どの食用油を摂ればいい?~脳の健康におすすめのオイルのおはなし

2019年2月21日

現在、家庭で利用する食用油の選択肢が広がっています。スーパーなどに並ぶオイルは多くの種類があり、どれを使うべきか悩んでしまう方もいるかもしれません。また、健康に良いオイルについてもメディアで様々なものが取り上げられています。

日清オイリオグループが2017年に行った調査で、健康に関する設問から対象者を6つに分類し、その中の比較的健康意識が高い「健康対策完璧層」「食で健康層」「運動で健康層」に、健康を意識して利用している食用油の種類を尋ねたところ、どの層にもオリーブオイルが人気となりました。(「‘17健康と食に関する意識調査」)オリーブオイルに含まれるオレイン酸は、善玉コレステロールの値を下げずに、悪玉コレステロールの濃度を下げる働きがあり、生活習慣病予防に効果的なことが知られています。また、抗酸化作用に優れたビタミンやポリフェノールも含まれています。

また、幅広い年齢層を対象にしたこの調査では、年代が高くなるほど食事への健康意識が高くなっていました。ここに挙がっているオイルだけでも多くの種類があり、それぞれ様々な効果が知られています。では、認知症予防には、どんなオイルが良いのでしょうか。脳の健康に役立つ可能性のある油についてご紹介致します。


健康を意識して使っている油は何ですか?
(健康を意識して食用油を利用している人のみ・複数回答)

出典:日清オイリオグループ㈱「生活科学研究」レポートNO.35

この記事の目次
  1. 脳の健康にはどんなオイルを摂ればいい?
  2. 認知症×オイル療法の事例
  3. 血流を改善し脳を活性化! α-リノレン酸
  4. 脳のエネルギー不足を補う中鎖脂肪酸

脳の健康にはどんなオイルを摂ればいい?

脳の健康を保つには、高血圧、肥満、高脂血症や糖尿病などの生活習慣病を予防すること、運動、脳を使うトレーニングなど、様々な対策が必要です。「このオイルを摂るだけで脳の健康はバッチリ」というわけにはいきませんが、脳の働きを良くし、エネルギーになるオイルを積極的に摂取することは、認知症予防につながります。

認知症・軽度認知障害の早期発見・早期治療に精力的に取り組まれている、ひろかわクリニック院長の広川慶裕先生に、オイル療法の事例と代表的な2つの食用油を紹介していただきました。

認知症×オイル療法の事例

最近認知症は「第3の糖尿病である」と言われています。認知症の脳はその経過の中でインスリン抵抗性を示すようになり、本来のエネルギー源であるブドウ糖をうまく利用できなくなります。この状態では脳はエネルギー不足になり、結果として脳は代謝がうまく働かず機能低下を起こします。さらには神経細胞の恒常性を保てなくなり脳細胞は死に至ります。これがエネルギー論から見た認知症の本質です。

ところで脳は、ブドウ糖以外にケトン体からもエネルギー供給が可能です。つまりケトン体はブドウ糖の代替エネルギー源になれるということです。認知症に伴う脳のエネルギー不足を解消し、神経細胞の恒常性を保つための素材として有用と考えられているのが、MCTオイルとオメガ3系オイルです。

当院で実際にあった事例をご紹介しましょう。
5 年前、もの忘れを主訴として妻に連れられて来院したOさん。認知症スクリーニング検査と画像検査の結果、残念ながら既にアルツハイマー型認知症を発症していました。またOさんは30年来、糖尿病の治療歴もあり、通常の治療では認知症の進行を止めるのが精一杯の状態でした。そこで通常の認知症治療と共に、軽度の糖質制限とオイル療法(MCTオイルとオメガ3系オイル)を実施しました。Oさんは現在、糖尿病は寛解状態、認知症については多少のもの忘れはあるもののほぼ正常化しています。これは何も特殊なケースではありません。

認知症は不治の病と考えられていますが、認知症になったからといって諦める必要はありません。 オイル療法を含め総合的な治療により相当改善することが期待できると考えるに至っています。

血流を改善し脳を活性化! α-リノレン酸

健康によい油の話題で「オメガ3系脂肪酸」の名前を目にしたことがある方も多いでしょう。オメガ3系脂肪酸の中でも代表的なα-リノレン酸は、体内で作ることができず、食品から摂る必要がある必須脂肪酸のひとつ。体内に入ると、その一部は青魚に多く含まれるEPA・DHAに変換されます。血流を改善するほか、特にDHAは脳細胞膜の材料にもなるため、神経組織の維持に欠かせない成分で、神経細胞の情報伝達を活性化する働きがあると言われています。また、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβの蓄積を抑制するとも言われています。脳の神経細胞が死滅していくことで、脳がうまく働かなくなることは認知症の要因のひとつですので、脳の活性化は予防の大切なポイントになります。

α-リノレン酸を多く含む食用油は、上記の調査結果にも挙がっているえごま油やアマニ油です。酸化しやすいため、加熱せずに生のままできあがったお料理にかけるなどして摂取しましょう。厚生労働省は、1日に男性2.4g、女性2gのオメガ3脂肪酸の摂取を推奨しています。

脳のエネルギー不足を補う中鎖脂肪酸

脳が活動するためのエネルギーとなるのはブドウ糖です。ところがアルツハイマー型認知症の脳は、ブドウ糖を効果的に取り込めず、エネルギーとしてうまく利用できません。脳はエネルギー不足になり十分に働くことができず、認知機能の低下につながります。

ブドウ糖に替わる脳のエネルギー源として注目されているのがケトン体です。そのケトン体を効率よく作り出す材料となるのが中鎖脂肪酸。エネルギー源として代謝されるまで時間を要するブドウ糖と違い、摂取すると直接肝臓に運ばれ、素早くケトン体に変換されエネルギーとして利用されます。もちろん脳だけでなく、身体のエネルギー源としても有効です。

中鎖脂肪酸はココナッツやパームなどヤシ科の植物の種子、人間の母乳にも含まれる脂肪酸。脳に十分なエネルギーを供給し、活発な活動をサポートします。上記の調査結果にも入っているココナッツオイルには約60%の中鎖脂肪酸が含まれています。ココナッツオイルは特有の香りがあるので、日々の生活に取り入れるのにお勧めなのは100%中鎖脂肪酸で香りもほとんどないMCTオイルです。加熱調理するとバターのように煙が出やすいので、食べ物や飲み物にかけるのがよいでしょう。ただし、摂りすぎると下痢などを起こす場合があるので、1日大さじ1杯(14g)を目安に、小さじ1杯(4.6g)程度から徐々に増やすようにしてください。

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