レビー小体型認知症最前線~髙橋正彦先生インタビューPart1

2017年10月11日

クリニック医庵たまプラーザ 院長 髙橋正彦先生インタビュー

精神科と神経内科を主に、多くの認知症の患者さんを診ている「クリニック医庵たまプラーザ」で院長を務める髙橋正彦先生にお話を聞きました。老年精神科一筋で臨床医として活躍してきた高橋先生は、患者さんと家族に寄り添った認知症ケアを展開しています。

今回は、認知症の中でも情報が限られている、レビー小体型認知症について、その症状とケアについて解説していただきました。

話し手
髙橋正彦先生
クリニック医庵たまプラーザ 院長
髙橋正彦先生
この記事の目次
  1. 比較的新しい認知症「レビー小体型認知症」
  2. 実はレビー小体型とアルツハイマー型の合併が多い?
  3. レビー小体型認知症が疑われる特徴的なサイン
  4. 「ドネペジル」の作用はアルツハイマー型よりも早い

比較的新しい認知症「レビー小体型認知症」

──レビー小体型認知症とは、どのようなものなのでしょうか。

簡単に言うと、脳の大脳皮質や脳幹にレビー小体という特殊なタンパク質が溜まり、そのせいで神経細胞が壊れて、神経がうまく働かなくなってしまう認知症です。当クリニックには、多くのレビー小体型認知症の患者さんがいらっしゃいます。

──比較的新しい認知症だということですが、どのような背景があるのか教えてください。

レビー小体型認知症という診断がつけられるようになったのは、比較的最近のことです。約30年前は、すでに小阪憲司先生がレビー小体型認知症の病理学的概念を提唱してはおられましたが、診察時に診断名が告げられるようになってからは、15年ぐらいというところです。

実はレビー小体型とアルツハイマー型の合併が多い?

──レビー小体型認知症の人がアルツハイマー型認知症と診断されていたというケースも聞かれますが、診断は難しいのでしょうか。

まずここで強調しておきたいのは、レビー小体型とアルツハイマー型との合併がとても多いということです。しかし、脳を直接調べて診断する以外は、それぞれの重症度の程度を知ることはできません。患者さんと家族が、ある医師には「アルツハイマーですよ」と言われ、別の医師には「いやレビーです」と言われたといって、とても混乱して、当クリニックに来られることがあります。この場合、レビー小体型とアルツハイマー型の合併が考えられ、どちらかであると二者択一で診断名をつけることができないのです。

しかし、途中で診断名が変わったとしても、患者さんやご家族にとって、取り返しのつかないことになってしまうことはないと思います。今まで行ってきた治療が無駄になることはないということを、大事なポイントとして覚えておいてほしいですね。

──診断名が誤っていて問題になるケースはないのでしょうか。

レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症であれば、問題が生じることはあまりないといえます。ただし、それがそれ以外の認知症であれば、話は別です。起こりうる症状や治療の方針が変わります。さらに、いわゆる治る認知症、すなわち慢性硬膜化血腫や特発性正常圧水頭症などが原因である場合のように、早い時期に気づいて手術をすれば後遺症を残さずに治せるというケースがあるからです。

レビー小体型認知症が疑われる特徴的なサイン

──レビー小体型認知症には、ほかの認知症にはない特徴的な症状があるといいますが、それはどのようなものですか。

レビー小体型認知症では、レム睡眠行動障害、幻視、覚醒水準の変動(頭がはっきりしていうときと、ぼんやりしているときの差が激しい状態)、パーキンソン症状、うつ症状、自律神経症状などが特徴的な症状です。中でも、レム睡眠行動障害、幻視、うつ症状は、軽度認知障害(MCI)のときからみられる、前兆となる症状とされ、早期からレビー小体型認知症を疑うサインとなっています。

レム睡眠行動障害は、夜間睡眠中に夢をみているときに、声をあげたり、手足が動いたりするものです。夢に基づいた行動が現れる、大声をあげる、夢遊病的に動いてしまうなどがよく聞かれます。場合によっては、隣に寝ている人にけがをさせてしまうこともあります。レビー小体型認知症のサインとしてはよく知られるものです。 幻視は、実際にはないものが見えるという症状です。ある患者さんは「夜中トイレのドアの前に真っ赤な造花があったのですが、用を足して出できたらなくなっていました」とおっしゃっていました。

