介護拒否の原因と対応、改善策
一口に「介護拒否」と言っても、その内容は様々です。介護する側にとっては困る事態ですが、なぜこのようなことが起こるのか考え、対応を変えてみることで、スムーズな介護が行える場合もあります。
このページでは患者さんが拒否する場面について、具体的な例を挙げ、原因や対応を見ていきます。
- この記事の目次
介護拒否とは
認知症の患者さんは、様々な理由から介護を嫌がることがあります。 介護者や家族は、対応に困ったり途方に暮れることもありますが、本人には嫌がる理由があるのです。その理由を聞き、本人が心地よく介護を受けられることが重要です。
介護する側には介護の「拒否」であっても、患者さんにとっては「嫌だという意思表示」であることを理解しましょう。
介護を拒否する原因は?
認知機能の低下
認知症の患者さんの場合、認知機能の低下により、介護の意味が分からないことがあります。以下の例の他にも、患者さんによってケースは様々です。
食事
・食事を前にしても、食べ物であることがわからない
・食べ物に毒が入っているなどの妄想が起こっている など
入浴
・入浴の必要性が理解できない
・服を脱がされることへの恐怖心がある など
デイケアなどの外出
・どこかに連れて行かれてしまうことへの恐怖 など
羞恥心が強い
介護の場面では、排泄や入浴の介助もあります。しかし本人にとっては、トイレや着替えを他の人に見られることに抵抗を感じることもあるでしょう。また、介護者が異性の場合はその傾向が強まることも理解できることと思います。
その他「オムツを替えましょう」などプライバシーに関わる内容を、人に聞こえるところで言われるような場面も、抵抗を感じる場合があります。
自立心が高い
以前は自立して生活していた人は、介護者に付き添われることや、世話を焼いてもらうこと自体に嫌悪感を感じることがあります。
その他、失敗体験を繰り返したくないという気持ちが強い方も多くいます。
例えば、尿失禁を体験した方の中には、水分摂取を拒否する人がいます。水分を取って排尿が近くなり、また失敗してしまうのではないかという不安を感じるためです。下着を汚したくない、汚した下着を見られたくないなどの意識も働きます。
今までの習慣や認識と異なる
自宅から施設などに移ったり、普段と違う場所で過ごす場合、環境や習慣の違いから、介護を拒否するケースがあります。
食事
1日2食の習慣だった、食事の時間が異なる、食事の量が多い、好みの味付けや食事形態ではない、お腹が空いていない など
入浴
一日おきに入浴していた、シャワーは使用していなかった、湯船につかることだけが入浴だと認識している など
更衣
自分の決めたタイミングで着替えをしていた、自分の考えたコーディネートではない など
具体的な介護拒否のケースと対応例
人によって拒否の場面やその理由は様々ですが、前述のとおり、本人にとっての理由があります。その理由をじっくり聞いたり、考えて対処することが大切です。 不安による拒否であれば、その原因を解消するように努めましょう。話を聞かずに、一方的に介助したり無理強いをすると、不安をあおるだけでなく、一層拒否する場合もあります。
以下、認知症介護でよく見られる拒否のケースをいくつか例に挙げ、対応方法を見ていきます。
お風呂に入らない
比較的よく見られるケースです。入浴を嫌がる場合は、本人の習慣などを知り、合わせることが大切です。
また、羞恥心からお風呂を嫌がる場合は、同姓の介助者にしたり、“介助”という形ではなく、“一緒にお風呂に入る”ことが有効な場合もあります。家族での対応が難しい場合は、入浴サービスの活用も考えてみましょう。
今井先生のコラムには、入浴拒否の解消について以下のような事例が挙げられています。
同居している中学1年生の孫が洗面器、手拭、石鹸をもって「じいちゃん、風呂」と銭湯に誘ったのです。その子は、自分の母親たちがおじいちゃんのお風呂のことで困っているのを知り、以前一緒に銭湯に行ったとき、おじいちゃんがとっても楽しそうだったことを思い出し、誘ったのでした。その老人は孫と一緒に銭湯へ行き、自分で頭を洗い、孫の背中を洗ってあげ、2人で牛乳を飲んで帰ってきました。その様子に家族は皆びっくりでした。その後は、週に1~2回、孫と銭湯に行くそうです。
ユッキー先生の認知症コラム 第53回 認知症の人の対応~入浴嫌い~より
着替えを嫌がる
