認知症に繋がる前頭側頭野での細胞変性発生機序の一端解明
前頭側頭葉変性症をその発症由来とする認知症等の発症機序が明らかに
平成28年10月ゲノム編集技術及び患者由来のiPS細胞を用いた実験にて、認知症を引き起こす原因の1つである前頭側頭葉変性症の発症の機序が解明されたと、国立研究開発法人日本医療研究開発機構が発表しました。
なお、当該研究に当たったのは京都大学iPS細胞研究所(通称CiRA)、増殖分化機構研究部門井上治久教授及び今村恵子特定拠点助教授らによる研究グループと、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所グループです。
家族性による神経変性疾患のメカニズム解明に向けて
現在、超高齢化社会に見て取れるように人々の平均寿命は延伸されてきています。しかしその一方でこれらは、健康寿命と同等ではなく何らかの疾患を抱えた上でのこれであることが大半であり、とりわけ神経変性を抱える者が急増しているのです。
こうしたことから従来より、神経変性疾患の中でも認知症発症原因の一端を担う、前頭側頭葉変性症の病態についてiPS細胞の活用により研究が進められていたのですが、家族性による発症機序等については明らかとされてきませんでした。
そこで今回当該研究チームは、患者のiPS細胞を大脳皮質の神経細胞に成長させることでそのプロセスを辿り、それによって神経の変性を再現したのです。
また、家族性前頭側頭葉変性症の発症機序等については、特定の細胞だけを活性することの出来るDREADDという技術を用いることで、確かめられました。
カルシウムイオンの神経への過剰流入が家族性前頭側頭葉変性症に関係か
それによると、まず遺伝子のコピーに関わるイントロンとエクソン両者の変異が、当該患者のiPS細胞由来の大脳皮質神経細胞で確認されたのです。また、こうした変異の確認された細胞群では、過剰に折りたたまれたタウタンパク質の点状蓄積が見られました。
次に、神経細胞同士の情報伝達で重要な働きをするカルシウムイオンに着目し、人為的に患者由来のiPS細胞による神経細胞と通常の神経細胞へ電気刺激を与えたところ、患者由来の細胞にて過剰にカルシウムイオンが分泌されていたのです。これは、当該神経の過興奮を引き起こすことを指し示します。
そして、過剰に折り込まれたタウタンパク質の存在と、カルシウムイオンの過剰分泌による過興奮間での関連性について検証しました。すると、両者間に関連性が見られたのです。
具体的には、カルシウムイオンの流入を阻害したところ変質を呈している神経細胞での、異常タウタンパク質の減少が確認されました。
また、先の検証にて家族性前頭側頭葉変性症神経細胞が、そうでない通常の神経細胞と比べ早く細胞死を迎えることが明らかとなっていました。ですが、当該細胞へのカルシウムイオンの流入を抑えることで、より長く生存することも判明したのです。
以上のことから家族性前頭側頭葉変性症は、当該神経細胞へのカルシウムイオンの調節異常とそれによる過剰流入が、その発症に大きく関わると言えます。
これら研究結果は、当該疾患の応用研究へと繋がるもので同分野の研究への貢献が望まれます。
▼外部リンク
患者さん由来iPS細胞とゲノム編集技術を用いて、認知症・パーキンソニズムを来す前頭側頭葉変性症のメカニズムの一端を解明
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