この時期には、まだ記憶力はよく保たれていることも多いので、見えたものや状況を明確に覚えていて、きちんと説明できることもよくあります。また、本人はそれが幻視であることを認識していることもあります。さらに、実際にあるものが別のものに見える錯視などの視覚の異常がみられることもあります。

レビー小体型認知症の前駆症状としてのうつ状態は、通常のうつ病と異なり、老年期に初めて発症し、抗うつ薬の効果がなかなか現れないという特徴があります。うつ病だと思い、効果が現れないまま薬物療法を続けていると、だんだん認知機能が落ちてきて、認知症のステージに入ってしまうということもあるので注意が必要です。

──前兆となるサインを元に戻すことはできるのでしょうか。

レム睡眠行動障害や幻視や夜間の異常行動は、薬で抑えることは可能です。うつ症状についても、薬や精神療法などで本人の気分を楽にすることはできます。しかしそれは、元の状態に完全に戻るというわけではありません。前兆とはいえ、やはり老化に関連しており、老化を止めたり、巻き戻すことはできないのです。

治療は、現在問題になっている症状を少しでも改善させ、日常生活に異常を来さないようにすることを目的に行います。治療することでずっと現在の症状のまま経過して悪化しない人もいれば、治療しても緩やかに認知症のステージに移行する人もいます。しかし、この段階から治療を行うことで、認知症のステージに移行するのを遅らせることができる可能性はあると考えています。

──どのような治療を行うのでしょうか。

レム睡眠行動障害に対しては、抗てんかん薬の一種を極少量使うことによって、病的な異状行動を抑えることができるとされています。 幻視に関しては、ドネペジルを少量使ってみることがあります。ただし、本人が幻視に対して不安を感じず、たぶん幻覚だなと症状を冷静にとらえられているようであれば、薬を使わずに経過をみる場合もあります。

うつ症状の場合は、抗うつ薬による治療を行い、それがうまくいかないときは、精神療法やカウンセリング、環境の調整などを行っていきます。

「ドネペジル」の作用はアルツハイマー型よりも早い

──レビー小体型認知症に対しては、どのような薬物療法を行うのでしょうか。先程アルツハイマー型認知症に対する治療も無駄にはならないとお話しになっていましたが。

現在、レビー小体型認知症に対して、臨床治験での有効性・安全性が認められ、厚労省によって適応が認められているのはドネペジルのみです。一方アルツハイマー型認知症に対して使用される薬剤は4種ありますが、もっともよく処方されるのはドネペジルです。したがって、アルツハイマー型認知症であってもレビー小体型認知症であってもドネペジルが使用されることには違いはありません。

その後、何らかの行動・心理症状(BPSD)が現れた場合には、それに応じていろいろな薬を使うことになります。その段階になったら、抗精神病薬に強く反応してしまう、レビー小体型認知症の特徴を考えていく必要が出てきます。

──ドネペジルの効果は、アルツハイマー型認知症の場合とレビー小体型認知症の場合とでは違いはないのでしょうか。

現在、レビー小体型認知症に対するドネペジルの効果は、アルツハイマー型認知症に対する場合よりも早く現れることが多いと考えられています。ドネペジルは記憶障害の改善に作用する一方で、覚醒レベルの改善や注意、集中力の改善作用もあり、レビー小体型認知症のぼーっとしている状態が改善するとされています。

レビー小体型認知症に対しては、早期であれば少量で比較的短期間のうちに改善がみられ、アルツハイマー型認知症の物忘れや意欲の改善に対しては、服用後2〜3カ月かけて緩やかに改善するということが多いようです。ですから、アルツハイマー型認知症であるとされていた患者さんが、ドネペジルを2週間飲み続けて頭がはっきりしてきたなどの症状の改善がみられた場合、レビー小体型認知症の可能性も考えるべきという専門家も少なくありません。

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