認知機能が低下している方は、着替えの意味がわからないこともあります。そのような状態では、服を脱がされることで不安を感じてしまうのです。「洗濯してきれいにしましょう」「さっぱりしましょうね」などの声かけを行い、何のために行うのか明確に伝えて了承を得ましょう。
信頼関係を保つためにも、一方的に着替えさせたり、勝手に洗濯することは禁物です。きちんと説明し、納得して着替えてもらいましょう。
食事を摂らない
食事を摂らないケースも多くあります。その理由は様々ですが、まずは体調をチェックしてください。体調が悪く食欲がない場合や、入れ歯が合わない、口内炎があるなど、口の中が痛くて食べられないこともあります。義歯を利用している方は、痩せてしまうと合わなくなって、かみ合わせが悪くなることもあります。食べ物が飲み込めない場合には、誤嚥の危険性があるため、医師に相談しましょう。
その他、認知機能の低下により、箸やフォークの使い方や食べ方が分からなくなる場合があります。そのような時には、介護者が一緒に食事をして、食べ方をまねて頂くのも方法の一つです。
食事の回数や習慣の違い、介護食が口に合わないなどは本人の話をよく聞くことで解消できます。
薬を飲まない
服薬を嫌がる場合、持病などの悪化も考えられますので、医師に相談しましょう。飲みやすい形状で処方してくれることもあります。また、服薬時間がどの程度ずれても大丈夫かなど、医師に確認しておきましょう。
食事に混ぜると、食べ物の味が変わり食事の拒否に繋がったり、薬効が得られなくなる場合がありますので、必ず医師に相談してください。
デイケアやレクリエーション、リハビリを嫌がる
デイケアなどへの通所は、最初の一歩が難関と言われています。はじめにきちんと説明し、有益であることや楽しみになることを納得してもらいましょう。通いはじめるとスムーズに通所する方も多いようです。
また、それまで通っていた方が突然行きたがらなくなる時には、出先で何かがあった可能性が高いです。きちんと話を聞き、解決に努めましょう。
介護拒否対応のポイント
嫌がる理由を聞く
無理強いをせず、嫌がる理由を本人に訊いたり、それまでの生活習慣と照らし合わせて考えてみることが必要です。
原因を突き止め、それを解消するよう努めましょう。
前向きな表現で説明する
介護を行う時は、何のために何を行うか、前向きな表現で説明しましょう。納得できれば不安感は解消されるはずです。
認知機能の低下で理解力や判断力が落ちていることが考えられるので、わかりやすい表現で説明することも大切です。
「安心して介護を受けてもらう」という視点で考える
拒否の根底には不安感があることがほとんどです。本人が安心して介護を受けられるよう、都度工夫してみましょう。
例えば施設での食事を摂らなくなった場合は、家で使用していた食器や箸を使うと安心に繋がります。初めての場所でトイレや浴室など生活に密着した施設を利用する場合は、見学に行って実際に使用するものを確認してみるのも一つの方法です。
本人が安心して介護を受けられるよう考えてみましょう。
介護者の価値観を押し付けない
上記で挙げた介護拒否の理由の中に「今までの習慣や認識と異なる」とあるように、患者さんは介護者とは違う価値観や認識を持っていることも多いのです。そのことを念頭に置き、介護に臨む姿勢が大切です。
拒否が起きたときに、その介護の必要性や意味を押し付けるのではなく、相手の価値観や考え方、生活習慣を理解する努力をしてみましょう。
以下は今井先生の入浴拒否についてのコラムですが、入浴に限らず、あらゆる拒否の場面に当てはまります。
入浴を嫌う認知症の人の対応として最も重要なことは、若い介護者が考える入浴の意味や必要性を認知症の人に押し付けないことです。若い人の考えや生活習慣は、認知症の人に理解できません。裏を返せば、若い人が認知症の人の考えていることや生活習慣を理解できないのと同じです。それゆえ、入浴を拒否する認知症の人の対応として最も行っていけないことは、「身体が臭い」、「不潔」等の言葉を吐き捨てるように言いながら、無理やり入浴させようとすることです。
ユッキー先生の認知症コラム 第53回 認知症の人の対応~入浴嫌い~より
参考文献:1)今井幸充.認知症を進ませない生活と介護.法研,平成27年,p168~174.
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