前頭側頭型認知症(FTD)とは

前頭側頭型認知症(FTD)とは、前頭葉や側頭葉が委縮して起こる認知症です。特徴として、行動の異常や人格の変化、言語障害がみられます。ここでは前頭側頭型認知症(FTD)の症状や原因、対応方法にについて詳しく説明します。


この記事の目次
  1. 前頭側頭型認知症(FTD)とは
  2. 前頭側頭型認知症はどんな病気?
  3. 発症時期や患者数・性差は?
  4. 前頭側頭型認知症の原因は?
  5. 前頭側頭型認知症の経過と症状
  6. 初期
  7. 中期
  8. 後期
  9. 前頭側頭型認知症を疑ったときには
  10. 本人は病識がない場合が多い
  11. 地域包括センターへ相談を
  12. 前頭側頭型認知症の治療
  13. ケアのポイント
  14. 病気であることを理解する
  15. 無理に止めたりせず、時には見守る
  16. 落ち着いて過ごせる環境を整える
  17. 症状の特徴を上手に利用する
  18. 食事行動の変化に対応する
  19. 患者自身の力を信じて活用する

前頭側頭型認知症(FTD)とは

前頭側頭型認知症はどんな病気?

前頭側頭型認知症(FTD)は、脳の前頭葉と側頭葉が萎縮し、血流が低下することによって、様々な症状が引き起こされる病気です。他の認知症と違い、指定難病に認定されています。

前頭葉と側頭葉は脳の4割を占める重要な器官。前頭葉は思考や感情の表現、判断をコントロールするため、人格や理性的な行動、社会性に大きく関ります。一方側頭葉は、言葉の理解、聴覚、味覚のほか、記憶や感情をつかさどります。どちらも大変重要な働きを担っているので、機能低下による影響は甚大です。

前頭側頭型認知症の初期には物忘れや失語はあまりみられず、人格の変化や非常識な行動などが目立ちます。そのため、精神疾患と診断されてしまう場合があるので、鑑別診断が重要となってきます。

10年前後で寝たきり状態になると言われており、筋萎縮や筋力低下がある場合は、その進行がさらに早いとされています。

発症時期や患者数・性差は?

40~60代に発症することが多く、男女差はありません。患者数は約12,000人となっています。

※出典:厚生労働省 指定難病127 前頭側頭型変性症

前頭側頭型認知症の原因は?

最新の研究により、タウたんぱくやTDP-43、FUSなどの様々なたんぱく質が変化し、蓄積することが発症に関連すると言われています。しかし、なぜこのような変化が起こるのかはまだ突き止められていないのが現状です。


前頭側頭型認知症の経過と症状

初期から行動の異常や人格の変化が見られ、経過によって出現する症状が変化します。

初期

自発性の低下

自分から何かに取り組む姿勢がみられなくなります。家事をしなくなる、質問しても真剣に答えない(考え不精)、適当に答える、ぼんやりとして何もしない、引きこもるといった様子がみられます。

言語障害

知っているはずの言葉も意味が分からなくなり、物の名前が出にくくなります。また、文字を読み間違う場合もあります。

感情の麻痺

感情が鈍くなり、他人への興味がなくなります。また、病気で寝ている家族に普段と同じように食事を要求するなど、共感・感情移入ができないなどが起こります。

食事や嗜好の変化

食習慣に変化が見られます。食事のメニューにこだわり、同じものをいくつも食べたり、盗み食いをしたりします。甘いものを過剰に摂るようになることも多くなります。

抑制が効かない

刺激に対する反応や欲求が抑えられず、本能のまま行動するようになります。相手に対して遠慮がなくなり、礼儀に欠ける行動をとったり、暴力をふるう、社会性がなくなる、悪ふざけなどがみられます。万引きをしたり、痴漢行為など反社会的な行動も出てきますが、道徳観が低下するため、本人には罪悪感がありません。

中期

同じ行動を繰り返す

同じ行動を繰り返す「常同行動」が現われます。例えば、毎日同じ時間に同じ道順で散歩する、同じメニューを作る、なくなるまで食べ続ける、決まった時間に決まった行動を取らないと気がすまない(時刻表的な生活)、手を叩くなどがみられます。

立ち去り行動

集中力がなくなり、周りの状況を考えずに突然立ち去ることがあります。例えば、話の最中にその場を離れてしまったり、診察中に突然診察室を出て行ったりします。

影響を受けやすく反復する

周囲で起こっていることに影響されやすくなります。相手の言葉をおうむ返しに繰り返す、動作を真似る、同じ言葉を言い続ける等が挙げられます。

後期

精神機能の荒廃

後期になると、精神機能は荒廃します。中期には頻繁に出ていた常道行動も、意欲の低下が激しくなると部屋の中をうろつくなど単純なものとなり、やがて動くこともなくなります。食べる意欲もなくなってくるでしょう。

寝たきり

発症後平均6~8年で寝たきりの状態になると言われています。筋力の低下や筋萎縮により自分で身体を動かすことができなかったり、動かす意欲が湧かなくなるためです。

前頭側頭型認知症を疑ったときには

本人は病識がない場合が多い

前頭側頭型認知症の患者は、自分が病気であるという自覚がないのも特徴です。様子の変化に家族が気付いても、本人に受診を促すことが難しい場合も多いでしょう。また、物忘れが目立たないため認知症を疑わないこともあります。今井先生が挙げる以下の変化に気付いたときには、医療機関に相談してください。本人の受診が難しい場合には、まずは家族が相談に行くこともできます。

