進む認知症対策。MCTの最新研究を紹介

2019年3月26日

認知症予防や症状の軽減について様々な研究が進む中、注目されているMCT中鎖脂肪酸)。その働きについて少しずつ明らかになってきたMCTは、現在も多くの研究・調査が進められています。今回はいくつかの具体的な症例を紹介します。

この記事の目次
  1. 完治が難しい認知症
  2. 注目のMCT、最新の研究を紹介
  3. アルツハイマー型認知症の記憶力低下を抑制
  4. 重度患者の周辺症状が改善
  5. 予防にも期待

完治が難しい認知症

認知症は進行性の疾患で、一度発症してしまうと現在では完治する治療法が見つかっていません。高齢化が進む中、認知症患者も増加の一途を辿っており、治療薬の研究はもちろん、認知症患者を社会で支える仕組みの確立も進められています。予防や症状軽減についても多くの研究が進められており、中でもMCTは、家庭でも手軽に摂取できる素材として期待が高まっています。

注目のMCT、最新の研究を紹介

MCTはブドウ糖に替わる脳のエネルギー源として注目されています。アルツハイマー型認知症の脳では、脳のエネルギー源であるブドウ糖がうまく取り込めず、エネルギー不足になることが報告されています。エネルギー不足の脳は十分に働くことができず、記憶力の低下などが進行してしまうのです。そのブドウ糖の代替エネルギーとして働くのがケトン体です。MCTを摂取すると、ケトン体が効率よく作られることから、認知症の予防や症状の改善についての可能性が期待されています。

アルツハイマー型認知症の記憶力低下を抑制

アメリカの研究では、MCTの摂取が記憶力低下を抑制するという成果が報告されています。

124人のMCIおよびアルツハイマー型認知症の患者を対象に、MCTを毎日20g摂取したグループと、LCT(長鎖脂肪酸。キャノーラ油やオリーブオイルなど一般的な油)を毎日20g摂取したグループを90日間観察した研究です。

MCTを摂取したグループは、血中のケトン体が増加し、摂取前よりADAS-cog(ADAS-cogはアルツハイマー型認知症の認知機能の程度を評価するための検査です)のスコアが改善され、記憶力の低下が抑制されています。記憶力や言葉の理解などの検査項目があり、数値が高いほど認知症の症状が重いということになります。下記の図を見ると、MCT摂取グループの数値は時間の経過とともに小さくなり、症状が改善されていることがわかります。

実際にどのくらいの摂取量が適切なのかなど、まだ研究の途上ではありますが、MCTのアルツハイマー型認知症に対する影響を示す、ひとつの例と言えるでしょう。

出典:MCTサロン
Nutr Metab(Lond),2009;6:31-56より改変

重度患者の周辺症状が改善

日本では、重度の認知症患者がMCTを摂取することで、変化が現れた研究結果が報告されています。老健施設に入居する90代の重度認知症の女性が、12週間毎日6gのMCTを含有した食品(中鎖脂肪酸高含有プリン)を摂取したところ、いくつもの変化が現れました。

発言もほとんどなく、会話が成立しない状態だったのが、時間の経過と共にコミュニケーションが取れるようになったり、無表情だったのが笑顔を見せるようになる、周囲への関心を示すようになるなど、情緒的な変化が見られました。また、氏名を漢字で書いたお手本を渡して書き取りをしてもらったところ、はじめは字が全く書けない状態から、最終的にはお手本を氏名と認識し、字を書けるようになったのです。

こちらは1名のみの症例ですが、重度の患者に対する影響も期待できる報告です。

氏名書き取りの変化

出典:日清オイリオグループ 第16回アジア静脈経腸栄養学会学術大会(2015年7月)発表より改変

予防にも期待

その他にも様々な研究・調査が行われています。健常高齢者の認知機能をMCT摂取と一般的な油(LCT/長鎖脂肪酸)摂取でグループ分けして観察し、一時的に認知機能が改善された研究結果や、70代のMCI(軽度認知障害)男性が107日間MCTを20g摂取したところ、MMSEやMoCAといった認知機能テストのスコアが正常に戻った結果など、MCTの摂取が認知症予防に期待できる成果が報告されています

※出典:Brian A F, Front Aging Neurosci 6 1-5 (2014)

最近ではMCT100%のオイルがスーパーなどで簡単に手に入るようになりました。無味無臭で料理の味を損ねないので、日々の生活に取り入れやすい素材です。認知症の予防や症状軽減への影響について、今後さらなる研究が進んでいくでしょう。

▼関連リンク
脳のエネルギー不足を助ける「中鎖脂肪酸」の働き


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