【浦上先生インタビュー】日本認知症予防学会立ち上げのきっかけと予防への取り組み
認知症は「予防できない病気」から「予防できる」という認識に変わりつつあります。そんな中、発足したのが日本認知症予防学会。今回は、日本認知症予防学会の初代理事長を務める浦上先生に、学会立ち上げのきっかけや学会での取り組みについてインタビューしました。
今後もその患者数が増加し続けると考えられている認知症。厚生労働省の発表によると、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人は認知症を患っていると推測されています。そんな認知症を早期に予防・対策することを目的として2011年に設立されたのが「日本認知症予防学会」です。
今回は、その初代理事長を務める鳥取大学医学部の浦上克哉先生に、日本認知症予防学会を立ち上げることになったきっかけや、予防学会で行っている取り組み、今後の展望についてお聞きしました。
認知症は「なりたくないもの」だからこそ予防を
―そもそも、日本認知症予防学会を立ち上げたきっかけとはどのようなものだったのでしょうか。
認知症に関する学会は既に沢山存在するので、最初は、学会を新たに作るなんてナンセンスだと思っていたのです。それでも、日本認知症予防学会を立ち上げることになったきっかけは、私が講師をさせて頂いたフォーラムです。
アリセプトというアルツハイマー型認知症の進行を抑制する薬を紹介し「認知症になっても安心ですよ」というメッセージを伝えるフォーラムだったのですが、参加されたみなさんは、どの地域の人でも「なっても安心なのはうれしいですが、私は認知症になりたくないです」と言われるのですよね。そこで、これが国民のニーズだな、と。やっぱりなりたくないものですから、認知症予防というものを真剣に取り組んでいかなければならないと思ったのです。
―その当時の認知症に関する世の中の認識はどのようなものだったのですか。
今でこそ、認知症予防というものは当たり前になっていますが、当時、認知症は予防できないと言われていました。アルツハイマー型認知症は治らない病気で、治らないものを予防できるわけがないだろう、というのが、専門医の大方の考えでした。そのため、予防の学会を立ち上げたら徹底的にたたかれてしまうような雰囲気でした。
しかしその後、世の中に認知症予防の可能性を示唆するさまざまなデータが出てきて、風向きが変わり、6年前に予防学会を立ち上げたのです。
―実際に日本認知症予防学会を立ち上げて、反響はいかがでしたか。
最初は批判的な声もありました。私自身、先ほども言いましたように、学会を作ることに最初は前向きでなかったですし。ただでさえ学会が多い中で、既存の学会の考えが前提で動かないのなら意味がないだろうという気持ちもありました。
しかし、おおむね一般の方々にも喜んで頂けて、会員もこの5年間の間で1,000名も増えました。予防に関する意識の高い方々が参加し、会員になってくださっていると感じています。
発症予防だけでなく早期発見、進行防止も予防のひとつ
―日本認知症予防学会で言うところの認知症予防とはどのようなものなのでしょうか。
認知症予防と言っても、発症予防だけではなく、すべての予防のことを言っています。 予防には厳密に言うと狭い意味での予防と広い意味での予防があって、狭い意味の方はいわゆる病気の発症予防。これは第一次予防と言います。
広い意味のものは病気の早期発見・早期治療です。ご本人も自覚していない、自覚があったとしても症状がほとんどないか軽いなどで見逃してしまうことがあります。そういったケースを早期に発見し治療に結び付ける、これが広い範囲での予防であり、第二次予防と言います。
第三次予防と言うのが病気になった方への進行の予防で、この三段階の予防を、私たちの予防学会では「予防」としているのです。
―進行を抑えることも予防に含まれるのですね。
認知症の症状でもっとも問題となるのが認知症のBPSD(周辺症状)です。しかし、BPSDは予防できます。このBPSDの予防が、第三次予防で最も重要と考えます。
BPSDでは、認知症患者の方が暴力をふるったり暴言を吐いたりということも見られますが、患者は最初から暴力や暴言があったわけでなく、我慢しています。そして我慢の限界がくると、そのように急に大きな声を出したり、暴れたりしてしまうのです。そういった変化に早く気づいてあげて先手を打っていくといったケアが重要です。