1:これまでの本人からは考えられない反社会的な行動をするようになる
2:会社のこと、家族のこと、周囲のことに関心を向けなくなる
3:些細なことに執着して、それを思い続け、同じことをやり続ける
4:時間に執着する、決められた時間での食事、入浴、その他の行儀に固守する
5:会話での表現力がなくなり、一本調子、同じ言葉の繰り返しが多くなる
6:喜怒哀楽を表わさなくなる

ユッキー先生の認知症コラム 第26回 前頭側頭型認知症とは?より
認知症?と思ったら、何科にいけばよい?

地域包括センターへ相談を

診断された場合は、介護環境を整えましょう。40~60歳代と比較的若いうちから発病するため、一家の働き手の変更や経済的負担が大きくなる場合があります。また、反社会的行動がみられた場合などには、家族の社会的・精神的負担も大きいです。その結果、家に引きこもり、社会から取り残されてしまう場合もあります。

病状や生活習慣に合わせた最適なサービスを活用し、負担を軽減するためにも地域包括支援センターに相談しましょう。例えば、デイケアやデイサービスを利用する、ショートステイを利用するといった方法があります。家族が自分の時間を自由に使って、息抜きをすることも大切です。様々なサービスを活用しながら、本人にも家族にも最善の介護を行うことが大切です。

前頭側頭型認知症の治療

前頭側頭型認知症の場合、問診やCT、MRI、シンチグラフィーなどの検査によって診断をします。根本的な治療方法はまだありませんが、出現している症状に対して薬物療法や作業療法で対処療法を行います。治療を行う医師と話し合いながら、最善の治療方法をみつけることが大切です。

作業療法には、是非今までの趣味や得意なことを取り入れてみましょう。「こだわる」特性を活かすことによって、規則正しい日常生活を送ることにつながり、感情のが安定することも期待されます。

ケアのポイント

FTDは初期から行動に異常が見られる事為、介護者の負担が他の認知症よりも大きいと言われています。適切な対応をする事は患者さんのみならず介護者の負担を減らすことにも繋がります。

病気であることを理解する

同じことを繰り返したり、抑制が効かなくなるなどの症状があるため、家族は身体的・社会的・精神的負担が大きくなると言われています。ストレスが高くなり、緊張した生活が続くこともあるでしょう。

患者さんと介護者双方の負担軽減のためには、まずは病気であることへの理解が重要です。困った行動があっても、それは患者本人の資質の問題ではなく、病気の症状であることを理解しましょう。そして、どんな症状が見られるのか、日々の生活をよく観察し、パターンをつかみましょう。

無理に止めたりせず、時には見守る

同じ行動を繰り返すことがありますが、無理やりやめさせようとすると、怒ったり暴力を振るうこともあります。例えば家の中を歩き回るときなどには、無理にやめさせることはありませんが、安全確保のため見守ることも必要です。そして、休息が必要な場合には気をそらすなどして休ませましょう。どうしても外出したそうなら、家族が付き添ったり、デイサービスなどを利用してみましょう。

デイサービス(認知症対応型通所介護)ってどんなところ?

落ち着いて過ごせる環境を整える

周り声や人の動きなど、外からの刺激に敏感になりやすいのが特徴です。不安感から症状が出ることがありますので、なじみの環境や特定の介護者をつくるなど、本人が安心できる環境を整えましょう。

相手の行動を真似ることがあるので、笑顔で接することを心がけましょう。言葉を理解しにくい場合は、ジェスチャーを加えながら優しく接することで、意図が通じる場合があります。

症状の特徴を上手に利用する

症状の一つである影響の受けやすさを活かしてケアに取り入れてみましょう。相手の行動を真似るので、笑顔で接することを心がけましょう。言葉を理解しにくい場合は、ジェスチャーを加えながら優しく接することで、意図が通じる場合があります。

また、同じ行動を繰り返すことをケアに活かすことも可能です。例えば、洗濯物をたたむ、洗物を片付ける、掃除といった家事や、本人の得意なことや好きだった趣味(折り紙、園芸、編み物、体操など)を介護者と一緒に行ってみるのもよいでしょう。決まった時間に毎日行うことで、生活のリズムがつき、作業療法の一環にもなります。その際、集中できる環境に整える、一度に多くのことを求めない、失敗しても責めない、無理強いしないことが大切です。

食事行動の変化に対応する

際限なく食べ続けたり、甘いものを大量に摂取したり、味の濃いものを好んだりといった食事行動の変化がみられます。生活習慣病などの身体的合併症を引き起こす恐れがあるので、管理が必要です。食材を目に付くところに置かない、気をそらす、食事時間を決めるなどの方法を取り入れてみましょう。

また、まだ飲み込んでいないのに、どんどん口に入れて誤嚥や窒息する場合もあります。食事の際には安全にも気を配りましょう。

患者自身の力を信じて活用する

特に初期には、比較的記憶力は保たれています。「できない」と決め付けて、何でも介護者が行うのではなく、患者の力を信じて本人に行ってもらう場面をつくりましょう。


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