橘慶太税理士の相続コラム「成年後見制度の落し穴:概要とメリット・デメリット」
表参道相続税専門税理士事務所 橘慶太税理士の相続コラム
こんにちは。相続税専門の税理士の橘です。
認知症などの症状が悪化してくると、ご自分で介護施設への入居手続きや、費用を用意するために不動産を売却したりすることが難しくなってしまいます。
このような意思能力が低下してしまった人を助けることを目的として、平成12年に成年後見制度が導入されました。導入されて以来、利用者は毎年右肩上がりに増えており、現在では約20万人の方がこの制度を利用しています。
一方で、この成年後見制度が抱える問題も多く存在し、利用を踏みとどまってしまう方もたくさんいらっしゃいます。今回は、この後見制度の概要とその問題点について解説いたします。
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そもそも後見制度とはどのような制度なの?
判断能力が低下した人を守る制度です
成年後見制度とは、認知症や事故、精神障害などにより判断能力が低下してしまった人を守るために、親族や弁護士、司法書士などが、その本人に代わって財産管理や契約行為を行うことができる制度です。本人の代わりになってくれる人のことを後見人(こうけんにん)といい、判断能力の低下してしまった人のことを被後見人(ひこうけんにん)といいます。
任意後見制度と法定後見制度
後見制度には二つの種類があります。ご本人が元気なうちから、将来、自分が認知症になってしまった時のために、後見人を選んでおくことのできる任意後見制度というものと、既に判断能力が低下してしまったあとに、後見人を家庭裁判所が選ぶ、法定後見制度というものです。
いずれの制度を利用した場合においても、後見制度を開始した場合には、後見人が本人の代わりに、介護施設の入居の手続きや、銀行での預金の入手金、不動産の売却の代行などが行えるようになります。
後見制度の問題点
1:親族が後見人になれるとは限らない
家庭裁判所が任命
意思能力が低下してしまったあとに後見制度を利用する場合には、家庭裁判所が後見人を選ぶ、法定後見制度というものを利用しなければなりません。ここで多くの方が誤解しているのは、家庭裁判所が後見人を選ぶ場合、親族が選ばれる可能性は低いのです。では、誰が後見人に選ばれるかと言うと、まったく血のつながりのない、弁護士や司法書士といった法律の専門家たちが選ばれるのです。
平成27年時点において、後見制度利用者全体のうち約7割は、血のつながりのない第三者が後見人となっています。実務上は、その本人の財産額が大きくなるにつれ、親族が選ばれる可能性が下がります。後見制度を数多く経験されている弁護士に話を聞いたところ、明確な基準はないそうですが、財産が3000万を超えてくるようなケースには、弁護士や司法書士が選ばれる確率が非常に高いとのことでした。
家庭裁判所から選ばれた後見人と本人が、何年間もうまく付き合っていけるかどうかは、その本人たちの相性に全て委ねられます。もちろん人間ですから、うまくいくケースもあれば、そういかないケースもあることでしょう
後見人への報酬
なにより重い負担になるのは後見人への報酬です。後見人への報酬の相場は、月額3万円~6万円です。さらに、財産規模の大きい方であれば、後見人が不正を働いていないかをチェックする、後見監督人という別の役職者をつけなければいけないこととされており、この後見監督人にも月額1万~2万円程度の報酬を支払わなければいけません。
なお、任意後見制度であれば、親族が後見人になることができますが、その場合であっても、一定額以上の財産をお持ちであれば、後見監督人をつけなければいけなくなりますので、報酬の負担は覚悟しなければいけません
後見制度は途中で中止できない
これも多くの方が誤解をしているのですが、一度、後見制度を開始すると、本人の意思能力が回復するか、本人が亡くなるまで、後見制度を途中でやめることはできません。
意思能力は低下しても身体は元気という方もたくさんおられます。後見制度を利用する場合には、後見人への報酬を負担し続けることを覚悟したうえで利用を検討しなければいけない点に注意が必要です。
2:不正の増加
恐ろしいことではありますが、後見人が財産を着服してしまう事件が後を絶ちません。最高裁判所によると、平成27年に報告された不正はなんと521件であり、その被害総額は30億円以上!そのうち9割は親族が後見人となっていたケースです。
このような背景がありますので、家庭裁判所としては、親族を後見人に選ぶことに非常に慎重になっています。東京家庭裁判所では、1000万以上の資産を持っている方には、後見監督人をつける運用がはじまっているそうです。
しかし、最も恐いのは、親族ではない弁護士や司法書士による着服もあることです。平成27年には37件の不正があったことが報告されています。その方の財産を守ることが使命のはずの後見人が、その方の財産を着服してしまう…。このような悲しいことが実際に起きていることも、この制度の利用を検討している人は知っておかなければいけません。
3:後見制度を利用すると、できなくなることがたくさんあります
後見制度が開始されると、できなくなってしまうことがたくさんあります。代表例として挙げられるのは、相続税対策としての生前贈与です。後見人の役目は、その人の財産を守ることです。生前贈与は、その人の財産を減らす行為ですので、まったくもって、後見人の役目と反してしまうのです。
もし、本人が元気なうちに、生前贈与をたくさんしていきたい、という意向があったとしても、その意向が現在もあるかどうかを確認することはできません。家庭裁判所としては、そのような状況下では、生前贈与などの行為を認めるわけにはいかないのです。
同様の趣旨のもと、賃貸アパートの建替えや売却、株式や投資信託への投資、生命保険契約などもできません。繰り返しになりますが、後見人の役目は、財産を守ることであり、増やすこと、運用することが役目ではないのです。
もし、いつかは手放さなければいけない不動産や株式などがある場合には、その方がお元気なうちに、整理をしておかないと、後々大変なことになりますので、お早めに検討していただければと思います。
~まとめ~
いかがでしたでしょうか。後見制度は、意思能力が低下してしまった人のためには、なくてはならない制度ですが、問題点も多くある制度です。メリットとデメリットを理解し、専門家によく相談してから、この制度の利用を最終的に決めていただくことをお勧めします。
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