山口先生コラム「やさしい家族信託」第15回:Q&A 家族信託がスタートしたら、お金はどうやって管理する?「信託口口座ってなに?」

2020年1月29日

司法書士事務所ともえみ 代表司法書士 山口先生コラム「やさしい家族信託」

山口良里子先生

厚生労働省によれば、2025年には認知症患者が700万⼈になると⾔われています。認知症になると資産は凍結され、⾃分や家族のために財産を動かすことができなくなります。

本コラムでは、「職業後見人」として高齢者の方の財産を管理し、また、自身の両親の「家族信託受託者」としても活動する高齢者支援専門の司法書士である山口良里子先生が、認知症から⼤切な資産を守るために注⽬される「家族信託」についてわかりやすく解説します。


この記事の執筆
山口良里子先生
司法書士事務所ともえみ 代表司法書士
山口良里子先生
この記事の目次
  1. 【質問】家族信託スタートしたら、親から信託されたお金はどうやって管理したらいいんですか?
  2. 【答え】親から信託されたお金は、自分のお金と別に管理します。「信託口口座」をつくると便利です。
  3. 【解説】「家族信託」と「成年後見」のお金の管理の方法の違い

【質問】家族信託スタートしたら、親から信託されたお金はどうやって管理したらいいんですか?

もうすぐ80代の親の認知症が心配で、「認知症ねっと」で情報を収集しはじめました。認知症になると、医療や介護の対策だけでなく、お金の管理や財産の処分の問題もでてくる。「家族信託」という制度が、高齢期の親のお金の管理に使えるということが分かり、我が家も利用していくことにしました。

専門家に家族信託の内容を設計してもらい契約書作成も完了。いよいよ家族信託スタートです。今回、受託者の私が「親から信託されたお金」はどうやって管理したらいいのでしょうか?

【答え】親から信託されたお金は、自分のお金と別に管理します。「信託口口座」をつくると便利です。

いよいよ、家族信託受託者としての執務をスタートしたA子さん。今回、A子さんが親から信託された財産は、①現金1000万円と②自宅不動産の2つです。

では、「①現金1000万円」は、どうやって管理するのがよいのでしょうか?

親から信託された財産は、自分自身の財産とは、「別に管理」しなければなりません。信託された財産が「現金」の場合、管理する方法は、次のABC3つあります。

【親から信託された「現金」の管理方法ABC】

管理方法 内容
A)子ども(受託者)の家の金庫で預かる 親から信託された現金1000万円を、子どもの家の金庫(もしくは銀行の貸金庫)で預かります。
この場合、金庫の中の「子どもの現金」と「信託された現金」が混ざらないように注意が必要です。
B)子ども(受託者)名義の信託専用口座で預かる 親から信託された現金1000万円を、子ども名義の口座で預かります。
この場合、「子ども名義の口座」の中の「子どもの現金」と「信託された現金」が混ざらないように、本口座には、「信託された現金」以外入れないようにすることが重要です。
さらに、外部に明示するために信託契約のなかで、本口座を「信託された現金専用に使う」と取り決めしておきます。
C)親(委託者)信託子ども(受託者)名義の信託口口座を作って預かる 親から信託された現金1000万円を、新たに作成する「信託口口座」で預かります。
信託口口座の中の現金は、「信託された現金」とみなされますので、子どもの現金と混ざる心配はありません。
さらに、「信託口口座」の名義は「親信託子ども」となりますので、外部にも信託された現金専用の通帳であることがはっきりと明示されます。

【注意】親名義の口座の通帳を預かっただけの場合

親(委託者)名義の口座の通帳をそのまま預かる 親名義の口座の通帳をそのまま預かっても、「通帳」というモノを預かったにすぎず、「親から信託された現金」を預かったことにはなりません。「親名義の通帳」のお金の出し入れは、「親」がする必要があり、親の判断能力の低下により、凍結してしまいます。
現金を信託された場合は、親名義の通帳から出金して、子どもが子どもの財産と分別して預かる必要があります。

