超音波と免疫療法の組み合わせ、アルツハイマー病治療に効果?

2017年5月1日

タウタンパク質を脳から除去できることが明らかに

超音波と免疫療法を組み合わせることで、アルツハイマー病を引き起こす原因物質のひとつである異常なタウタンパク質が脳から減少することが、オーストラリアの研究者らによって明らかにされました。研究結果は医学雑誌「ブレイン」に掲載されています。

タウタンパク質とは、中枢神経細胞の中に多く存在し、脳の神経ネットワークには欠かせないタンパク質ですが、タウタンパク質がリン酸化し、異常が生じると細胞内で不溶性の凝集を作り、脳神経細胞そのものを死に追いやります。

アルツハイマー病の原因は完全には明らかになっていませんが、このタウタンパク質の過剰なリン酸化とアミロイドβの蓄積によって脳神経細胞が死滅させられてしまうことが原因だとする説が有力です。

毛細血管と脳の間の”バリアー”を突破

現在、脳内の異常なタウタンパク質を破壊する可能性のある特殊な抗体(薬)が開発され、その特殊な抗体を静脈に注射する免疫療法が多く行われていますが、残念ながら免疫療法では特殊な抗体はほとんど脳へ到達しません。

脳の毛細血管と脳の間には「血液脳関門」と呼ばれる”バリアー”があります。このバリアーによって、毛細血管から脳へ到達できる物質はおよそ500Da(ダルトン:大きさの単位)という微小なサイズまでと言われているため、抗体のように大きなサイズだと、ほとんど脳に到達できないのです(厳密にはごくわずかに到達している場合がある)。

そのため、今回クイーンズランド大学の研究者らは、超音波でバリアーを突破し、特殊な抗体を脳内へ送り届けて、効果を高める研究を行いました。超音波を使用した方法は、最近注目されている方法のひとつです。

マイクロバブルに特殊な抗体を詰め、超音波を照射

この研究より以前、2015年の時点でオーストラリア・クイーンズランド大学の研究者らは、超音波の照射によってアルツハイマー病の兆候を後退させることに成功したと発表していました。遺伝子組み換えによりアルツハイマー病を発症させたマウスに超音波を照射したところ、アルツハイマー病の特徴のひとつであるアミロイドβが蓄積した「老人斑(アミロイド斑)」を除去することに成功。記憶力を改善する効果が確認されたのです。

今回、クイーンズランド脳研究所は、上記の超音波照射に免疫療法を組み合わせることで、さらに効果的な治療法を編み出しました。タウタンパク質の破壊に有効な特殊な抗体を超微粒の泡(マイクロバブル)に詰めた上で、超音波を照射。超微粒の泡が流れ出るようにしたところ、特殊な抗体は脳に到達し、タウタンパク質を破壊することに成功しました。

現時点では、この超音波と免疫療法を組み合わせた方法が人間にも有効であるかはっきりと言えません。しかし、もし有効だとわかり、副作用が少なければ、認知症だけでなく脳腫瘍やパーキンソン病などの新たな治療法となっていくことでしょう。

(画像は医学雑誌「Brain」掲載文より)

▼外部リンク
医学雑誌「Brain」掲載文[英文]


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