山口先生コラム「やさしい家族信託」第16回:Q&A 家族信託がスタートしたら、不動産はどうやって管理する?「信託登記ってなに?」

2020年3月13日

司法書士事務所ともえみ 代表司法書士 山口先生コラム「やさしい家族信託」

山口良里子先生

厚生労働省によれば、2025年には認知症患者が700万⼈になると⾔われています。認知症になると資産は凍結され、⾃分や家族のために財産を動かすことができなくなります。

本コラムでは、「職業後見人」として高齢者の方の財産を管理し、また、自身の両親の「家族信託受託者」としても活動する高齢者支援専門の司法書士である山口良里子先生が、認知症から⼤切な資産を守るために注⽬される「家族信託」についてわかりやすく解説します。


この記事の執筆
山口良里子先生
司法書士事務所ともえみ 代表司法書士
山口良里子先生
この記事の目次
  1. 【質問】家族信託スタートしたら、親から信託された不動産はどうやって管理したらいいんですか?
  2. 【答え】親から信託された不動産は、「信託の登記」をして、受託者が管理します。受託者の管理処分権限は、不動産登記簿の「信託目録」に記載されます。
  3. 【解説】親から信託された「不動産」の名義と税金についてのまとめ

【質問】家族信託スタートしたら、親から信託された不動産はどうやって管理したらいいんですか?

もうすぐ80代の親の認知症が心配で、「認知症ねっと」で情報を収集しはじめました。

認知症になると、医療や介護の対策だけでなく、お金の管理や財産の処分の問題もでてくる。「家族信託」という制度が、高齢期の親のお金の管理に使えるということが分かり、我が家も利用していくことにしました。

専門家に家族信託の内容を設計してもらい契約書作成も完了。いよいよ家族信託スタートです。今回、受託者の私が「親から信託された不動産」は、どうやって管理したらいいのでしょうか?

【答え】親から信託された不動産は、「信託の登記」をして、受託者が管理します。受託者の管理処分権限は、不動産登記簿の「信託目録」に記載されます。

家族信託受託者としての執務をスタートしたA子さん。今回、A子さんが親から信託された財産は、①現金1000万円と②自宅不動産の2つです。

まず、「①現金1000万円」は、「信託口口座」を開設し、A子さんの個人資産とは分別して管理するようにしました。

では、「②自宅不動産」は、どのように管理するのでしょうか?

不動産は、個々の不動産ごとに「登記簿(登記事項証明書)」が作成され、その所有者やその他の権利関係が記載され、誰のどのような不動産で、どのような権利負担があるかが分かるようになっています。

A子さんが、親から信託された自宅不動産も、この登記簿に「信託の登記」をすることになります。信託の登記がされると、登記簿の「所有者等の記載欄」に、A子さんの名前が信託不動産の受託者として明示されます。そして、A子さんが、この信託不動産について、「どのような管理処分権限を持っているか」が、登記簿の「信託目録」に記載されます。

この「信託の登記」がされることにより、A子さんの権限の範囲が明確になり、その範囲に従って、A子さんが親から信託された不動産を管理することができます。

例えば、信託目録に「賃貸できる権限」が記載されていれば、A子さんが親に代わり本件不動産を賃貸管理してあげることができます。賃貸収入で得たお金は、親の信託財産になるので、「信託口口座」へ入金してもらうことで、A子さん個人の財産とは分別して管理することができます。

また、信託目録に「売却できる権限」が記載されていれば、A子さんが親に代わり本件不動産を売却してあげることもできます。売却で得たお金も、親の信託財産になるので、「信託口口座」へ入金してもらい、A子さん個人の財産とは分別して管理します。

「信託の登記」をして、不動産の名義が「A子さん」になったとしても、不動産の受益者は、もともとの所有者である親であり、実質的所有者は変わりません。よって、A子さんに「不動産取得税」が課せられることはありません。

また、不動産の売却や賃貸で得た収益は、受益者である親の利益になるので、A子さんに所得税はかかりません。利益が出た場合は、別途受益者である親が所得税の申告をすることになります。

家族信託では、受託者が信託された不動産について、何をどこまでできるのかを「家族信託契約書」で個別に定めることができ、それぞれのご家族ごとに、受託者ができることが異なるので、信託不動産の取引の相手方に思わぬ不利益を与えることも考えられます。そこで、詳細をそれぞれの登記簿に記載することで、信託不動産の取引が円滑に行われるようになっているのです。

受託者であるA子さんも、信託の登記をしてある不動産登記簿を見せることで、自分の権限を証明することができ、信託不動産の管理処分がスムーズにできます。また、委託者である親は、受託者が権限以上の行為はできないという点で安心して不動産の管理処分を任せることができるのです。

以上のように、親から信託された財産は、「信託口口座」と「信託の登記」を使って、子どもの財産と混ざらないように管理していくことになります。

【解説】親から信託された「不動産」の名義と税金についてのまとめ

委託者兼受益者
受託者
登記簿の名義はどうなる? 前所有者の欄に記載がある 現在の所有者の欄に信託受託者として子どもの名前と住所が記載される
管理処分権限はどうなる? 受託者である子どもへ任せる
希望を伝えたり、報告を求めることができる
信託契約書の内容が、登記簿の「信託目録」に記載される
それに従って、管理処分権限を実行できる
利益はどうなる? 親の財産として、信託口口座で管理する
登録免許税 信託の登記申請時に「登録免許税」がかかる(1度だけ)
固定資産税 登記簿の所有者として、記載される子どもに請求がくる
親から信託された現金(信託口口座)より支払う(毎年)
不動産取得税 実的所有者は、受益者である親であるため、かからない
贈与税 実質的所有者は、受益者である親であるため、かからない
所得税 信託不動産の賃貸や売却で利益が出た場合に、受益者にかかる


「家族信託」とは、一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。本コラムの著者は、一般社団法人家族信託普及協会の認定家族信託専門士です。
本コラムで紹介する事例は、フィクションです。実際に家族信託をご検討される場合は、専門家へご相談ください。

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