山口先生コラム「やさしい家族信託」第12回:Q&A 親の認知症に備えて家族信託しておきたい「我が家でも家族信託はできますか?」

2019年10月9日

司法書士事務所ともえみ 代表司法書士 山口先生コラム「やさしい家族信託」

山口良里子先生

厚生労働省によれば、2025年には認知症患者が700万⼈になると⾔われています。認知症になると資産は凍結され、⾃分や家族のために財産を動かすことができなくなります。

本コラムでは、「職業後見人」として高齢者の方の財産を管理し、また、自身の両親の「家族信託受託者」としても活動する高齢者支援専門の司法書士である山口良里子先生が、認知症から⼤切な資産を守るために注⽬される「家族信託」についてわかりやすく解説します。


この記事の執筆
山口良里子先生
司法書士事務所ともえみ 代表司法書士
山口良里子先生
この記事の目次
  1. 【質問】親の認知症に備えて家族信託しておきたい。我が家でも家族信託はできますか?
  2. 【答え】家族信託はできそうです。3つのチェックポイント
  3. 【解説】高齢期の親のお金を守りたい子どもが使える「家族信託」

【質問】親の認知症に備えて家族信託しておきたい。我が家でも家族信託はできますか?

もうすぐ80代の親の認知症が心配で、「認知症ねっと」で情報を収集しはじめました。認知症になると、医療や介護の対策だけでなく、お金の管理や財産の処分の問題もでてくる。「家族信託」という制度が、高齢期の親のお金の管理に使えるということが分かりました。

そこで、我が家の状況をチェックしてもらったところ、「家族信託が必要そう」とのことでした。ただ、我が家でも、果たして家族信託ができるのでしょうか?

【答え】家族信託はできそうです。3つのチェックポイント

質問いただいたA子さんの家族の場合、家族信託はできるでしょうか?

家族信託が「できるかどうか」のチェックポイントは、①家族の状況 ②財産の状況 ③希望 の3つです。
A子さんのご家族についてチェックしてみましょう。

チェックポイント 現状
①家族の状況について 父(78歳)年金暮らし。元気です
母(76歳)年金暮らし。元気です
A子さん(51歳)主婦。実家の近くに住んでいます。
弟(48歳) サラリーマン。弟の家族は近くに住んでいますが、弟は関東に単身赴任中。
②財産の状況について ■お父さん名義の財産:
 ①実家 :父母が二人で住んでいます。
 ②空き家:父の弟が1人で住んでいましたが、昨年他界。
      父が引き継いでそのままです。
 ③預貯金:3000万円
■お母さん名義の財産:
 ①預貯金:100万円
③希望について お父さんの希望:自分たちの築いた財産で気楽に暮らしたい
お母さんの希望:お父さんが死んだ後が心配…
A子さんの希望:お父さんとお母さんの希望をかなえたい
弟さんの希望:自分は何もできないので、A子さんと自分妻に負担がかからないようにしてあげてほしい

【家族信託 できるかチェック】

チェックポイント 現状
①家族の状況について お父さんは、元気で判断能力は十分あり、近くに住んでいるA子さんのことを頼りにしている。
A子さんは、実家の近所に住んでいて、主婦のため比較的時間はある。
②財産の状況について 信託する予定の財産は、①実家 ②空き家 ③お金。
信託可能であり、A子さんが管理することも十分できる。
③希望について お父さんとお母さんは今まで通り気楽に暮らしたい。
A子さんは、お父さんとお母さんの希望をできる限り叶えてあげたい。
弟さんは、A子さんが信託受託者になってくれることで、妻の負担と両親の心配が軽減されるなら協力したい。

家族信託は、家族の信頼が基礎となる契約です。その点、A子さんのご家族は、

①お父さんの判断能力は十分あり、A子さんとの信頼関係も十分。また、A子さんが受託者の業務をするための時間的物理的余裕もある。
②A子さんが受託者として管理する財産は、不動産とお金。信託可能財産であり、管理に専門知識が必要というほどでもない。
③家族みんなが信託をしてあげたいと思っている。

以上のとおり、A子さんのご家族なら、家族信託が十分できそうです。

家族信託が必要であり、自分たちでもできそうだということも分かったA子さんは、お父さんとお母さんが認知症になる前に、家族信託を実行してみようと思うのでした。

次回は、実際に家族信託スタートしたらどうなる?「私にも家族信託受託者ができますか?」について解説します。

【解説】高齢期の親のお金を守りたい子どもが使える「家族信託」

「家族信託 」とは、親(委託者という)が、子どもなどの信頼できる家族・親族(受託者という)に、不動産や預貯金などの財産の管理を任せる契約のことで、「民事信託」ともいわれます。親(委託者)が決めた目的に沿って、子ども(受託者)が、信託された財産を管理・処分し、親(受益者という)のために使用します。

親が元気なうちから準備しておくことで、認知症で判断能力が低下しても、財産が凍結することなく親のために使うことができると、利用される方が増えています。

しかしながら、「必要かどうか」と「できるかどうか」は、また別のこと。

必要であっても、「信じて託せる」子どもがいない場合は、残念ながら家族信託を実行することができません。また、家族信託は「契約」ですので、委託者である親の判断能力が低下したあとは、することができません。さらに、「信託できるもの」でないものを信託することもできません。

「できない」という結果になった場合は、成年後見など別の制度の利用を検討することも視野に入れて検討していきましょう。

いずれにしても、親が元気なうちに、高齢期の親のお金を守るために「家族信託」が必要か?さらに、うちでもできそうか?を段階別にチェックされることをお勧めします。

【私に家族信託ができるかチェックポイント】

①家族の状況について 委託者の判断能力があるか
委託者と受託者の信頼関係があるか
受託者に時間的、物理的余裕があるか
②財産の状況について 財産がどこにどれだけあるかわかるか
信託できる財産か
受託者が自分で(又は誰かに依頼して)管理できる財産か
③希望について 受託者(子ども)に、今のうちから任せたい、任せている
委託者(親)の安心な暮らしをサポートしてあげたい

一つでも×がついたら「家族信託」をするのは難しい、別の制度を検討するのがよさそうです。


「家族信託」とは、一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。本コラムの著者は、一般社団法人家族信託普及協会の認定家族信託専門士です。
本コラムで紹介する事例は、フィクションです。実際に家族信託をご検討される場合は、専門家へご相談ください。


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