今野先生コラム「食事で認知症予防」第3回:緑茶に含まれるテアニンの効果

2017年9月1日

ブレインケアクリニック院長 今野先生コラム「食事で認知症予防」

今野裕之先生

認知症予防の中でも特に関心が寄せられている「食事」。多くのメディアで様々な食材や栄養素が取り上げられる中、どんなものをどのように摂ったらよいのか、戸惑っている方も多いのではないでしょうか。

そこで、認知症予防のプログラムを提供するブレインクリニックの院長であり、栄養についても詳しい今野裕之先生が、栄養・食事についてシリーズで解説。皆さんに正しい情報をお伝えします。


この記事の執筆
今野裕之先生
ブレインケアクリニック 院長
今野裕之先生
この記事の目次
  1. テアニンって何?
  2. テアニンのリラックス効果
  3. テアニンが神経細胞を増やすかも!?
  4. テアニンを効果的に摂取する方法

テアニンって何?

緑茶に含まれるカテキンは有名ですが、テアニンという成分をはご存知でしょうか。テアニンはアミノ酸の一種で、緑茶に含まれるうま味成分の一つです。テアニンは緑茶の原料となるチャノキの根で作られ、幹を通って葉に運ばれていきます。テアニンは、摂取することにより、小腸で吸収されて血中に入り、脳まで運ばれることが動物実験によってわかっています(1)。

テアニンのリラックス効果

お茶を飲むとほっと落ち着いた気持ちになります。緑茶には神経を興奮させるカフェインも入っているのですが、その働きをテアニンが抑えているのではないかと考えられています。テアニン200mgを溶かした水と普通の水を被験者に服用してもらい、脳波を測定した実験では、テアニンを含んだ水の方がα波という脳波が多く出現しました(2)。α波とは、普通の人の場合ではリラックスした時に見られる波形です。

よく知られているように、ストレスは脳の萎縮や認知症の危険因子でもあります。ストレスによる不安や緊張を緩和するためにしばしば使用される抗不安薬では、副作用の一つとして眠気がでることがあります。しかし、先の脳波を測定した実験では、テアニンを摂取しても眠気に関連する脳波は認められませんでした。したがって、テアニンを摂取することはリラックスしながらも頭は冴えているという理想的な精神状態を保つのにも役立ちそうです。個人的な経験ですが、私自身もテアニンのサプリメントを服用して特に眠気は感じませんでした。

テアニンが神経細胞を増やすかも!?

一昔前までは、「神経細胞は一度減ったら増えることはない」というのが常識でした。しかし、今は違います。確かに加齢によって神経細胞が減っていくのですが、成人の脳にも「神経幹細胞」という、いわば神経の赤ちゃんがいて、条件次第では新しい神経細胞が生まれてくることがわかっています。さらにうれしいことに、神経幹細胞が多い場所は海馬という記憶力に関連するところです。2016年に発表された試験管内の実験では、神経幹細胞をテアニンと一緒に培養すると、神経細胞が増殖しやすいことがわかりました。そして、入れるテアニンの量が多いほど神経細胞の量が増えたそうです(3)。

これまで、認知症予防のために「認知症の原因物質がたまらないようにする」「記憶力に関係するアセチルコリンという物質を増やす」「老化の原因である酸化・炎症・糖化を抑える」といったアプローチがありましたが、さらに今回ご紹介したようなテアニンの研究成果によって、「神経細胞を増やす」という新たな観点から認知症予防ができる可能性が出てきました。

テアニンを効果的に摂取する方法

テアニンはお茶の葉に運ばれた後、日光によってタンニンなどのカテキン類に変化します。タンニンは渋みの成分であるため、テアニンのうま味を残すためには収穫前に日光が葉に当たらないようにしないといけません。このような作り方をしているお茶の代表が、玉露やかぶせ茶です。玉露の原料となる茶葉は、収穫の前、最低2週間程度日光を遮るようにして作りますので、その結果としてテアニンなどのアミノ酸の割合が増え、タンニンが減ります。テアニンをたくさん摂ろうと思ったら、日の光を浴び始めたばかりの新芽を摘んで作られる新茶がベスト。二番茶、三番茶と後になるにつれて減っていきます。ちなみに、テアニンはカテキンよりも低い温度で抽出されるので、テアニンのうま味を楽しみたい時は60度くらいの低い温度でお茶を淹れると良いですよ。

緑茶にはテアニンやカテキン以外にも、体に必要なビタミンやミネラル、食物繊維も含む、大変健康によい飲み物です。毎日飲んで、リラックスしたひと時を楽しみながら認知症予防に取り組みましょう。

参考文献
1.Yokogoshi H, Kobayashi M, Mochizuki M, et al. Effect of Theanine, r-Glutamylethylamide, on Brain Monoamines and Striatal Dopamine Release in Conscious Rats. Neurochem. Res. 1998;23(5):667–673.
2.小林加奈理, 長門有希子, 青井暢之, et al. L-テアニンのヒトの脳波に及ぼす影響. 日本農芸化学会誌. 1998;72:153–157.
3.Takarada T, Ogura M, Nakamichi N, et al. Upregulation of Slc38a1 Gene Along with Promotion of Neurosphere Growth and Subsequent Neuronal Specification in Undifferentiated Neural Progenitor Cells Exposed to Theanine. Neurochem. Res. 2016;41(1-2):5–15.


このページの
上へ戻る