BPSDは、先手を打ったケアができれば予防できる「つくられた症状である」ともいわれています。接し方を工夫したり、その患者への理解を深めたりすることで、防ぐことが可能なのです。
認知症予防に重要となる「横との連携」
―認知症患者が増え続けている現在、認知症予防にとって何が必要だと思われますか。
それは、この学会を作らないといけないと思った理由のひとつでもありますが、横の連携を整えることです。多職種連携、地域連携しっかり、これはずっと言い続けているものです。
これからは、地域連携、他職種協働が必要です。他職種の人が一同に会するような学会がないと、本当の連携はできないと思います。
―実際に行われている横の連携への取り組みとは。
実際に琴浦町で地域連携の取り組みを始めています。12年前に琴浦町の保健師さんが私のところに来られて、早期発見の相談を受けたのがきっかけです。保健師さんとしては、患者や家族が3年前や5年前から症状を感じていたのに相談に来ない、何かよい対策はないかと、私に相談に来たんですね。それから琴浦町との連携が始まりました。認知症の早期発見や、軽度認知障害の人を見つけて早期治療と予防をしていく、という活動です。
―活動を始めて変化はありましたか。
それはもう明らかにありました。MCIからの認知症への進行の予防や改善など。また、地域連携の取り組み事態が啓発活動になっていると感じています。住民に理解してもらうために市民フォーラムを行ったりもしています。
私のこれまでの経験で言うと、市民フォーラムなどを行っても結局他人事といった感じが多かったんですね。自分の事として、本当に、真剣に考えているかと言ったら、そうじゃない。
しかし、琴浦町の場合、地域連携で検診などを行っているからか、みなさんが自分のこととして本当に真剣に考えるようになるんですね。 だからやはり、地域連携での活動は、MCIや早期認知症の方を見つけるための取り組みではあるけれども、しっかりとした啓発活動にもなっているのだと感じます。
■人材育成にも取り組んでいきたい
―今後はどのようなことを進めていきたいと考えていらっしゃいますか。
今考えていることとしては、認知症予防専門士という、認知症予防をしっかりと学んで技術を身に着けた人材を育てていくことです。現在、認知症予防における問題点として、人材の不足があります。不足というよりはほとんどない状況ですね。介護の分野では認知症ケア専門士がありますが、予防に携わる人材がやはり必要だと考えています。 予防専門士が講義を行い、参加者に認知症予防の活動の一翼を担って頂けるようになれば、と考え、取り組みを進めています。
それから、臨床検査技師ですね。臨床検査技師というのは、これまで認知症診療業務にほとんどタッチしてきていません。認知症は、半分以上のケースで精神科の先生が診ています。ただし、精神科の医療機関の多くは、髄液検査、エコー検査、他の臨床検査ができる環境が整っていないところが多いです。CTやMRIは撮れますが、動脈硬化の程度やそれに伴う脳血流が悪くなっているかなどの動的な変化というのは、やはりエコーなどをやらない限りわからないのです。やはり、そういうところをきちんと診ることのできる臨床検査技師というのは必要だと考えます。
私としては、今ある認知症疾患医療センターに一人は臨床検査技師が配置されるような、そういう仕組みにならないといけないのではないかと考えています。
―組織を作り、人材を育て、配置し、横の連携を構築していく。認知症の方が増えていく社会に向けて必要な仕組み作りに取り組まれていることがよく分かりました。本日はありがとうございました。ありがとうございました。
■■編集後記■■
浦上先生にお話を伺いました。認知症の予防というと発症予防を想像しがちですが、発症予防だけでなく早期発見・早期治療、進行防止のすべてを予防と捉え、これからの社会に向けて、「必要だけど足りていない」ものに取り組まれています。
認知症ねっとでも、日本認知症予防学会の今後の活動を追いかけて行きたいと思います。
浦上先生のプロフィール
医学博士
日本認知症予防学会 理事長
NPO法人高齢者安全運転支援研究会 理事
【主な著書】
- 【PR】治験参加者募集中!もの忘れなどのある高齢者でも、安心して使える睡眠治療薬の提供を目指して
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