以上の3つの方法で、親から信託されたお金を管理することができますが、それぞれにメリット・デメリットがあるので注意が必要です。

まず、A)金庫で預かる方法は、現金をそのまま預かるだけですので手軽ですが、誰のお金か分からなくなりやすく、また、紛失・盗難の恐れがあります。

次に、B)「子ども名義」の口座を親の信託財産を預かる「専用口座」として利用する方法は、子どもが使いなれた金融機関の口座を使うため、手軽で使いやすいといえます。

しかし、口座名義自体が「子ども」であるため、中身が「親から信託されたお金」であるということが分かりにくいという欠点があります。また、親よりも子どもが先に他界した場合、子ども名義の口座は凍結してしまうため、新たに就任する受託者が子どもの相続人と調整して、親の信託財産を取り戻し、信託財産として預かり直す必要がでてきます。

最後に、C)「親信託子ども名義「の特別な「信託口口座」を作成し、親から信託されたお金を預かる方法があります。これは、家族信託のために開発された特殊な口座であり、誰の財産か? 誰が管理を任されている受託者なのか? が一目でわかります。そして、受託者である子どもが他界しても凍結はされず、次の受託者が通帳を引き継ぐだけで済み、信託執務が中断することがありません。以上より、信託されたお金は、「C)信託口口座を新たに作成して管理をする」というのが正解と言えます。

しかしながら、家族信託という制度は、まだまだ一般的ではないため、「信託口口座」を作成できる金融機関は限られています。また、作成できる金融機関でも、独自に開設基準を設けており、誰でも信託口口座を作ってもらえるというところまでは至っていません。

そこで、B)信託専用口座とC)信託口口座を、開設可能性や使い勝手などの点から、使い分けて、受託者としての実務を行っていくのが現状での正解といえます。

【親から信託された「現金」の3つの管理方法メリット・デメリット】

A)金庫で預かる B)子ども名義の「信託専用口座」で預かる C)親信託子ども名義の「信託口口座」で預かる
名義はどうなる? 現金で預かるので、「名義」はない 子ども名義の口座で預かるので、名義は「子ども」 信託口口座の名義は、「親信託子ども」となり、ダブルネームが表示される
メリット ・現金をそのまま預かるだけなので、手軽 ・子どもが使い慣れた銀行の口座で預かるので手軽、使いやすい ・親と子のダブルネームが表示され、誰の財産であるか一目でわかる。
・子どもが他界しても、凍結しない
デメリット ・紛失、盗難の危険
・誰のお金か分からなくなる
・名義が子どもであるため、誰の財産か分かりにくい
・子どもが他界すると、口座が凍結してしまう
・口座を開設してくれる金融機関が限られている
・口座を開設してもらえる条件が厳しい(例:3000万円以上の預金残高など)

以上のとおり、親から信託された「現金」は、自身の財産とは「分別して」管理しなければならず、そのために、一目で「あなたに親から家族信託されたお金」の通帳だということが分かる「C)信託口口座」をつくると便利です。

しかし、「信託口口座」は、まだまだ作れる金融機関がすくないため、「あなた個人名義の口座」でお金を管理してあげることも必要になるかもしれません。

あなたが、親のお金の管理をしてあげることで、親の暮らしが豊かに、安心したものになります。しかし、管理の仕方を間違うと、親のお金に思わぬ損害を与えることや、「親のお金を使い込んだのでは?」といったあらぬ疑いをかけられることもあります。

親が信じて託してくれた財産を、自分の財産とは分別して、しっかり守る体制を整えていきたいものですね。

【解説】「家族信託」と「成年後見」のお金の管理の方法の違い

家族信託 成年後見
管理される財産 親が信託契約の中で決めて、信託 した財産
例)自宅、現金1000万円など
親名義のすべての財産
いつからスタートする? 契約したときから
※親の判断能力の低下は要件ではない
親の判断能力が低下し、家庭裁判所で「後見開始(又は後見監督人選任)」の審判が下りてから
管理の方法 子ども(受託者)の財産と分別して管理する
※親名義の通帳がそのまま子どものものになることはない
親名義の通帳を後見人がそのまま管理する
※各金融機関で、親名義の通帳に「後見人選任された」ことを設定する


「家族信託」とは、一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。本コラムの著者は、一般社団法人家族信託普及協会の認定家族信託専門士です。
本コラムで紹介する事例は、フィクションです。実際に家族信託をご検討される場合は、専門家へご相談ください。

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