今野先生コラム「食事で認知症予防」第8回:オンジについて解説します

2018年2月5日

ブレインケアクリニック院長 今野先生コラム「食事で認知症予防」

今野裕之先生

認知症予防の中でも特に関心が寄せられている「食事」。多くのメディアで様々な食材や栄養素が取り上げられる中、どんなものをどのように摂ったらよいのか、戸惑っている方も多いのではないでしょうか。

そこで、認知症予防のプログラムを提供するブレインクリニックの院長であり、栄養についても詳しい今野裕之先生が、栄養・食事についてシリーズで解説。皆さんに正しい情報をお伝えします。


この記事の執筆
今野裕之先生
ブレインケアクリニック 院長
今野裕之先生
この記事の目次
  1. オンジとは
  2. 「物忘れ」と「認知症」はイコールではない
  3. 「物忘れが良くなる」=「認知症予防になる」とは言えない
  4. オンジの効能を調査
  5. オンジが得意とする物忘れとは?
  6. 結論

オンジとは

オンジはイトヒメハギ(Polygala tenuifolia)の根で、人参栄養湯や帰脾湯、加味帰脾湯などに含まれる漢方薬に使用されている生薬です。2015年に厚労省がオンジ単味製剤の効能効果を「中年期以降の物忘れの改善」と設定したことで、オンジ単剤の製剤が各社から次々発売されるようになりました。

ところが、2017年になって、厚生労働省は「オンジ製剤による認知症の予防や治療に関する効果は認められていない」と注意を促しています。果たしてどういうことなのでしょうか?「物忘れに効くなら認知症にも効くのではないか」と思われそうですが、必ずしもそうではないのです。この辺りをできるだけわかりやすく解説していきたいと思います。

「物忘れ」と「認知症」はイコールではない

まずは物忘れと認知症の違いについてご説明しましょう。よく勘違いされますが、「物忘れ=認知症」と単純に考えるのは間違いです。

「物忘れ」は症状であって、病名ではありません。認知症以外の病気でも物忘れの症状が出現することは珍しくありません。たとえば寝不足の日や飲み過ぎた次の日などは頭がぼーっとして物覚えが悪くなるといったことは皆さんも経験があると思います。うつ病、解離性障害、ADHD(注意欠陥多動性障害)などの病気でもしばしば物忘れを訴えることがあります。特に高齢期のうつ病は認知症の初期と区別が難しく、専門家でも頭を悩ませることがあります。

一方、「認知症」は病気の名前です。そして、認知症でも物忘れが主症状ではないものがあります。幻視や性格変化といった症状から認知症が始まるというケースも珍しくありません。したがって、物忘れがあるからといって認知症であるとは言いきれませんし、反対に物忘れがないからといって認知症でないとも言えないのです。

「物忘れが良くなる」=「認知症予防になる」とは言えない

上記のように、物忘れはその背景にさまざまな原因があると考えられますので、そのうちの1つがオンジによって改善したとしても、認知症の予防につながるとは言えないのです。

また、中年期の物忘れが単なる物忘れではなく、認知症であった場合はオンジでは治りません。認知症は高齢者の病気というイメージがありますが、65歳未満の年齢でも若年性認知症を発症する可能性があります。オンジで治そうと頑張っている間に、認知症がいつのまにか進んでしまっていたということもあるかもしれないのです。

オンジの効能を調査

オンジの効能効果は「中年期以降の物忘れ」です。このような効能が認められた背景には、このような効能を発表するに至った臨床研究(ヒトを使った実験のこと)の結果があるのではないかと考えました。

そこで「Pubmed」という世界の医学関連の論文を検索できるサイトで調べてみたところ、この原稿を書いた時点では2件だけヒットしました。いずれも韓国のグループが発表した研究です。一つ目が健康な成人を対象にしたもの、もう一つは健康な高齢者を対象としたものでした。これらの研究によると、まずオンジから抽出したエキスはアセチルコリンエステラーゼ阻害作用を持ち、ラットを使った実験では神経保護作用を認め、人工的に与えたストレスによる健忘症の改善に効果がありました。

この結果をもとに、健康な成人にオンジエキス1日3回、4週間摂取させたところ、同じように偽薬を飲んだ人と比較して、明らかに記憶力が向上したということです(1)。さらに、健康な高齢者を対象とした実験でも、記憶力を含む認知機能を向上させることが認められたと報告されています(2)。

オンジが得意とする物忘れとは?

そもそも、厚生労働省が念頭に置いていた「中年期以降の物忘れ」とは加齢による正常な物忘れのことだったようです(3)。

オンジは漢字で書くと遠志と書き、その名が示すように志を強くし、もの忘れを治すといわれます(4)。ここでいうもの忘れは、例えば忙殺されて疲労がつのり、日常のことを忘れがちになったり、強いショックで壮然白失となるような状態に近いと考えられています(4)。

オンジを使用している漢方薬である人参栄養湯の適応が「病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、 手足の冷え、貧血」、帰脾湯の適応が「貧血、不眠症」、加味帰脾湯の適応が「貧血、不眠症、精神不安、神経症」であることからも、オンジがよく効く物忘れの状態が認知症と異なるものであると推測できるのではないでしょうか。

結論

オンジの研究はまだ多くないようです。したがって、少なくとも今の所は認知症の発症を予防したり、認知症の記憶障害を改善したりする効果があるとは言えません。

一方、健康な成人や高齢者の記憶力の向上を報告した研究がありますので、厚生労働省が認可したように「中年期以降の物忘れ」、特に疲労やストレスからくる物忘れには効きそうです。しかし、オンジを使ってもなかなか良くならない場合は、認知症を含めた他の病気の可能性を考える必要がありますので、はやめに医療機関へ相談してください。

参考文献
1.Lee J-Y, Kim KY, Shin KY, Won BY, Jung HY, Suh Y-H. Effects of BT-11 on memory in healthy humans. Neuroscience Letters. 2009 Apr 24;454(2):111–4.
2.Shin KY, Lee J-Y, Won BY, Jung HY, Chang K-A, Koppula S, et al. BT-11 is effective for enhancing cognitive functions in the elderly humans. Neuroscience Letters. 2009 Nov 13;465(2):157–9.
3.オンジ製剤の広告等における取り扱いについて http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000184936.pdf
4.鈴木達彦. 遠志(2). 医道の日本. 2003年11月:6-7.


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