抽象的な考え方(抽象思考)や判断力の障害

認知症になると、「ものの共通点や違いがわからない」「良い・悪いの判断ができない」といった症状が出てきます。このページでは、抽象的な考え方や判断力の障害について説明します。

この記事の目次
  1. 抽象的な考え方、判断力の障害とは
  2. 抽象的な考え方(抽象思考)とは?
  3. 判断とは?
  4. 抽象的な考え方、判断力の障害の具体的な例
  5. あいまいな表現がわかりにくい
  6. 服のコーディネートが出来なくなる
  7. 善悪や危険の判断ができず警察沙汰や事故に
  8. 抽象的な考え方、判断力の障害への対応と対策
  9. あいまいな表現はせず具体的に伝える
  10. 悪い事だと理解できないので怒らない
  11. 1人での外出、詐欺に注意する
  12. 異変に気付くことで認知症の早期発見へ
  13. できないと決めつけず、できるようにサポートする

抽象的な考え方、判断力の障害とは

抽象的な考え方(抽象思考)とは?

抽象とは「様々なものや出来事の中にある共通した部分に注目して抜き出すこと」であり、このような考え方を「抽象思考」と言います。

例えば、「ほうれん草」と「なす」には「野菜」という共通点があります。認知症が進むと、共通点である「野菜」を見つけることが難しくなったり、野菜の種類や名前を思い出しにくくなります。これが抽象思考が低下している状態です。

このような場合には、具体的な表現で話すことでコミュニケーションを図りやすくなるでしょう。

判断とは?

判断とは「ある出来事や事柄について考えを決めること」を言います。

例えば、ジャガイモをたくさん買ってきても、ジャガイモを使わない料理を作って腐らせてしまう、毎日トイレットペーパーを買ってきてしまう、一日中ボーっとしているなどは、判断力が低下している状態です。善悪がわからなくなったり、買い物の際お金を払わずに帰ってくるなど、社会的判断がつかなくなる場合もあります。

判断力の低下によって、家族が「認知症かも?」と気づく兆候の一つです。

抽象的な考え方、判断力の障害の具体的な例

あいまいな表現がわかりにくい

例えばおまんじゅうがあるとします。「おまんじゅうある?」と聞かれたら「あるよ」と答えられるのに、「何か甘いものはある?」と聞かれてもおまんじゅうは浮かびません。抽象的な考え方が低下すると、特定の物を言うとわかりますが、あいまいな表現になるとわかりにくく、たとえ目の前にあっても「ない」ということになります。

その他にも、「着替えを出しておいて」と言われたのに、着替えがわからず出せない例や、病院に行くといっても、病院が何をする場所かわからず「行かない」と言う場合もあります。このような時には「赤いセーターを出して」「頭痛の薬をもらいに行くよ」など、具体的に話すと伝わりやすくなるでしょう。

服のコーディネートが出来なくなる

判断力が低下すると、上手く服をコーディネート出来なくなります。ちぐはぐな格好になったり、その季節に合った服が着られなくなるのです。

お洒落な人がちぐはぐな服を着ているのを見つけ、異変に気付くこともあるでしょう。また認知症が進むと、夏に冬服を着ていたり、何枚も重ね着をしているようなことも。そのような場合、熱が籠って発熱したり、脱水の可能性もあるので注意が必要です。

善悪や危険の判断ができず警察沙汰や事故に

お金を払わず物を取ってしまい、警察からの連絡で家族が驚くケースがあります。本人は、盗むつもりはなく、お金を払わない事が悪い事だという判断ができないのです。

危険に対する判断もできなくなります。道路への飛び出し、道路の真ん中を歩く、信号無視、線路や高速道路に入ってしまうなど、事故に遭う危険が非大きくなるので、注意が必要です。

抽象的な考え方、判断力の障害への対応と対策

あいまいな表現はせず具体的に伝える

認知症の方は、あいまいな言葉に混乱します。なるべく具体的にひとつずつ話しかけてください。「病院に行く」も「お医者さんに診てもらう、薬をもらう」に言い換えてみましょう。

また「ちょっと待ってて」などの「ちょっと」もわかりにくいようです。介護者にとっては少しの間だったとしても、本人は「長く待たせた」と怒ったり、いなくなってしまう事がありますので気をつけてください。時計が読めるのであれば「5分だけ」「この針が○○まで待っていて」などと言い換えるとよいでしょう。ただし長い時間待たせるのは困難です。

悪い事だと理解できないので怒らない

判断ができなくなると、人に対して言って良い事と悪い事もわかりにくくなり、暴言が見られる場合があります。しかし、暴言が出ても怒らないようにしてください。本人には、悪い事だということがわからないからです。怒られた事でネガティブな感情だけが残り、介護拒否などに繋がる場合もあります。

1人での外出、詐欺に注意する

外出の際には目を離さないようにしましょう。身体が元気で1人で出歩いてしまう方には、地域の方の協力も必要になります。認知症である事を、近所の人や民生委員などに連絡しておきましょう。迷子になった時のために、名前や連絡先を服の裏地などにつけておくなどの工夫も大切です。

その他、「おかしい」という判断ができないため、詐欺などの事件に巻き込まれる場合もありますので、家族の注意が必要です。

異変に気付くことで認知症の早期発見へ

まだ認知症だとわかっていない状態の時でも、「判断がおかしい」と感じる場合があります。例えば食事を作る際に、調味料をどれだけ入れればいいか判断ができなくなったり、料理に合った食材を選べない場合は要注意です。

その他、自分で管理できていた薬を飲み忘れる、違う薬を飲んでしまうといった行動も兆候といえるでしょう。

認知症は、早期に発見し治療を開始することで、進行を遅らせたり、症状を緩和できると言われています。家族がいち早く異変に気付き、治療につなげることが大切です。

できないと決めつけず、できるようにサポートする

「着替えが出せなくなったからもう頼めない」ではなく、「着替え」をシャツやパンツ、靴下などと具体的に言い換えると理解しやすくなり、用意できる場合もあります。料理も、ひとつずつ指示を出すことできることもあります。

「できないから」と何もさせないようにするのではなく、まだできる事があるとご本人が思えるように、サポートしてあげてください。出来る能力を使っていく事は、認知症の進行を緩やかにし、自尊心を保つことに繋がります。


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参考文献:1)今井幸充.認知症を進ませない生活と介護.法研,平成27年,p52~53,p140~53.


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