「母親の認知症診断がきっかけ」。映画『話す犬を、放す』監督が語る
映画『話す犬を、放す』
母の幻視に隠された想いとは?
売れない女優とレピー小体型認知症を発症した母の葛藤を独特のユーモアを交えながら温かく見つめ、人間賛歌へと昇華させたハートフルコメディ。
<STORY>売れない女優レイコのもとに、ある日、昔の仲間で人気俳優の三田から映画出演の話が舞い込む。しかし、母・ユキエがレビー小体型認知症を発症し、かつての飼い犬・チロの幻視に悩むようになってしまう。女優としてのキャリアと、母との生活を両立させようとするレイコだが…。
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013」にて、短編『世の中はざらざらしている』がノミネートされた熊谷まどか監督。そんな監督の初長編作品『話す犬を、放す』が11月2日、本年度第29回東京国際映画祭で上映されました。
上映後の特別トークショーで監督自ら語った「作品を発想するきっかけ」や「自らの母親がレビー小体型認知症と診断されたこと」など、お話の一部をご紹介します。
―――作品を発想するきっかけは何でしたか?
熊谷:私の母親がレビー小体型認知症と診断されまして、まず幻視が見えるという母の話があり、大変おかしくて。実際「フラダンスの人が来る」と母が言ってたことなので、まずこれを面白く映画にできないかなと思っておりました。母がそういう病気だということがわかってから、私と母の距離が少し縮まったという実感がありました。
老いていくということは、赤ちゃんから生まれて、大人になって、また赤ちゃんにもどっていくというひとつのサイクルになっていて、つながっているんだなと母の姿を見て思いました。
映画では犬でしたけど、母は猿が見えると言っていまして「散歩に行くと猿がいっぱい踊っているのよ」とか言われた日には、やっぱりおかしいですよね。
映画を書くにあたって、色々レピー小体型認知症のことをリサーチすると、幻視は本当に色々あるみたいで、「玄関先にエリザベス女王がお見えになっている」とおっしゃる方ですとか、蛇口をひねると亀が出てきたというお話とか、面白いなとすごく思います。
―――幻視を描くことの苦労は? また、幻視表現になった経緯を教えてください。
熊谷:映像でこの問題を扱う以上、幻視…同じ空間にいて違うものが見えているということは、やりたいなと思っていたことです。
吊るされている服が人に見えるというのは、何となく想像できると思いますが、一体何がどう現れたらいいのかということを、スタッフ間でも話しましたし、どう見えるかも話したんですけど、奇妙な違和感を表現するということ、風景の中に脈絡もなく、看護婦とかはっさくが現れる…というような画になりました。
―――幻視表現の中で犬を抽象的に描いた理由は?
熊谷:幻視以外にも、娘を偽者と思うという誤認妄想なども出てきますけど、そのひとつで、嫉妬妄想もあるみたいなんですね。たとえば、昔旦那さんに浮気されていた方は、旦那さんがベッドに女の人と入っていく幻視を見たりする。単に見間違いではなく、心の中の何かが見せている幻視というのもあるみたいです。今回に関して言うと、お母さんの心にずっと起こっていた何か、痛みみたいなものを現して犬にしました。
私が子供のころは、犬って庭先にある犬小屋につながれているのが普通で、狭いながらもお庭がある一戸建てに住んでいる、すごく家庭の象徴みたいなイメージがありました。家族の愛情が注がれる対象でもあるし、家庭の象徴でもある。家の中にずっといるということは、お母さんとも重なる部分があるということで選びました。昔飼われていたような犬は雑種が多くて、どこの馬の骨とも知れない雑種がいいなと思って。ずいぶん探していただきました。”めんまちゃん”というんですけど、やっと出会えためんまちゃんです。
―――SKIP映画祭のオープニング作品として応募された映画ですが、応募しようと思ったきっかけは?
熊谷:去年の5月に母の変化を目の当たりにしまして、何かお話にならないかなという想いがあり、公募のお話をいただいてから1ヶ月で脚本を書きました。撮影期間はわずか7日間です。
―――劇場公開されると多くの観客の皆さんに作品が観られるわけですが、期待と不安とどちらが大きいですか?
熊谷:やっぱり恐いです。ひとつには、観た人にどう受け止められるか内容の恐さもありますし、ちゃんとお客さんを呼べるかも恐い。 この作品をたくさんの方に見ていただきたいですし、ちゃんと育てていきたいなと思います。
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