今野先生コラム「食事で認知症予防」第9回:イチョウ葉エキス
ブレインケアクリニック院長 今野先生コラム「食事で認知症予防」
認知症予防の中でも特に関心が寄せられている「食事」。多くのメディアで様々な食材や栄養素が取り上げられる中、どんなものをどのように摂ったらよいのか、戸惑っている方も多いのではないでしょうか。
そこで、認知症予防のプログラムを提供するブレインクリニックの院長であり、栄養についても詳しい今野裕之先生が、栄養・食事についてシリーズで解説。皆さんに正しい情報をお伝えします。
- この記事の執筆
イチョウ葉エキスの効果
イチョウは私たちの身近にある植物ですが、その葉から抽出されたエキスが物忘れや認知機能の低下に対するサプリメントなどに使用されているのをしばしば見かけます。実際のところ、効果はどうなのか気になっている方もいるでしょう。
今回は、そんなイチョウ葉エキスについてまとめてみました。
作用メカニズム
イチョウの葉にはルチン、ケルセチンなどのフラボノイドおよびギンコライドなどの天然の有機化合物が含まれており、これらの成分が相乗的に作用することで、さまざまな薬理効果を示すと考えられています。ドイツではイチョウ葉エキスが医薬品として販売されており、記憶力の減退やうつ、めまい、耳鳴り等の症状に使われています。
イチョウ葉エキスにはアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβによる神経毒性および細胞死を阻害する作用があることが報告されている他、アリセプトのようなアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に類似した効果もあるのではないかと考えられています。
また、エキスに含まれている各成分の作用としては、フラボノイドには抗酸化作用、血管拡張作用、神経保護作用が、ギンコライドに血小板活性化因子阻害作用などが報告されています。
イチョウ葉エキスの副作用
イチョウ葉エキスの摂取量は1日240 mg以下が一般的で、適切に摂取すれば、おそらく安全と考えられていますが、上述のように、血液の凝固を抑制する作用があるので、血が固まりにくいなど出血のリスクがある人、抗血小板薬・抗血液凝固薬を服用している人などは出血傾向が高まる可能性があるので注意して使用する必要があります。
また、糖尿病、高血圧、うつ病、頭痛などで薬を服用している人は、使用する前に医師と相談してください。薬との相互作用によって思わぬ副作用が出現する可能性があります。
また、イチョウ葉エキスを含むサプリメントの中にはギンコール酸という有害成分が多く含まれているものがありますのでご注意ください。多量に摂取するとアレルギーを起こす可能性があります。
健康な人の認知機能に関する研究
28人の健康な成人に120 mgのイチョウ葉エキスに大豆由来のリン脂質を加えたものを摂取させた研究では、摂取から 1時間後、2時間半後、4時間後、6 時間後に認知テストを実施した結果、プラセボを摂取したグループと比べて記憶速度と記憶の質の向上が認められました[1]。
また別の研究では、55 歳以上の健常成人48人を対象に、イチョウ葉エキスの認知能力強化について検討しました。イチョウ葉エキスを60mg、1日3回6週間摂取したグループではプラセボに比べ、客観的には明らかな差はなかったものの、自覚的には処理能力と記憶力の改善を認めました[2]。
認知症患者の認知機能に関する研究
軽症から重症の認知症(アルツハイマー病または多発梗塞による認知症)の患者 309 人を対象とした研究では、イチョウ葉エキスを1日120mg、52 週間摂取してもらいました。その結果、プラセボを摂取したグループと比較して、ADAS- Cogという認知機能検査の結果が良好でした[3]。
また、中国の研究で、認知障害および認知症に対しイチョウ葉エキスの有効性について、計2561人の被験者を含む複数の研究を解析して調査したところ、イチョウ葉エキスを1日あたり240mg、22〜26週間投与することにより、認知機能低下を阻止あるいは遅らせることができる可能性が示されました[4]。
一方、より長期的な認知症予防効果はまだ確認されていません。米国の高齢者3,069名を、イチョウ葉を摂取するグループとプラセポを摂取するグループに分け,6.1年間追跡した研究では、イチョウ葉のグループはプラセボのグループと比較して認知機能低下を抑制できなかったということです[5]。
まとめ
イチョウ葉エキスは脳の血液循環改善作用、抗酸化作用などによって、認知機能改善に役立つ可能性があります。一方、イチョウ葉エキス単体を長期間服用することによって認知症を予防できるかどうかについては確認されていません。
イチョウ葉エキスに限ったことではありませんが、よく知られているように、認知症の発症のバックグラウンドに様々な要因が存在することの方が多いのです。したがって、特定の食品や成分を摂取することだけでは認知症の発症を予防することは難しいのではないでしょうか。運動、食事、睡眠、ストレス軽減など、様々な予防法を継続的に続けていくことが一番重要なことと思います。
参考文献
1. Kennedy DO, Haskell CF, Mauri PL, Scholey AB. Acute cognitive effects of standardised Ginkgo biloba extract complexed with phosphatidylserine. Hum. Psychopharmacol Clin Exp. 22(4), 199–210 (2007).
2. Mix JA, Crews WD. An examination of the efficacy of Ginkgo biloba extract EGb761 on the neuropsychologic functioning of cognitively intact older adults. J Altern Complement Med. 6(3), 219–229 (2000).
3. Le Bars PL, Katz MM, Berman N, Itil TM, Freedman AM, Schatzberg AF. A placebo-controlled, double-blind, randomized trial of an extract of Ginkgo biloba for dementia. North American EGb Study Group. JAMA. 278(16), 1327–1332 (1997).
4. Tan M-S, Yu J-T, Tan C-C, et al. Efficacy and adverse effects of ginkgo biloba for cognitive impairment and dementia: a systematic review and meta-analysis. J. Alzheimers Dis. 43(2), 589–603 (2015).
5. Snitz BE, O’Meara ES, Carlson MC, et al. Ginkgo biloba for preventing cognitive decline in older adults: a randomized trial. JAMA. 302(24), 2663–2670 (2009).
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