはお話ししています。

例えば、玉葱を食べたら健康にいいというからと、玉葱ばかり食べたら、本当には健康にいいわけがありません。バランス感覚が大切ですよね。

話題の「脳トレ」の効果は

―― 最近、日経新聞などで、公文式が新しい仕組みを始めるということで、学習療法ですとか、脳トレというのをやってらっしゃって、『認知症ねっと』でも注目されている話題なのですが、効果はあるのでしょうか?

家族の方が「やらせたいのだけれど、どう思われますか?」と聞かれることがよくあります。私は「本人が嫌がらなければ、是非やって頂いたらいかがですか」とお答えしています。

問題は二つあって、一つは患者さんが嫌がるケースです。嫌がるのに無理矢理にやらせているケースがあって、これはかえって神経精神症状を悪くしますので、「嫌がるようでしたら、無理して勧めない方がいいですよ」といっています。「本人が積極的にやりたいとのことでしたら、是非やらせてごらんなさい」といっています。

ただ、もう一つの問題は、脳トレはできるようになっても、脳トレができることによって、洋服を着ることができるようになるかどうかは別なので、「脳トレを始めた場合、日常生活に脳トレ以外でメリットがあるかどうかを必ずみてごらん」とお話ししています。当然ですが、患者さんにとっては脳トレができるようになることが目標ではないのですから。

結局目的は、より幸せに生きることなのです。そして、始めたことによって、何か幸せなことがあったとしたら、必ず教えて下さいとお話ししています。患者さん側からお話しがあることもあるので、全く意味がないということではないと思っていますし、「もし、やり甲斐があるのでしたら、是非やって」と。


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